辞典を作るということ。動かないはずの神話辞典でもけっこう難しい
本体サイトにおいているエジプト神話の神様名リストは、ちょっとした自分用の辞典みたいなものとして作り始めた。そして20年ほど経過した今もひっそり更新は続けている。
エジプト神話 神々名簿
http://www.moonover.jp/bekkan/god/index.htm
まあ個人的な趣味なのでぼちぼちやっているわけだが、この内容、紙にしようと思ったことはない。Webで、いつでも更新できるからこそ続けていられるのである。何故かというと、神話という既に変化することもなく固定化された情報でさえ、新たな発見や解釈のし直しによって変化することがある からなのだ。
たとえば、ハトメヒトという女神がいる。
ナイル下流の海に近い街の守護女神であり、名前は「魚の第一のもの」を意味するという。頭の上に魚のシンボルを載せた女神で、完全な魚の姿をとることもある。
ハトメヒト
http://www.moonover.jp/bekkan/god/hatmehit.htm

https://www.brooklynmuseum.org/opencollection/objects/17602
インターネットで簡単に画像検索できる今だからこそ、見れば「これは魚だな」と分かるが、ハトメヒトのページを作り始めた当初では、神話の本には堂々と「ハトメヒトはイルカの女神である」と書かれていた。
実際、今でもイルカ説を唱える学者はいるし。守護地が海岸線沿いの街なのでイルカを見たことがなかったとは言えないのだが、どう見ても図像がイルカではないし、神格化された動物はミイラにされるのが習わしなのにイルカのミイラは出てきていない。出てきているのは魚のミイラである。
イルカは頭もよく神秘的だから…みたいな現代欧米人の信仰を古代エジプトに当てはめようとした、だいぶ無理のある説だったのだ。それに気づいたのは、作り始めてから何年か経ったあとのことであった。
また面白い(?)事例としては、アヌビス神のモデルがキンイロジャッカルではなかったという更新もあった。
アヌビス
http://www.moonover.jp/bekkan/god/anubis.htm

これは、そもそもアフリカにいるキンイロジャッカルと思われていた動物が、DNAを調べてみたら、実はキンイロジャッカルではなかったというオチである。
新しくつけられた種族名は「アフリカン・ゴールデン・ウルフ」で、ジャッカルではなく狼の仲間となった。つまり「アヌビスのモデルはジャッカル、または狼とされる」という本の記述はちょっと古くて、「アフリカにいる狼と思われる」となる。エジプトにジャッカルは住んでいなかったのだ。
他には、最近「とーとつにエジプト神」というシリーズで、実際には存在しない「オッター」という神名で紹介されてしまったカワウソがある。オッターとはカワウソの英語名である。説明は以下に書いたので適当に流し読みでもしてほしい。
エジプト神ソフビの中の謎の「オッター」の正体とは。
https://55096962.seesaa.net/article/202002article_13.html
ただ、こちら中身の動物ミイラを見ないと、カワウソなのか、その他の動物なのかが分からない仕様となっている。
古代エジプトの動物ミイラのケース、カワウソ・マングース・トガリネズミが同デザインであることが判明
https://55096962.seesaa.net/article/201611article_1.html
学者によって、この像をカワウソと書いてる場合とマングースと書いてる場合があり、どっちだよ…となると思うのだが、実は両パターンあり、さらにトガリネズミという派生もある。古代エジプトの芸術ははんこ絵が基本。人間型の神様が全員同じようなポーズで描かれるように、太陽を崇める動物も片っ端から同じポーズにされてしまった、ということなのだろう。
これは実際に博物館巡りをして数を見ないと、中身の動物が何種類もあるとはなかなか気づきにくい。本を書いてる学者さんも、あまり興味がなければ、最初に出会った一体の話しか書かないのだ。
また本の誤植? で性別の認識が違っていた神もいる。
シェセムは最初に読んだ本では女性と書かれていて、役割のえげつなさに似合わんなあ…と思っていたのだが、像を探し当てると男性だった。単語一つ違うだけで勘違いは発生する。
これらはごく一部に過ぎず、この20年の間にページはかなり書き換え・補注の書き足しなどがされている。
数千年も前に信仰としては消滅した神話に出てくる神名に関わる内容で、しかも公正さや正確性はあまり気にしないレベルで運用してすら、これなのである。現実世界でまだ生きている用語や動いている事象について辞典を作るのはさぞかし大変だろうとは分かる。
「辞典・辞書を作るということは、情報を集めるだけでもそれだけ大変」。そして「情報は常に動き、訂正されていくものなので、紙面に固定化するのはよほどの覚悟がなければ出来ない」。
これは、自分がこれまでの経験で学んだことである。
もちろん同人誌即売会で各種ジャンルのお手製辞書を売ってる人たちに何か言いたいわけではないのだけれど、紙で出したものは、Webのように簡単には直せない。これは辞書だろうが新書だろうが研究書だろうが書籍全てにかかってくる話でもあるが、動かせなくなった情報に訂正や修正が必要になった時、それにどう対応していくかは、実に悩ましい問題だと思うのだ。
エジプト神話 神々名簿
http://www.moonover.jp/bekkan/god/index.htm
まあ個人的な趣味なのでぼちぼちやっているわけだが、この内容、紙にしようと思ったことはない。Webで、いつでも更新できるからこそ続けていられるのである。何故かというと、神話という既に変化することもなく固定化された情報でさえ、新たな発見や解釈のし直しによって変化することがある からなのだ。
たとえば、ハトメヒトという女神がいる。
ナイル下流の海に近い街の守護女神であり、名前は「魚の第一のもの」を意味するという。頭の上に魚のシンボルを載せた女神で、完全な魚の姿をとることもある。
ハトメヒト
http://www.moonover.jp/bekkan/god/hatmehit.htm

