アイスランドはいかにして国家となったのか。「アイスランド法の発展と概念」

図書館で古い本あさってたら面白そうなのを見つけた。普通あまり見に行かない法律棚にあったこちら。
アイスランドでどのように法律が作られ、どう変化していったのかという話で、北欧神話やサガを学んでいる人にとってはある程度はおなじみの話である。

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まず前提として、アイスランドへの最初の「まとまった」移住者たちはノルウェーの住人だった。
ノルウェーのヴァイキングたちが航路を発見したからでもあるが、人口増加に伴い新天地が求められたこと、ノルウェーで統一王が立ったことに伴う政治的な理由があったこと。ノルウェー以外ではブリテン島から、それとスウェーデンなど近隣の北欧諸国からも一定数が移住している。

移住した当時は家族単位の部族社会。それがまとまりを作り、「全島集会」(アルシング)を開き、島独自の法律を作るようになる。
王はおらず、複数の有力な首長たちが実権を握って多数決で物事を決定する状態だったので、民主主義のはしりと言われることもある。

だが、この独立国としての体裁は、1262年に失われる。ノルウェー王に権利を認め、属国のような立場になることを選んだからである。
ここから、独自の法律、独自の決定権がノルウェーからデンマークへと移っていく様子が描かれる。つまりは、立法権と支配権が国家としての独立と結びついて語られる。
ただ、面白いことは、ノルウェー・デンマークの法がそのままアイスランドに導入されていたわけではなく、アイスランド独自の法律も一部が生きたままだった。グラーガース(灰色ガチョウ)法の寿命は長かった、と言われるのはそのためだ。

アルシングの立法権は、第二次世界大戦を契機として、共和国成立の1944年に復活する。
そして今のアイスランド共和国へと至る。


この本で面白いのは、アイスランドはそもそもなぜノルウェーやデンマークの支配を受け入れたのか、離島でオーディンなど異教を保っていながらある時代にキリスト教を受け入れたのかという部分だ。それは、一つには、アイスランドには木材がなく、外部からの輸入が絶対に必要だったことがある、という。
また寒冷な気候のため、他にも一部の品は輸入するしかなかった。
輸入元がノルウェーや、ヨーロッパの国々だったので、そちらの主流宗教に合わせないと交易が出来ない。
つまりヴァイキング的な交易に対する思考として、対外的に、新しい宗教を受け入れたほうが得だったという理由付けだ。

神話本などだと、島内で宗教が分かれると統一性がなくなること、揉め事が起きること内向きの視点が理由として挙げられることが多いので、外向きの理由が書かれているのはなるほどと思った。
実際、アイスランドにとって木材の輸入は必須で、それがないと外界に出ていく船が作れない島だった。外部の支配/宗主権を受け入れることは、生存のために必要な選択肢だったのかもしれない。