古代メソポタミアの貴人は牛車に乗って。ウマ利用が開始される以前の乗り物事情

ちょっとしたメモだが、メソポタミアでウマが使われ始める以前の時代はウシに車を牽引させることが一般的で、えらい人はウシに引かせた四輪馬車(戦車というにはちょっとイモい感じの乗り物)に乗ってた、という話をしたい。

古代メソポタミア文明の栄えた紀元前3,000年頃は、まだウマの家畜利用が開始されていない。おそらく試みはあったが、まだ本格的に始まっていないため、メソポタミアには入ってきていないのだ。
ウル第三王朝のブル・シン王の家畜記録では圧倒的にロバの頭数が多く、あとはウシ。有名な「ウルのスタンダード」には、ロバかオナガーに牽引させた戦車の絵が描かれているが、実はウシに引かせる戦車も出土しており、ウシも牽引動物として使われていたことが分かっている。

つまり牛車である。

戦車の構造については以下が詳しい。
https://sumerianshakespeare.com/1273801.html

3-22563.png

このアナトリア出土のモデルの拡大写真などは以下にある。

Fine Anatolian Bronze Toy Chariot w/ Oxen
https://www.bidsquare.com/online-auctions/artemis-gallery/fine-anatolian-bronze-toy-chariot-w-oxen-2408067

重要なのはツノのついた雄牛であり、いかにも強そうに見えるという所。戦場に行く戦車を引かせるならロバやオナガーよりはウシのほうがなんか強そう。なおウシの走行速度は40 km/hと決して遅くはなく、重労働も可能なスタミナはある。

まあ戦車として考えるとちょっと遅すぎるのでは…という感じだが、紀元前3000年の世界では、まだ車輪もスポークのないただの貼り合わせた板だし、戦車も牽引部をつけている以外は普通の荷車と変わらない。そもそもスピードを出せる構造ではなく、えらい人が自分で歩かずに移動できるだけの特別な乗り物だなという感じ。なので牛車。

ウマに引かせて高速移動する戦車はカッコいいのだが、古代世界でそれらが使われ始めるまで、この牛車の時代から千年以上かかる。家畜の飼育、訓練の技術、車体の製造技術など、その千年の間には実に様々な技術の発展が必要なのだった。