人類の「出アフリカ」は一直線の道ではなかった。最近のトレンド学説が複雑怪奇に
人類の祖先はアフリカが故郷で、アフリカから世界に広がっていった…というのは、現在までの定説である。しかし今、その道程は一直線ではなかったことが分かってきている。
簡単に言うと、出たり入ったり、進んだり戻ったり、集団が分裂したり再合流したりを何度も繰り返していることが常識となりつつあるのだ。
…まあ考えてみれば当たり前の話で、気候変動によってその時々に条件は変わる。現代のように国境はないし、クーラーや暖房など環境を調整する設備もない。住みやすい場所を目指して移動するのは当然。その過程で、来た道を戻ってはいけないはずもない。
前提となる研究は、たとえば以下がある。
人類、アフリカを出たり入ったり。アラビア半島の砂漠から数々の証拠が見つかる
https://55096962.seesaa.net/article/202109article_5.html
→出アフリカイベントは実は何度もあった。
気候が良くなるとアラビア半島まで来て悪化すると戻る、を繰り返してる痕跡がある
現代アフリカ人にまじるネアンデルタール人のDNAはヨーロッパ由来。という研究結果が出る
https://55096962.seesaa.net/article/202002article_3.html
→ネアンデルタールは現生人類より先にアフリカを出ていたはずだが、実際は現代のアフリカ人にはネアンデルタールのDNAが少しだけ入っている。これはどこかのタイミングで戻ってきた連中がいたからとされる。(場所によっては植民地支配の頃に混じったものもある)
また、最近でた記事だと以下。
初期人類と交雑した未知の種「ゴースト」などいなかった、新説
https://natgeo.nikkeibp.co.jp/atcl/news/23/051900247/?P=2
→未知の種との交雑があったのではなく、ホモ・サピエンス内でいったん分離して再合流した集団がいた可能性があるという結論に。
論文としては、以下がある。
A weakly structured stem for human origins in Africa
https://www.nature.com/articles/s41586-023-06055-y
→この論文だと、「単一の祖先から樹木型に枝分かれしていくモデルだと現在の我々の遺伝子の多様性と一致しない」となっている。これは当然の話で、最初に挙げた前提となる研究を見れば分かるように、「出ていったけど戻ってきた」という集団が何度か再合流しているからだ。
論文内で提案されたモデルは、こんな感じでもはや系統「樹」とは呼べない文様のような形になっている。
(bモデルのほうを見てほしい。下部にかかれている「Nama」「Menda」などは、その地域を代表して調査された部族名。ヨーロッパ代表はイギリス人になっている。)
このbのモデルを採用することで現代人のDNAと高い確率で一致するようにはなるのだが、だとすると、これまで暗黙の前提となってきた、「現代のアフリカに生存する部族は大昔からずっとアフリカにいた人々に違いない」という内容も、誤りだったと認識するしかない。
実際、現代人には、植民地支配の時代に由来するヨーロッパ系のDNAもかなり混じっているし、東アフリカと西アフリカで繋がっている部分があるなど、おそらく過去に大規模な集団移住などがあったのだろうと思われる部分もある。
アフリカは確かに遺伝的な多様性の大きい、ホモ・サピエンスの故郷ではあった。
しかしてその内実は、昔からずっと同じ場所にとどまり続けた人々の、変わらない世界ではなかったのだ。
この話は今のところ、現代人のDNAを元にモデル化したシミュレーションでしかない。各段階の古代人のDNAを手に入れて確認するというのは難しい。
とはいえ、人類の歴史と世界への拡散の道のりは、実は行きつ戻りつの試行錯誤であり、かつて言われていたような「出アフリカ」という言葉から想像されるただ一度きりのイベントではなかった、というのは、認識を改めておきたいところである。
*****
あと、おまけ
人類の起源と古人類学の常識の転換期:現在何が問題になってるかということ
https://55096962.seesaa.net/article/202204article_7.html
