オハイオ川中流域(MORV)文化の衰退に彗星爆発は関係あったのか。反論に見る専門家の本気と視点の在り処
彗星のエアバースト(空中爆発)によって文明が衰退したとか、町が滅んだとかいう珍説は、最近いくつか見かけている。
近年話題になったものだと、旧約聖書に書かれているソドムとゴモラの炎上と破壊は、隕石によるものだったとする説など。だが、それらは例外なく後からほかの学者にボコ殴り(反論)されている。反論の論文は話題にならないから、いつの間にか話題から消えるだけなのだ。
そんな「エアバースト文明衰退説」のうちの一つで、去年見かけて見るからに怪しく感じてスルーしていた論文、やっぱり後から反論で殴られていた。
●元の論文
RETRACTED ARTICLE: The Hopewell airburst event, 1699–1567 years ago (252–383 CE)
https://www.nature.com/articles/s41598-022-05758-y
文明の場所はココ
●反論
Refuting the sensational claim of a Hopewell-ending cosmic airburst
https://www.nature.com/articles/s41598-023-39866-0
この二つを比べて読んでみると、実に面白い。
エアバーストのような大規模災害によって文明が衰退/滅亡するという説は、何をどう勘違いすると生まれるのか、という部分が見えてくるからである。
まずわかりやすいところでいうと、
①熱による考古学的な文脈を見誤っている
②複数地点から出ている熱による破壊の証拠の年代測定を誤っている
反論の論文で「考古学的文脈を勘違いしている」「年代分析が不適切」と指摘されている部分になる。
集落に熱で破壊された跡があるとしても、それは普通に考えれば単なる火災の跡だ。日常的火を起こしていた昔の暮らしでは、火災は日常茶飯事だった。ポンプなどもないので、風の強い日に木造の屋根に燃え広がっているのを桶に汲んだ水ごときで消そうとしても間に合わないことはザラにある。
そして、強い熱で炎上した箇所があったとして、そこが炉であったなら、意図的に高温にする場所なので別に隕石など想定する必要はない。祭壇も、大きな火を長時間起こし続ける場所なので特殊な痕跡が残るのは当たり前。その熱の跡は本当に異常なのか? というのが文脈部分。
また、これらの年代測定を誤って、本当は別々の時代に起きていた火災なのに全て近い年代だと勘違いしているのが元の論文だ。OxCalという分析ソフトを使っているようなのだが、このソフトの使い方が適切ではなく、分析方法と結論を誤っているという。
これは専門家ならではの指摘だと思うが、指摘される側からすると恥ずかしいやつだな…と思った。
次に、
③地球外物質の同定が適切ではない
これも専門家ならではの指摘かと思うが、検出されている成分は地球由来のものの可能性が高いという。
元論文ではブレナム隕石という非常に稀な種類の隕石を提示しているが、この種類の隕石は、カンラン石((Mg,Fe)2SiO4)と鉄、ニッケルが含まれるという。しかし、元論文で検出されている物質では、隕石由来とされた鉱物にマグネシウムとニッケルが欠けており、成分的に隕石由来の可能性が考えにくいのだという。
隕石でも彗星でも小惑星でも、宇宙由来とされる物質の同定に失敗しているか疑問符がつくのであれば、そもそも話の前提から成り立たなくなってしまう。
また、隕石由来とされた鉱物の検出場所が、遺跡の燃えた痕跡のある場所と異なっているため、同時代と判断することは出来ないともツッコまれており、これもなかなか痛い指摘だ。
つまり元論文は分析手法が正しくなく、色々勘違いした上に、結論ありきで誤った主張の組み立て方をしてしまった論文、ということになる。
ここから、何をもってその説が正しいか判断すればいいのか、こういう破滅的な破壊説を主張するには最低限なんの証拠を集めればいいのかも見えてくる。
まあそもそも、ほぼ同時代に広範囲で火災跡による集落破壊が見えたとしたら、普通は戦争が原因だし、戦争以外の異常な痕跡で集落が破壊されてたら最初の発掘時点で気がつくはずなので、敢えて新説として隕石や彗星による大規模破壊説が出てくる場合は、八割がたトンデモ説にしかならないと思う。
