蛍光X線分析で見る古代エジプトの墓壁画/描き直しの跡いろいろ
エジプト壁画に描き直しの跡が見つかった、という論文が出てて、いやーそりゃ描き直しくらいするっしょ?? とは思ったものの、ちょっと読んでおくことにした。使っているのはMA-XRFとのことなので、日本語だと「蛍光 X 線分析」あたりになるだろうか。これでぐぐると、なんとなくやり方はわかる。
ただ、エジプトの墓の壁画は狭い墓の中の壁面に描かれているものなので、普通の絵画と同じようには分析できない。論文ではさらっと「ポータブル分析機を使った」って書かれてるので、小型の分析機を持ち込んでデータを取ったのだろうと思う。
Hidden mysteries in ancient Egyptian paintings from the Theban Necropolis observed by in-situ XRF mapping
https://journals.plos.org/plosone/article?id=10.1371/journal.pone.0287647
古代エジプトの画家も絵を修正 最新研究
https://www.afpbb.com/articles/-/3472442?act=all
描き直しの跡は、画像で見るとわかりやすい。
こちらはメンナの墓。手の角度を微妙に間違えたらしく、あとから書き直しているのが経年劣化でうっすら白の下に浮き出てしまっている。

こちらはナクトアメンの墓に描かれたラメセス二世。たぶんこれは、王笏の部分を先に描いたら王のアゴとぶつかってしまい、あっやべやべっ てなってあとから王笏の部分描き直したんだと思う。あと首飾りは描かれた当時の「いまふう」のデザインに修正したようだ。

日本語の記事では、「専門家はこれまで、こうした墳墓の装飾美術は極めて様式化されており、一定の決まりに基づいて、あらかじめ決められたパターンが使いまわされてきたと考えていた」が、描き直しの跡が見つかったことで「一定の創作の自由があった」としているのだが、様式的には従来どおりの「一定の決まりに基づいて」パターンを使いまわしている。このポージングもよくある
さすがに創作の自由は言い過ぎだろうと思う。
これはむしろ、職人のスキルに差があったことを示す証拠ではないかと思う。
きちんとグリッド引いて下書きしてから着色していけば、こういうミスは起きない。特にラメセス2世のほうなんかは、下書きなしの一発描きでやろうとして失敗した感がある。
お手本となる「理想の姿」があり、それにできる限り近づけて描くべきという理想があって、そこに当てはまらない絵を描いてしまったからリテイクがかかってるのである。独り立ちしたばかりの新人が仕事を任されたが、あとから親方のチェックが入ってダメ出し食らったとかいう事情も想定できる。
古代エジプト美術は、壁画だけでなくパピルス文書なども、人間らしい修正の跡がしばしば見られる。それは人間が手作業でやってるのだから当然発生するものだ。面白い痕跡だが、しかし、古代の絵師たちにルネッサンス風の「自由な創作性」を求めるのは筋が違う。墓や神殿に描かれるのは望ましい世界、理想の事象、理想の姿だ。そこから外れたものは墓の壁画にはない。
創作性は、職人村の落書きなどに求めるものだと思う。
ただ、エジプトの墓の壁画は狭い墓の中の壁面に描かれているものなので、普通の絵画と同じようには分析できない。論文ではさらっと「ポータブル分析機を使った」って書かれてるので、小型の分析機を持ち込んでデータを取ったのだろうと思う。
Hidden mysteries in ancient Egyptian paintings from the Theban Necropolis observed by in-situ XRF mapping
https://journals.plos.org/plosone/article?id=10.1371/journal.pone.0287647
古代エジプトの画家も絵を修正 最新研究
https://www.afpbb.com/articles/-/3472442?act=all
描き直しの跡は、画像で見るとわかりやすい。
こちらはメンナの墓。手の角度を微妙に間違えたらしく、あとから書き直しているのが経年劣化でうっすら白の下に浮き出てしまっている。
こちらはナクトアメンの墓に描かれたラメセス二世。たぶんこれは、王笏の部分を先に描いたら王のアゴとぶつかってしまい、あっやべやべっ てなってあとから王笏の部分描き直したんだと思う。あと首飾りは描かれた当時の「いまふう」のデザインに修正したようだ。
日本語の記事では、「専門家はこれまで、こうした墳墓の装飾美術は極めて様式化されており、一定の決まりに基づいて、あらかじめ決められたパターンが使いまわされてきたと考えていた」が、描き直しの跡が見つかったことで「一定の創作の自由があった」としているのだが、様式的には従来どおりの「一定の決まりに基づいて」パターンを使いまわしている。このポージングもよくある
さすがに創作の自由は言い過ぎだろうと思う。
これはむしろ、職人のスキルに差があったことを示す証拠ではないかと思う。
きちんとグリッド引いて下書きしてから着色していけば、こういうミスは起きない。特にラメセス2世のほうなんかは、下書きなしの一発描きでやろうとして失敗した感がある。
お手本となる「理想の姿」があり、それにできる限り近づけて描くべきという理想があって、そこに当てはまらない絵を描いてしまったからリテイクがかかってるのである。独り立ちしたばかりの新人が仕事を任されたが、あとから親方のチェックが入ってダメ出し食らったとかいう事情も想定できる。
古代エジプト美術は、壁画だけでなくパピルス文書なども、人間らしい修正の跡がしばしば見られる。それは人間が手作業でやってるのだから当然発生するものだ。面白い痕跡だが、しかし、古代の絵師たちにルネッサンス風の「自由な創作性」を求めるのは筋が違う。墓や神殿に描かれるのは望ましい世界、理想の事象、理想の姿だ。そこから外れたものは墓の壁画にはない。
創作性は、職人村の落書きなどに求めるものだと思う。