考古学ファンのトラウマ製造機「インディ・ジョーンズ」、最後の冒険を見に行ってきた

インディ・ジョーンズのシリーズは、一世を風靡した考古学者アクションアドベンチャーものの映画である。
それまでの考古学者のイメージを変えたともされ、エジプトの有名考古学者ザヒ・ハワス博士が被っている帽子も、インディに似せてウケを狙っているとされる。

映画公式サイト
https://www.disney.co.jp/movie/indianajones-dial

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その最新作にして最後の作品、「運命のダイヤル」。有終の美を飾る出来栄えではあったものの、相変わらず、考古学ファンのトラウマ製造機っぷりであった。

何がって?
遺跡を舞台にしたアクション・アドベンチャーなんですよ?

モブ遺物が犠牲になるのはもちろんのこと、舞台となる遺跡の中で銃をぶっ放しあちこち破壊するのはザラ。

そう、このシリーズ、毎回遺跡が毀損される(なにしろアクションするので…)うえに、遺物自体も現実にはありえないほど雑に扱われるんである。
今回のタイトルとなっている「運命のダイヤル」もまた、初っ端からナチスによって運び出されるところをインディとナチスで奪い合いになり、さらにその後もナチス残党との奪い合いが繰り広げられる。

現実でいえば、2000年前の遺物、しかも元は海に沈んでいた遺物ともなれば、そんなアクションに耐えられるはずもない。
そもそも、あんなピカピカの状態で、針が動かせる状態なわけもない。

モデルとなった「アンティキティラの機械」は、実際には錆びついて金属の腐食も進んでおり、修復されたのは結構近年だ。
最近書いた記事だと↓こんな感じ。

アンティキティラの機械が「起動」したのは紀元前204年か178年か。専門家たちの議論について
https://55096962.seesaa.net/article/487044944.html

しかし、それ以上にトラウマを刺激するのは、なんといっても冒頭の部分。
ナチスドイツの敗戦、連合軍に寄る空爆の中をナチス将校たちが遺物や美術品を運び出そうとしている。そこへ遺物を守ろうと若かりし日のインディが忍び込もうとしてスパイ容疑で捕らえられる……というシーンで、容赦ない空爆がモブ遺物を襲う。

いや、ていうか実際にベルリンの博物館とかドレスデンとかの空爆で、失われた遺物もあるんで…。
中の人もむかしベルリンいったとき、破壊されたカイザー・ヴィルヘルム記念教会とか行って、爆撃の跡は見てきたんで…。
ちなみに、有名なネフェルティティの胸像も避難に失敗していたら永遠に失われていたかもしれない遺物の一つ。
もともと主人公たち御一行以外のキャラには厳しいシリーズだけど、タイトルになっている以外の遺物にも厳しい。というか扱いが雑。

インディ、考古学者のくせに敵から逃げるために大学の遺物管理棚を倒すのはダメだぞ。
ツボが割れた時、中の人ちょっと「ヒッ」て声が出たぞ。セット用の偽物ってわかってても心臓に悪い。

あと中盤で海底から引き上げられたアルキメデスの遺物、真水に漬けることもせず素手で持ち回っているのはどういうことなの…。
しかも材質は蝋引きの木版だというのに全く腐食していない、さすがにちょっとあれはどうかと思った。

アクション映画としては面白かったが、トラウマスイッチが二、三回押されたので精神的には疲れた。
そして流石にインディは老けすぎた。
ジュラシックワールドもそうだったが、初期の主役たちが老いさらばえた姿で幕引きに出てくる展開は、あまり好きになれないなと思った。
「良い年のとり方」をしていればスッキリするのに、どうして皆、人生のどこかで失敗して未練たらたらなのか。やることやって、大冒険の思い出でも語りながらゆたり老後は過ごせないものなのか。

今回見たインディも、次の世代(実子という意味ではなく、若い後継者)を育てられなかったゆえの悲しみと、居場所のなくなった老人の最後の悪あがきみたいなのが後味悪かった。せめて自分の手で、約束通り「運命のダイヤル」を壊せていればなぁ。


これ系のシリーズをまた作る場合は、せめて、遺跡と遺物に優しく。
遺物の取り扱いには細心の注意をはらい、遺跡の中で暴れた奴には漏れなく天誅がくだされるやつでお願いします。