女神サティスとソティスについてー混同されやすいエジプト神話の女神たち
発端→「古代地中海世界と文化的記憶」という本で、「ギザのスフィンクの文化的記憶」という節に、以下のような記述があった。
まず、事実としてサティス女神の名前の由来はシリウス星ではない。シリウス星は古代エジプト語ではソペデトで、そこから発生した女神名はソティスだからだ。
サティス女神はナイル上流、神話上の水源があるとされたアスワン付近の守護女神で、ナイルの増水に関連づけられた神話を持っていた。
ソティス女神はシリウス星そのもので、シリウスの瞬きがナイルの増水開始時期と結び付けられ、古代人はシリウスを観測して季節を知ったという。
この二種の神話と、名前が似ていることからの混同で妙な記述になってしまったのだと思われる。
ただ、それだけだと「著者のただの勘違いじゃん」になってしまう。
実はここにはもうひとつ面倒くさい事情がある。そもそもソペデトというエジプト語をギリシャ語に直して「ソティス」にする際に、ギリシャ人はサティスとソティスの区別がついていなかったようなのである。
以下にわかりやすくまとめてみる。
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■サティス女神
アスワン地方の女神で、狩りの女神。標章は弓矢と獲物の皮。語源は「撃つ女」か「注ぐもの」とされている。

古代エジプト語名 サテト → ギリシャ語名 サティス
■ソティス女神
シリウス星の擬人化で、のちにイシス女神と同一視された。標章は星。夫サフはオリオン座の擬人化で、オシリス神と同一視された。

古代エジプト語 ソペド、またはソプデト → ギリシャ語名 ソティス
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情報をまとめると全然別ものの女神なのだが、ともに「ナイル川の増水をもたらす者」という属性があったことや、ギリシャ語に直される過程でsttとspdtの音がギリシャ人にとって発音しやすいよう丸められてしまったことが混同の原因となったらしい。
ソティス女神の名前自体、サティスという名前から派生したと書かれているテキストもあった。(だとすれば、ソティスというギリシャ語名の由来がサティスであるという話になるが、冒頭の勘違いは名そこから生まれた可能性もある)
というわけで、大元のエジプト神話ではサティスとソティスは別もので、シリウス星が名前の由来なのはソティスのほうである。
しかしギリシャ人は区別がついてなかったので、後世には混同されていた。というかアレクサンドリアのグレコ=ローマン博物館などにいくど、その当時の神話として、ソティスはイシス女神の別名扱いで展示されていたりするので、ヘタしたらサティスもイシス女神の別名にされていることがあるかもしれない。
神話は変化するものだ。時代によって解釈は異なる。
ただ、大元の語源とか、名前の由来の部分は、時代の解釈とは別ものなので…。
ついでなのだが、ずいぶん昔に見つけて「何でこんな勘違いになったんだろう」と思っていた、ソティス女神が男性神だという記述も、勘違いの理由がわかった。
ソティスの画像が間違えている。(なんと2008年の記事だった…)
https://55096962.seesaa.net/article/200802article_31.html
英語ではシリウス星のことをdog starという。犬の顔をしたアヌビス神をシリウス星と結びつける勘違いが、少なくともルネサンス期から、オカルトの文脈として存在したらしい。
アヌビス神は男神なので、シリウス星を男性だと勘違い → ソティスの画像を探すときに、ソティスとセットになっている男神のほう、サフ神を選択してしまった という流れだと思われる。ちょいちょいソティスを男性と間違えている本を見かけて、何でだろうと思っていたが、前段にアヌビス神との混同があったと分かると、なるほどなぁという感じである。
英語圏からの翻訳をする際に翻訳者がエジプト神話に疎いと、疑問にも思わないんだろうなと察した。
些細な勘違いだが、辿っていくと意外と歴史が長いのであった。
"そのサティス神殿の軸線は女神の名前の由来ともなる恒星シリウスに焦点が向けられつつ、神殿自体は暦のうえでは真冬の日の出に向くように設計されていた。"
まず、事実としてサティス女神の名前の由来はシリウス星ではない。シリウス星は古代エジプト語ではソペデトで、そこから発生した女神名はソティスだからだ。
サティス女神はナイル上流、神話上の水源があるとされたアスワン付近の守護女神で、ナイルの増水に関連づけられた神話を持っていた。
ソティス女神はシリウス星そのもので、シリウスの瞬きがナイルの増水開始時期と結び付けられ、古代人はシリウスを観測して季節を知ったという。
この二種の神話と、名前が似ていることからの混同で妙な記述になってしまったのだと思われる。
ただ、それだけだと「著者のただの勘違いじゃん」になってしまう。
実はここにはもうひとつ面倒くさい事情がある。そもそもソペデトというエジプト語をギリシャ語に直して「ソティス」にする際に、ギリシャ人はサティスとソティスの区別がついていなかったようなのである。
以下にわかりやすくまとめてみる。
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■サティス女神
アスワン地方の女神で、狩りの女神。標章は弓矢と獲物の皮。語源は「撃つ女」か「注ぐもの」とされている。
古代エジプト語名 サテト → ギリシャ語名 サティス
■ソティス女神
シリウス星の擬人化で、のちにイシス女神と同一視された。標章は星。夫サフはオリオン座の擬人化で、オシリス神と同一視された。
古代エジプト語 ソペド、またはソプデト → ギリシャ語名 ソティス
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情報をまとめると全然別ものの女神なのだが、ともに「ナイル川の増水をもたらす者」という属性があったことや、ギリシャ語に直される過程でsttとspdtの音がギリシャ人にとって発音しやすいよう丸められてしまったことが混同の原因となったらしい。
ソティス女神の名前自体、サティスという名前から派生したと書かれているテキストもあった。(だとすれば、ソティスというギリシャ語名の由来がサティスであるという話になるが、冒頭の勘違いは名そこから生まれた可能性もある)
というわけで、大元のエジプト神話ではサティスとソティスは別もので、シリウス星が名前の由来なのはソティスのほうである。
しかしギリシャ人は区別がついてなかったので、後世には混同されていた。というかアレクサンドリアのグレコ=ローマン博物館などにいくど、その当時の神話として、ソティスはイシス女神の別名扱いで展示されていたりするので、ヘタしたらサティスもイシス女神の別名にされていることがあるかもしれない。
神話は変化するものだ。時代によって解釈は異なる。
ただ、大元の語源とか、名前の由来の部分は、時代の解釈とは別ものなので…。
ついでなのだが、ずいぶん昔に見つけて「何でこんな勘違いになったんだろう」と思っていた、ソティス女神が男性神だという記述も、勘違いの理由がわかった。
ソティスの画像が間違えている。(なんと2008年の記事だった…)
https://55096962.seesaa.net/article/200802article_31.html
英語ではシリウス星のことをdog starという。犬の顔をしたアヌビス神をシリウス星と結びつける勘違いが、少なくともルネサンス期から、オカルトの文脈として存在したらしい。
アヌビス神は男神なので、シリウス星を男性だと勘違い → ソティスの画像を探すときに、ソティスとセットになっている男神のほう、サフ神を選択してしまった という流れだと思われる。ちょいちょいソティスを男性と間違えている本を見かけて、何でだろうと思っていたが、前段にアヌビス神との混同があったと分かると、なるほどなぁという感じである。
英語圏からの翻訳をする際に翻訳者がエジプト神話に疎いと、疑問にも思わないんだろうなと察した。
些細な勘違いだが、辿っていくと意外と歴史が長いのであった。