ヒエログリフ解読の罠と神秘主義の記憶、「ヒエログリフィカ」を読んでみた
「ヒエログリフィカ」、または「ホラポッロのヒエログリフ集」と呼ばれているものがある。
錬金術や神秘主義的な資料ではよく見かける名前であり、ロゼッタ・ストーンを手にした初期のヒエログリフ解読者を惑わした本としても知られている。その正体は、ヒエログリフが使われなくなり、ギリシャ語と合体したコプト語へと置き換わっていく5世紀頃にホラポッロなる人物によって書かれたと思われる、「ヒエログリフが何を意味していたか」という覚書きが、15世紀~16世紀頃に翻訳されて出回ったものになる。
ヒエログリフ集 (エンブレム原典叢書) - ホラポッロ, 博明, 伊藤
大元の本が書かれた時代には、まだかろうじて古代エジプトの記憶が残されていたし、古代エジプト語の後継であるコプト語も日常用語だった。
なので、一部には正確にヒエログリフの知識が反映されている。というか一巻はだいたいあってる。
が、二巻になると、ほぼ違うというかギリシャ語資料から推測した(?)、中途半端に間違えた内容となっている。
どういうことかは、例を見ると分かると思う。
禿鷹、と言ってるのは、ムト女神の象徴となっているハゲワシのことだと思われる。
ムトという名前は「母」を意味する言葉から来ている。名前にもハゲワシが入っている。なので「母を表すのにハゲタカ(の文字)を書く」は正しい。ここで述べられているのは、ヒエログリフの綴りの話になる。
ただ、ハゲワシの文字自体に「母」や「一年」という意味があるわけではなく、単にmの音を表しているだけに過ぎない。ホラポッロの書き方では、表音文字という機能を認識しておらず、神秘的な表意文字として意味の部分だけを強調している。
この内容では、ハゲワシの文字が何の音を表しているかわからないため、ヒエログリフ解読の役には立たないのである。
かつてヒエログリフが言葉として読み解けなかった時代、この本が正しいとされていた時代には、ヒエログリフは一文字一文字が深遠な意味を持つ、神秘的なシンボルと解釈されてきた。その解釈が、ルネサンス時代のオカルト的な思想や錬金術にも頻繁に使われていた。
そうではなく、ヒエログリフが表しているのは音と、意味を表す決定詞(漢字で言う「偏」に当たる)だった。
そこにたどり着くまでに、数多くの解読者たちが玉砕、または明後日な翻訳をしてしまった一因が、この本なのだ。
とはいえ、一部はヒエログリフの正しい知識だし、古代エジプト語の知識が完全に忘れ去られる前に書かれたことは確かだと思われる。その意味では貴重な資料ではある。
また、ヒエログリフが完全に忘れ去られた時代においては、他に頼れる資料も無く、古い書物にかかれているんだからこれが正解なはず! と思い込むのも仕方なかったんだと思う。「なんでこんな怪しい本信じちゃったん…内容ぜんぜんちゃうやん」と思うのは、ヒエログリフの解読方法を知っている現代人だからなのだ。
自分としては、ヒエログリフの知識のうち何が最後まで残ったのか、どのようにギリシャ文化と融合していったのかの過程がうっすら見えるのが面白いなと思いながら読んだ。
もしもロゼッタ・ストーンが見つかっていないか、まだ解読されていなかったなら、みんな今でもこの本の中身を正解だと信じてしまっていたかもしれない。
錬金術や神秘主義的な資料ではよく見かける名前であり、ロゼッタ・ストーンを手にした初期のヒエログリフ解読者を惑わした本としても知られている。その正体は、ヒエログリフが使われなくなり、ギリシャ語と合体したコプト語へと置き換わっていく5世紀頃にホラポッロなる人物によって書かれたと思われる、「ヒエログリフが何を意味していたか」という覚書きが、15世紀~16世紀頃に翻訳されて出回ったものになる。
ヒエログリフ集 (エンブレム原典叢書) - ホラポッロ, 博明, 伊藤
大元の本が書かれた時代には、まだかろうじて古代エジプトの記憶が残されていたし、古代エジプト語の後継であるコプト語も日常用語だった。
なので、一部には正確にヒエログリフの知識が反映されている。というか一巻はだいたいあってる。
が、二巻になると、ほぼ違うというかギリシャ語資料から推測した(?)、中途半端に間違えた内容となっている。
どういうことかは、例を見ると分かると思う。
禿鷹、と言ってるのは、ムト女神の象徴となっているハゲワシのことだと思われる。
ムトという名前は「母」を意味する言葉から来ている。名前にもハゲワシが入っている。なので「母を表すのにハゲタカ(の文字)を書く」は正しい。ここで述べられているのは、ヒエログリフの綴りの話になる。
ただ、ハゲワシの文字自体に「母」や「一年」という意味があるわけではなく、単にmの音を表しているだけに過ぎない。ホラポッロの書き方では、表音文字という機能を認識しておらず、神秘的な表意文字として意味の部分だけを強調している。
この内容では、ハゲワシの文字が何の音を表しているかわからないため、ヒエログリフ解読の役には立たないのである。
かつてヒエログリフが言葉として読み解けなかった時代、この本が正しいとされていた時代には、ヒエログリフは一文字一文字が深遠な意味を持つ、神秘的なシンボルと解釈されてきた。その解釈が、ルネサンス時代のオカルト的な思想や錬金術にも頻繁に使われていた。
そうではなく、ヒエログリフが表しているのは音と、意味を表す決定詞(漢字で言う「偏」に当たる)だった。
そこにたどり着くまでに、数多くの解読者たちが玉砕、または明後日な翻訳をしてしまった一因が、この本なのだ。
とはいえ、一部はヒエログリフの正しい知識だし、古代エジプト語の知識が完全に忘れ去られる前に書かれたことは確かだと思われる。その意味では貴重な資料ではある。
また、ヒエログリフが完全に忘れ去られた時代においては、他に頼れる資料も無く、古い書物にかかれているんだからこれが正解なはず! と思い込むのも仕方なかったんだと思う。「なんでこんな怪しい本信じちゃったん…内容ぜんぜんちゃうやん」と思うのは、ヒエログリフの解読方法を知っている現代人だからなのだ。
自分としては、ヒエログリフの知識のうち何が最後まで残ったのか、どのようにギリシャ文化と融合していったのかの過程がうっすら見えるのが面白いなと思いながら読んだ。
もしもロゼッタ・ストーンが見つかっていないか、まだ解読されていなかったなら、みんな今でもこの本の中身を正解だと信じてしまっていたかもしれない。