プルタルコス「テーバイの住人はクネプという神を信じている」→誰のことなのか探しに行ってきた

プルタルコスの「エジプト神イシスとオシリスの神話について」という本がある。有名な、イシスとオリシスの神話をまとめて記録した貴重な書物だ。

エジプト神イシスとオシリスの伝説について (岩波文庫) - プルタルコス, 柳沼 重剛
エジプト神イシスとオシリスの伝説について (岩波文庫) - プルタルコス, 柳沼 重剛

だが、プルたんはギリシャ人なのでエジプトからすると外国人、しかもエジプトがローマ属州となった1世紀の人なので、古い時代の神話をそのまま記録してくれたわけではない。ところどころ用語がギリシャ語になっていたり、ギリシャ神話と混じって新しく作られた部分が入ってたり、かと思えばピラミッド・テキストまで遡れると思われる伝統的な要素がきちんと踏襲されていたりと、セクションごとに検討が必要な状況となっている。

だが、古代エジプト語が解読されるまでの長い間、ヨーロッパの知識人の間に出回っていたエジプト神話の知識は、ギリシャ語で書かれたものだけだったのだ。ルネサンス期のオカルティストがエジプトネタを持ってくる場合は、このへんの神話を前提としていることが多いので、たまに読み返すことになる。

で、今回、久しぶりにぺらっと開いたら、中からメモが落ちてきたんだ…
「クネプについて調べること」

どうやら前回読んだ時に疑問に思ってメモを挟んだまま、忘れてしまっていたらしい。なので今回、改めて調べてみた。
プルタルコスは、セクション21で「テバイの住民は死ぬ神などいないと信じている、彼らは生まれもしなければ死にもしないクネプという神を信じている」と書いている。だがエジプト神話にはクネプという神はいない。

こういう場合には、元の神名がギリシャ語化しているか、どれか有名な神の別名であることが多い。
テバイ=テーベの街はアメン神が主神だから、どうせアメン神の異様にたくさんある別名のどれかだろうと思ったら、やっぱそうだった。

アメン神は、神話によっては原初の八柱神(オグドアド)の一柱とされ、その場合は蛇の姿をとる。これが文庫版の脚注で「クネプは蛇神」と書かれている理由だ。
だが脚注で「蛇は長命であり、若返るとも考えられていた」というのはギリシャ神話寄りの解釈で、クネプの名前の由来はアメン神の別名のひとつ「アメン・ケムアテフ」(自らの時を完了したもの)のケムアテフの部分の訛ったもの。つまり「自らの力で自らを生み出した」、いわばウロボロス的な存在として信仰されていたのである。
プルタルコスはたぶん、アメン神の色んな別名を、ぜんぶ同じ神だと認識してなかったんじゃないかと思う。もしくは見た目が違うと別の神だと思ったとか。

というわけで、ギリシャ人の書いたエジプト神話やエジプトの記録は色々と癖があるのだけれど、癖の方向性に慣れれば何のこと言ってるかのアタリはつきやすい。逆に言うと、アタリが付かないと「何だこれ…?」みたいになるんだと思います。
むかしの自分みたいに。