エジプトからの「遺物返還要求」は日本にも出されたことがあった。エジプトコレクションと盗難品売買の実態

よく知られているとおり、エジプトは各国の美術館・博物館に対してエジプトから持ち出された遺物の返還要求を出している。
有名所ではイギリスの大英博物館に対してロゼッタ・ストーンの返還を、ドイツの新博物館にはネフェルティティの胸像の変換を求めている。
これは日本も無関係の話ではなく、実は、今から40年近く前の1985年に、日本の博物館に対しても遺物の返還要求が出されている。

あまりに昔すぎるのか、インターネットを検索しても全然でてこないので、ことのあらましを書いておこうと思う。

◎返還要求の対象は、下関市立美術館が購入したデンデラ神殿のレリーフ

このレリーフは、デンデラのハトホル神殿の地下室から電動ノコか何かで引っ剥がされたものだった。おそらくオーパーツ扱いされている浮き彫りで有名な、あの部屋だと思う。

↓以前そこへ行った時の写真とか
http://www.moonover.jp/bekkan/ooparts/10.htm

壁一面を剥ぎ取って小分けにしてバラバラに売りさばいたらしく、日本にはそのうち二点が流れ着いていた。
一点は下関市立美術館が所有、もう一点は個人のコレクターが買い求めていたらしい。そのレリーフが完全だった頃の図が報告書として出版されていたため、出処がわかったのだ。

どのように発覚したかの細かな経緯は不明だが、1973年にエジプト政府が久しぶりに地下室の点検をして盗難に気づき、散逸したレリーフを探し始めた。そして1985年に日本の美術館にたどり着き、学芸員が日本まできて現物を確認、1985年の4月に返還要求が出されている。

この顛末は、1986年にNHKが放映した番組、「盗まれたエジプト秘宝~国際美術市場と日本~」で解説されているようなのだが、中身までは見ていないので番組解説などから引いた情報しかない。

要は、エジプト政府が人手と予算不足から遺跡の管理に手が回っていなかった不始末で盗難された遺物が国際市場(オークションや、バイヤーによる持ち込み)に出回っていて、それと気づかず購入してしまった品なわけだ。悪意はない。
また1985年だとインターネットもまだ一般向けの普及はしておらず情報は紙のカタログに頼るしかなく、レリーフの出処を一発で見抜けるほど詳しい学者も日本にはいなかったのだろう。

だが、盗難品とはっきりしていれば、返還するしかない。それがユネスコの遺物返還条約である。


この件から得るべき教訓は、エジプト遺物に手を出すときは、来歴をしっかり確認すること、だ。
知らずに買ったとしても元が盗難品や違法な持ち出しによる品だった場合は、返還しなければならない。それが嫌で秘匿しているコレクターもいるだろうが、倫理的には良くない。また遺物を盗んで売りさばくのは、たいてい犯罪者やテロ組織なので、買うことでそれらの資金源になってしまうという問題もある。


なお、下関市立美術館は、他にも古代エジプト遺物をコレクションしている。
http://www.city.shimonoseki.yamaguchi.jp/bijutsu/collections_cr.html

日本の美術館・博物館でオリエントの認知が高まったのはそう昔の話ではなく、コレクションを形成しはじめたのはここ100年以内と後発なのでヨーロッパほど質量が備わっているわけではないが、けっこう面白いものもあるので日本のコレクションめぐりも良いものだと思う。

参考:日本国内でエジプトコレクションの見られる施設一覧
https://55096962.seesaa.net/article/201409article_28.html