ナイルの宿命:寄生虫の現在、エジプトは寄生虫被害が減少しているらしいが上流では拡大中

ナイル川には、命に関わる危険な寄生虫がいる。
エジプト観光に行く人は水に触れないように、と言われるのはそのため。ナイルの水を飲んだものはナイルに戻ってくる、というジンクスに則って水を飲むのも危険だ。

その寄生虫とは、ビルハルツ住血吸虫(S. haematobium)。そしてマンソン住血吸虫(Schistosoma mansoni)だ。
淡水に住む貝に寄生しているため、川や湖、日本では水田でも感染していた。なお、かつては日本にも生息していた住血吸虫は、撲滅運動によってほぼ絶滅しており、現在はほぼ危険はない。

参考:住血吸虫症とは
https://www.niid.go.jp/niid/ja/kansennohanashi/413-schistosoma.html

で、その寄生虫。古代エジプトのミイラからも痕跡が発見されており、昔からの風土病になっている。ちなみにビルハルツ住血吸虫は1851年にビルハルツによってカイロで記録されたのが初めてとされる。発見者の名前がそのまま寄生虫の名前にもなったということだ。

この寄生虫は、ナイル川の流域に生息しているため、当然ながらエジプトより上流でも多数の感染事例がある。
というかむしろ上流の方がエジプトより多い。

なぜかというと、

・エジプトでは水道が普及しており川の水を汲んで生活に使うことが減っている
・カイロ以南は川が一本の流れになっていて、氾濫原がほぼない
・水田がなく畑作のみ
・ファイユームのような湖でも漁業などはあまり行われていないため淡水にふれる場面が限定的
・水質汚染でそもそも寄生元の貝が減少

という状況だからだ。
逆に言えば、水道水の普及が遅れている地域や、ナイル川が湿地帯を形成している地域、漁業の盛んな場所などは感染しやすい。
また近年では、水田開発をはじめた地域やダム建設によってダム湖が形成された地域で感染率が上がっているという。

少し前のデータだが、なかなか興味深い資料を見つけたので参考例としてリンクしておく。
https://www.eiken.co.jp/uploads/modern_media/literature/MM0407-02.pdf

エジプトの住民の感染率は低い。(それでも、現代まで感染者が普通にいるのがあれだが…)
0165891.png

一方で上流のウガンダ(水源の一つ、ヴィクトリア湖がある)では高確率で感染していて、みんなもう虫持ってるのが当たり前みたいになっちゃってる。怖い。
026408.png

これら住血吸虫はアフリカ各地に広がっており、ガーナやケニア、マリなど米作をやってる地域にもいるそうなので、根絶はかなり難しそうだ。
古代から続く人と寄生虫の関係。発見地であるエジプトの感染率が他より低いというのは、むしろ珍しい傾向なのかもしれない。