古代エジプト遺物だが美術様式的にはギリシャ、「ファイユーム・ポートレート」の科学分析について
7月の人事異動がエグすぎて初っ端から死亡フラグが立ってる中の人ですよなんとか生き残りたい。
というわけでブクマだけしておいたやつらを消化するよ…
エジプトのファイユーム地方からたくさん出土する死者の肖像画「ファイユーム・ポートレート」の化学分析の論文が出ていたので軽く読んでみた。
この遺物は古代エジプト遺物として扱われることも多いけど、美術様式としてはギリシャ。ただしエジプトに移住してきたギリシャ人がエジプト式にミイラ化してもらう際にミイラの顔の部分に貼り付けることが多かったため、エジプト文化とギリシャ文化の混合という感じで、こういう文化の交錯した時代がいわゆる「ヘレニズム時代」になる。
Macroscale multimodal imaging reveals ancient painting production technology and the vogue in Greco-Roman Egypt
https://www.nature.com/articles/s41598-017-15743-5

分析の中で、全体的に蜜蝋を使った「エンカウスティーク」という手法が使われているのが面白い。
これはギリシャ語の "εγκαυστική" [enkavsteké]に由来するもので、熱する、燃やすという意味だそうだ。論文の中で何度かプリニウスの「博物誌」が引用されているが、画材に使われた各色の材料はプリニウスが記載しているものでアタリがつけられるようだ。
以前の研究で、材料は地中海世界から広く集められていたとわかっている。
また、死者はひっきりなしに出るものなの、需要にこたえるべく職人の常駐する工房があっただろうこともわかっている。
二千年前の絵師のお仕事~ミイラ・ポートレートの絵師と素材とは。
https://55096962.seesaa.net/article/202006article_21.html
ある意味、葬式の一大産業。
自分は以前から、このポートレートを古代エジプト遺物として見ればいいのか、ギリシャ・ローマ遺物として見たほうがいいのか微妙だなと思っていたが、手法からしてどちらかというとギリシャ・ローマ寄り、かつ考古学遺物というよりは絵画として分析したほうが面白いなと思った。
考古学の文脈だけだと、「ミイラについてる故人の顔」以上に話が広がらないが、絵画史の中に位置づけると結構重要なポジションになってくる。何しろ二千年も前の同時代/同地域で「市井の人々」の肖像画が大量に残っているという稀有な事例なわけで。一点ものではないので手法や材料の分析をすれば当時の絵画技術の理解にもつながる。
ただ惜しむらくは、ポートレートが世界中に散逸してしまっていて、まとめて研究するのが結構たいへんってことかな…。
成分分析などはどうしても実物がないと難しいしね。そのへんは各所蔵元でデータ共有してほしいなって思うところ。
というわけでブクマだけしておいたやつらを消化するよ…
エジプトのファイユーム地方からたくさん出土する死者の肖像画「ファイユーム・ポートレート」の化学分析の論文が出ていたので軽く読んでみた。
この遺物は古代エジプト遺物として扱われることも多いけど、美術様式としてはギリシャ。ただしエジプトに移住してきたギリシャ人がエジプト式にミイラ化してもらう際にミイラの顔の部分に貼り付けることが多かったため、エジプト文化とギリシャ文化の混合という感じで、こういう文化の交錯した時代がいわゆる「ヘレニズム時代」になる。
Macroscale multimodal imaging reveals ancient painting production technology and the vogue in Greco-Roman Egypt
https://www.nature.com/articles/s41598-017-15743-5

分析の中で、全体的に蜜蝋を使った「エンカウスティーク」という手法が使われているのが面白い。
これはギリシャ語の "εγκαυστική" [enkavsteké]に由来するもので、熱する、燃やすという意味だそうだ。論文の中で何度かプリニウスの「博物誌」が引用されているが、画材に使われた各色の材料はプリニウスが記載しているものでアタリがつけられるようだ。
以前の研究で、材料は地中海世界から広く集められていたとわかっている。
また、死者はひっきりなしに出るものなの、需要にこたえるべく職人の常駐する工房があっただろうこともわかっている。
二千年前の絵師のお仕事~ミイラ・ポートレートの絵師と素材とは。
https://55096962.seesaa.net/article/202006article_21.html
ある意味、葬式の一大産業。
自分は以前から、このポートレートを古代エジプト遺物として見ればいいのか、ギリシャ・ローマ遺物として見たほうがいいのか微妙だなと思っていたが、手法からしてどちらかというとギリシャ・ローマ寄り、かつ考古学遺物というよりは絵画として分析したほうが面白いなと思った。
考古学の文脈だけだと、「ミイラについてる故人の顔」以上に話が広がらないが、絵画史の中に位置づけると結構重要なポジションになってくる。何しろ二千年も前の同時代/同地域で「市井の人々」の肖像画が大量に残っているという稀有な事例なわけで。一点ものではないので手法や材料の分析をすれば当時の絵画技術の理解にもつながる。
ただ惜しむらくは、ポートレートが世界中に散逸してしまっていて、まとめて研究するのが結構たいへんってことかな…。
成分分析などはどうしても実物がないと難しいしね。そのへんは各所蔵元でデータ共有してほしいなって思うところ。