https://www.brooklynmuseum.org/opencollection/objects/17602
インターネットで簡単に画像検索できる今だからこそ、見れば「これは魚だな」と分かるが、ハトメヒトのページを作り始めた当初では、神話の本には堂々と「ハトメヒトはイルカの女神である」と書かれていた。
実際、今でもイルカ説を唱える学者はいるし。守護地が海岸線沿いの街なのでイルカを見たことがなかったとは言えないのだが、どう見ても図像がイルカではないし、神格化された動物はミイラにされるのが習わしなのにイルカのミイラは出てきていない。出てきているのは魚のミイラである。
イルカは頭もよく神秘的だから…みたいな現代欧米人の信仰を古代エジプトに当てはめようとした、だいぶ無理のある説だったのだ。それに気づいたのは、作り始めてから何年か経ったあとのことであった。
また面白い(?)事例としては、アヌビス神のモデルがキンイロジャッカルではなかったという更新もあった。
アヌビス
http://www.moonover.jp/bekkan/god/anubis.htm

これは、そもそもアフリカにいるキンイロジャッカルと思われていた動物が、DNAを調べてみたら、実はキンイロジャッカルではなかったというオチである。
新しくつけられた種族名は「アフリカン・ゴールデン・ウルフ」で、ジャッカルではなく狼の仲間となった。つまり「アヌビスのモデルはジャッカル、または狼とされる」という本の記述はちょっと古くて、「アフリカにいる狼と思われる」となる。エジプトにジャッカルは住んでいなかったのだ。
他には、最近「とーとつにエジプト神」というシリーズで、実際には存在しない「オッター」という神名で紹介されてしまったカワウソがある。オッターとはカワウソの英語名である。説明は以下に書いたので適当に流し読みでもしてほしい。
エジプト神ソフビの中の謎の「オッター」の正体とは。
https://55096962.seesaa.net/article/202002article_13.html
ただ、こちら中身の動物ミイラを見ないと、カワウソなのか、その他の動物なのかが分からない仕様となっている。
古代エジプトの動物ミイラのケース、カワウソ・マングース・トガリネズミが同デザインであることが判明
https://55096962.seesaa.net/article/201611article_1.html
学者によって、この像をカワウソと書いてる場合とマングースと書いてる場合があり、どっちだよ…となると思うのだが、実は両パターンあり、さらにトガリネズミという派生もある。古代エジプトの芸術ははんこ絵が基本。人間型の神様が全員同じようなポーズで描かれるように、太陽を崇める動物も片っ端から同じポーズにされてしまった、ということなのだろう。
これは実際に博物館巡りをして数を見ないと、中身の動物が何種類もあるとはなかなか気づきにくい。本を書いてる学者さんも、あまり興味がなければ、最初に出会った一体の話しか書かないのだ。
また本の誤植? で性別の認識が違っていた神もいる。
シェセムは最初に読んだ本では女性と書かれていて、役割のえげつなさに似合わんなあ…と思っていたのだが、像を探し当てると男性だった。単語一つ違うだけで勘違いは発生する。
これらはごく一部に過ぎず、この20年の間にページはかなり書き換え・補注の書き足しなどがされている。
数千年も前に信仰としては消滅した神話に出てくる神名に関わる内容で、しかも公正さや正確性はあまり気にしないレベルで運用してすら、これなのである。現実世界でまだ生きている用語や動いている事象について辞典を作るのはさぞかし大変だろうとは分かる。
「辞典・辞書を作るということは、情報を集めるだけでもそれだけ大変」。そして「情報は常に動き、訂正されていくものなので、紙面に固定化するのはよほどの覚悟がなければ出来ない」。
これは、自分がこれまでの経験で学んだことである。
もちろん同人誌即売会で各種ジャンルのお手製辞書を売ってる人たちに何か言いたいわけではないのだけれど、紙で出したものは、Webのように簡単には直せない。これは辞書だろうが新書だろうが研究書だろうが書籍全てにかかってくる話でもあるが、動かせなくなった情報に訂正や修正が必要になった時、それにどう対応していくかは、実に悩ましい問題だと思うのだ。