脳がデカいからとホモ族にされてきたけど、実際はアフリカ起源じゃない種もいるんじゃないか? とかいう説(ホモ・フロレシエンシスなど)のその後も、気になってはいる。
簡単に言うと、出たり入ったり、進んだり戻ったり、集団が分裂したり再合流したりを何度も繰り返していることが常識となりつつあるのだ。
…まあ考えてみれば当たり前の話で、気候変動によってその時々に条件は変わる。現代のように国境はないし、クーラーや暖房など環境を調整する設備もない。住みやすい場所を目指して移動するのは当然。その過程で、来た道を戻ってはいけないはずもない。
前提となる研究は、たとえば以下がある。
人類、アフリカを出たり入ったり。アラビア半島の砂漠から数々の証拠が見つかる
https://55096962.seesaa.net/article/202109article_5.html
→出アフリカイベントは実は何度もあった。
気候が良くなるとアラビア半島まで来て悪化すると戻る、を繰り返してる痕跡がある
現代アフリカ人にまじるネアンデルタール人のDNAはヨーロッパ由来。という研究結果が出る
https://55096962.seesaa.net/article/202002article_3.html
→ネアンデルタールは現生人類より先にアフリカを出ていたはずだが、実際は現代のアフリカ人にはネアンデルタールのDNAが少しだけ入っている。これはどこかのタイミングで戻ってきた連中がいたからとされる。(場所によっては植民地支配の頃に混じったものもある)
また、最近でた記事だと以下。
初期人類と交雑した未知の種「ゴースト」などいなかった、新説
https://natgeo.nikkeibp.co.jp/atcl/news/23/051900247/?P=2
→未知の種との交雑があったのではなく、ホモ・サピエンス内でいったん分離して再合流した集団がいた可能性があるという結論に。
論文としては、以下がある。
A weakly structured stem for human origins in Africa
https://www.nature.com/articles/s41586-023-06055-y
→この論文だと、「単一の祖先から樹木型に枝分かれしていくモデルだと現在の我々の遺伝子の多様性と一致しない」となっている。これは当然の話で、最初に挙げた前提となる研究を見れば分かるように、「出ていったけど戻ってきた」という集団が何度か再合流しているからだ。
論文内で提案されたモデルは、こんな感じでもはや系統「樹」とは呼べない文様のような形になっている。
(bモデルのほうを見てほしい。下部にかかれている「Nama」「Menda」などは、その地域を代表して調査された部族名。ヨーロッパ代表はイギリス人になっている。)
このbのモデルを採用することで現代人のDNAと高い確率で一致するようにはなるのだが、だとすると、これまで暗黙の前提となってきた、「現代のアフリカに生存する部族は大昔からずっとアフリカにいた人々に違いない」という内容も、誤りだったと認識するしかない。
実際、現代人には、植民地支配の時代に由来するヨーロッパ系のDNAもかなり混じっているし、東アフリカと西アフリカで繋がっている部分があるなど、おそらく過去に大規模な集団移住などがあったのだろうと思われる部分もある。
アフリカは確かに遺伝的な多様性の大きい、ホモ・サピエンスの故郷ではあった。
しかしてその内実は、昔からずっと同じ場所にとどまり続けた人々の、変わらない世界ではなかったのだ。
この話は今のところ、現代人のDNAを元にモデル化したシミュレーションでしかない。各段階の古代人のDNAを手に入れて確認するというのは難しい。
とはいえ、人類の歴史と世界への拡散の道のりは、実は行きつ戻りつの試行錯誤であり、かつて言われていたような「出アフリカ」という言葉から想像されるただ一度きりのイベントではなかった、というのは、認識を改めておきたいところである。
*****
あと、おまけ
人類の起源と古人類学の常識の転換期:現在何が問題になってるかということ
https://55096962.seesaa.net/article/202204article_7.html
脳がデカいからとホモ族にされてきたけど、実際はアフリカ起源じゃない種もいるんじゃないか? とかいう説(ホモ・フロレシエンシスなど)のその後も、気になってはいる。