古代エジプト・女性のミイラから卵巣腫瘍の痕跡と護符が見つかる。病気の時に祈る神様とは。
ミイラらになっていても生前の病気がわかることはあり、これもその一つ。アマルナ近郊(正確には砂漠の部分)で見つかった若い女性のミイラから、卵巣腫瘍の痕跡が見つかったという。植物繊維のマットに包まれていて18歳から21歳。この女性が若くして亡くなっていることから、腫瘍が死因になった可能性は高い。
論文
A mature ovarian teratoma from New Kingdom Amarna, Egypt
https://www.sciencedirect.com/science/article/abs/pii/S187998172300061X?via%3Dihub
写真いりの記事
Rare tumor with teeth discovered in Egyptian burial from 3,000 years ago
https://www.livescience.com/archaeology/ancient-egyptians/rare-tumor-with-teeth-discovered-in-egyptian-burial-from-3000-years-ago
卵巣腫瘍だとわかったのは、ちょうど子宮の部分に石灰化した腫瘍の塊があったからと、その腫瘍は珍しいことに「歯」をともなっていたからだという。調べてみると、卵巣腫瘍には「卵巣の中に髪の毛や脂肪・歯など、ヒトのさまざまなパーツが発生する」という症状があるようで、お腹が張って苦しくなるらしい。
(「ピノコじゃん…」と思ったのは内緒)
で、気になったことがある。
埋葬の仕方からして庶民だったのだろうが、彼女が持っていた護符は出産や母子などの守り神、ベス神の刻まれた護符だったのだ。
古代エジプトの治療は、基本的に薬草+護符や祈祷など神頼み、となっている。これは医療パピルスの中身が薬の作り方と呪文の組み合わせで構成されていることから推測される。薬自体も科学的なものというよりは気休め、あるいはゲンかつぎにしか見えない宗教的な材料の組み合わせの部分もある。いわば心霊治療だ。
それ自体を古代の迷信とばかにするつもりはない。ただ、下腹部が張って痛い、という自覚症状があっただろう中で、ベス神を選んだ心理が面白いなと思ったのだ。婦人の守護者であるハトホルでも、妊婦の守り神であるタウレトでもなく、家庭的な守り神。
見た目はファンキーなおじさん。
実は自分、前々から、庶民のミイラと一緒に出てくるベス神の護符が多いことが気になっていた。神話への露出度と、庶民の信仰度合いとはかなり違うんじゃないかと。神話は王族・貴族や神官など地位のある人や、文字の読める一部の人のためのもので、それ以外9割の庶民にとっての最も死重要な神は、地元の守り神である地域神と家庭の守り神だったのではないかと。
逆に言うと、たとえば薬草の神ネフェルテムや、疫病を支配するセクメトのような大神たちは、一般庶民が困った時にとっさに祈る対象としては遠すぎたのでは、ということだ。
日本で言うと、地元の小さな神社や道祖神やお地蔵さんのほうが困りごとの相談先としては一般的だった、というような話。
子宮に出来た悪性腫瘍は、古代世界では助かりようもない不幸だ。
宗教の悪い側面が大きく取りざたされる現代だが、どうしようもないことの多い古代世界においては、宗教/神の救いは必須だった思う。祈ることで気が晴れるなら、あるいは少しでも希望が持てるなら、それは悪いこととは思えない。
少し感傷的すぎるかもしれないが、遺体とともに収められた小さな護符からは、当時の人たちの願いや祈りが伝わってくるような気がするのだ。
論文
A mature ovarian teratoma from New Kingdom Amarna, Egypt
https://www.sciencedirect.com/science/article/abs/pii/S187998172300061X?via%3Dihub
写真いりの記事
Rare tumor with teeth discovered in Egyptian burial from 3,000 years ago
https://www.livescience.com/archaeology/ancient-egyptians/rare-tumor-with-teeth-discovered-in-egyptian-burial-from-3000-years-ago
卵巣腫瘍だとわかったのは、ちょうど子宮の部分に石灰化した腫瘍の塊があったからと、その腫瘍は珍しいことに「歯」をともなっていたからだという。調べてみると、卵巣腫瘍には「卵巣の中に髪の毛や脂肪・歯など、ヒトのさまざまなパーツが発生する」という症状があるようで、お腹が張って苦しくなるらしい。
(「ピノコじゃん…」と思ったのは内緒)
で、気になったことがある。
埋葬の仕方からして庶民だったのだろうが、彼女が持っていた護符は出産や母子などの守り神、ベス神の刻まれた護符だったのだ。
古代エジプトの治療は、基本的に薬草+護符や祈祷など神頼み、となっている。これは医療パピルスの中身が薬の作り方と呪文の組み合わせで構成されていることから推測される。薬自体も科学的なものというよりは気休め、あるいはゲンかつぎにしか見えない宗教的な材料の組み合わせの部分もある。いわば心霊治療だ。
それ自体を古代の迷信とばかにするつもりはない。ただ、下腹部が張って痛い、という自覚症状があっただろう中で、ベス神を選んだ心理が面白いなと思ったのだ。婦人の守護者であるハトホルでも、妊婦の守り神であるタウレトでもなく、家庭的な守り神。
見た目はファンキーなおじさん。
実は自分、前々から、庶民のミイラと一緒に出てくるベス神の護符が多いことが気になっていた。神話への露出度と、庶民の信仰度合いとはかなり違うんじゃないかと。神話は王族・貴族や神官など地位のある人や、文字の読める一部の人のためのもので、それ以外9割の庶民にとっての最も死重要な神は、地元の守り神である地域神と家庭の守り神だったのではないかと。
逆に言うと、たとえば薬草の神ネフェルテムや、疫病を支配するセクメトのような大神たちは、一般庶民が困った時にとっさに祈る対象としては遠すぎたのでは、ということだ。
日本で言うと、地元の小さな神社や道祖神やお地蔵さんのほうが困りごとの相談先としては一般的だった、というような話。
子宮に出来た悪性腫瘍は、古代世界では助かりようもない不幸だ。
宗教の悪い側面が大きく取りざたされる現代だが、どうしようもないことの多い古代世界においては、宗教/神の救いは必須だった思う。祈ることで気が晴れるなら、あるいは少しでも希望が持てるなら、それは悪いこととは思えない。
少し感傷的すぎるかもしれないが、遺体とともに収められた小さな護符からは、当時の人たちの願いや祈りが伝わってくるような気がするのだ。