ローマに現存する「魔法の門」と背景にある錬金術的な思想について
ローマの一角に、「魔法の門」とか「錬金術師の門」と呼ばれるルネサンス期の小門がある。
元はパロンバーラ邸にあったらしいのだが、荘園が解体される際に門だけ取り外され、移動させられた。現在ではトリップアドバイザーやWikipediaにも載っているフォトジェニックな観光スポットの一つである。
なにやら意味深な図像が刻まれ、いわくありげなその門の来歴を詳しく説明した本が出ていた。
魔法の門[ポルタ・マジカ]─ローマに遺された錬金術象徴の秘密 - ガブリエレ ミーノ, 大橋 喜之
※本の表紙は「Porta Magia」だが、Wikiだと「Porta Alchemica」という名前で出ている
ざっくり言うと、この門の製作者は錬金術にハマっていた17世紀の貴族である。錬金術というと現代ではオカルトや迷信のたぐいだが、当時はインテリ層のハマる高尚な学問の一つであり、化学と哲学と神学の中間のような存在だった。
永遠の命や賢者の石、金の生成といった夢物語を追って、王侯貴族がこぞって詐欺師相手に浪費していた時代である。なので門に刻まれた印や文言は、錬金術の文脈から読み解く必要がある。
余談だが、17世紀にはまだ「科学」という学問ジャンルは成立していない。「最後の錬金術師」と呼ばれるのはアイザック・ニュートンで、彼の生きたのが17世紀末~18世紀初頭であった。逆に言えば、この門が作られたのは錬金術がまだ全盛期だった頃ということだ。
で、なんでこの本手に取ったかというと、ルネサンス期の錬金術界は古代エジプトネタが多いからだ。そう、エジプト(いつもの)
ミイラや、まだ解読されていないヒエログリフといった神秘的な遺物、それに加えてホラポロなどギリシャ語で残された、断片的なエジプト神話の世界の情報。古代エジプト人の持っていた「死語の永遠=永遠の生」という思想も、「賢者の石」に通じるものとして理解されていた。
献金術にハマっていたのは知識人階級なので、教養はあるんだなというのは分かる。情報が少ないながら、当時としてはエジプト通なところもある。ただ…ただ、解釈の方向は、現代を生きる我々からすると、完全に明後日な方角である…。
というかそもそもヒエログリフは文字であって、一文字ずつに神秘的な意味があるというわけではなかったので、そこからして間違えているのだが。
ちなみに「魔法の門」もエジプト絡みであり、両脇に建てられている像はベス神をモチーフにしている。門の周囲に刻まれた惑星記号にもエジプト神が充てられている。つまり、これは海外に輸出されたエジプト神話の最終形態でもある。
最後の古代エジプト語話者がこの世から消えて、1000年以上が経過した世界。
ローマで崇拝されたイシス女神が元のエジプトでの姿とは全然違っていたように、17世紀ローマにおけるイシスやホルス、オシリスも、スカラベ、太陽円盤といったシンボルも、既に古代エジプトの時代とは違う意味を持つようになっていた。
元はパロンバーラ邸にあったらしいのだが、荘園が解体される際に門だけ取り外され、移動させられた。現在ではトリップアドバイザーやWikipediaにも載っているフォトジェニックな観光スポットの一つである。
なにやら意味深な図像が刻まれ、いわくありげなその門の来歴を詳しく説明した本が出ていた。
魔法の門[ポルタ・マジカ]─ローマに遺された錬金術象徴の秘密 - ガブリエレ ミーノ, 大橋 喜之
※本の表紙は「Porta Magia」だが、Wikiだと「Porta Alchemica」という名前で出ている
ざっくり言うと、この門の製作者は錬金術にハマっていた17世紀の貴族である。錬金術というと現代ではオカルトや迷信のたぐいだが、当時はインテリ層のハマる高尚な学問の一つであり、化学と哲学と神学の中間のような存在だった。
永遠の命や賢者の石、金の生成といった夢物語を追って、王侯貴族がこぞって詐欺師相手に浪費していた時代である。なので門に刻まれた印や文言は、錬金術の文脈から読み解く必要がある。
余談だが、17世紀にはまだ「科学」という学問ジャンルは成立していない。「最後の錬金術師」と呼ばれるのはアイザック・ニュートンで、彼の生きたのが17世紀末~18世紀初頭であった。逆に言えば、この門が作られたのは錬金術がまだ全盛期だった頃ということだ。
で、なんでこの本手に取ったかというと、ルネサンス期の錬金術界は古代エジプトネタが多いからだ。そう、エジプト(いつもの)
ミイラや、まだ解読されていないヒエログリフといった神秘的な遺物、それに加えてホラポロなどギリシャ語で残された、断片的なエジプト神話の世界の情報。古代エジプト人の持っていた「死語の永遠=永遠の生」という思想も、「賢者の石」に通じるものとして理解されていた。
献金術にハマっていたのは知識人階級なので、教養はあるんだなというのは分かる。情報が少ないながら、当時としてはエジプト通なところもある。ただ…ただ、解釈の方向は、現代を生きる我々からすると、完全に明後日な方角である…。
というかそもそもヒエログリフは文字であって、一文字ずつに神秘的な意味があるというわけではなかったので、そこからして間違えているのだが。
ちなみに「魔法の門」もエジプト絡みであり、両脇に建てられている像はベス神をモチーフにしている。門の周囲に刻まれた惑星記号にもエジプト神が充てられている。つまり、これは海外に輸出されたエジプト神話の最終形態でもある。
最後の古代エジプト語話者がこの世から消えて、1000年以上が経過した世界。
ローマで崇拝されたイシス女神が元のエジプトでの姿とは全然違っていたように、17世紀ローマにおけるイシスやホルス、オシリスも、スカラベ、太陽円盤といったシンボルも、既に古代エジプトの時代とは違う意味を持つようになっていた。