近年話題になったものだと、旧約聖書に書かれているソドムとゴモラの炎上と破壊は、隕石によるものだったとする説など。だが、それらは例外なく後からほかの学者にボコ殴り(反論)されている。反論の論文は話題にならないから、いつの間にか話題から消えるだけなのだ。
そんな「エアバースト文明衰退説」のうちの一つで、去年見かけて見るからに怪しく感じてスルーしていた論文、やっぱり後から反論で殴られていた。
●元の論文
RETRACTED ARTICLE: The Hopewell airburst event, 1699–1567 years ago (252–383 CE)
https://www.nature.com/articles/s41598-022-05758-y
文明の場所はココ
●反論
Refuting the sensational claim of a Hopewell-ending cosmic airburst
https://www.nature.com/articles/s41598-023-39866-0
この二つを比べて読んでみると、実に面白い。
エアバーストのような大規模災害によって文明が衰退/滅亡するという説は、何をどう勘違いすると生まれるのか、という部分が見えてくるからである。
まずわかりやすいところでいうと、
①熱による考古学的な文脈を見誤っている
②複数地点から出ている熱による破壊の証拠の年代測定を誤っている
反論の論文で「考古学的文脈を勘違いしている」「年代分析が不適切」と指摘されている部分になる。
集落に熱で破壊された跡があるとしても、それは普通に考えれば単なる火災の跡だ。日常的火を起こしていた昔の暮らしでは、火災は日常茶飯事だった。ポンプなどもないので、風の強い日に木造の屋根に燃え広がっているのを桶に汲んだ水ごときで消そうとしても間に合わないことはザラにある。
そして、強い熱で炎上した箇所があったとして、そこが炉であったなら、意図的に高温にする場所なので別に隕石など想定する必要はない。祭壇も、大きな火を長時間起こし続ける場所なので特殊な痕跡が残るのは当たり前。その熱の跡は本当に異常なのか? というのが文脈部分。
また、これらの年代測定を誤って、本当は別々の時代に起きていた火災なのに全て近い年代だと勘違いしているのが元の論文だ。OxCalという分析ソフトを使っているようなのだが、このソフトの使い方が適切ではなく、分析方法と結論を誤っているという。
これは専門家ならではの指摘だと思うが、指摘される側からすると恥ずかしいやつだな…と思った。
次に、
③地球外物質の同定が適切ではない
これも専門家ならではの指摘かと思うが、検出されている成分は地球由来のものの可能性が高いという。
元論文ではブレナム隕石という非常に稀な種類の隕石を提示しているが、この種類の隕石は、カンラン石((Mg,Fe)2SiO4)と鉄、ニッケルが含まれるという。しかし、元論文で検出されている物質では、隕石由来とされた鉱物にマグネシウムとニッケルが欠けており、成分的に隕石由来の可能性が考えにくいのだという。
隕石でも彗星でも小惑星でも、宇宙由来とされる物質の同定に失敗しているか疑問符がつくのであれば、そもそも話の前提から成り立たなくなってしまう。
また、隕石由来とされた鉱物の検出場所が、遺跡の燃えた痕跡のある場所と異なっているため、同時代と判断することは出来ないともツッコまれており、これもなかなか痛い指摘だ。
つまり元論文は分析手法が正しくなく、色々勘違いした上に、結論ありきで誤った主張の組み立て方をしてしまった論文、ということになる。
ここから、何をもってその説が正しいか判断すればいいのか、こういう破滅的な破壊説を主張するには最低限なんの証拠を集めればいいのかも見えてくる。
まあそもそも、ほぼ同時代に広範囲で火災跡による集落破壊が見えたとしたら、普通は戦争が原因だし、戦争以外の異常な痕跡で集落が破壊されてたら最初の発掘時点で気がつくはずなので、敢えて新説として隕石や彗星による大規模破壊説が出てくる場合は、八割がたトンデモ説にしかならないと思う。