小さな虫の大冒険:ヒトにのみ寄生するシラミのDNAから、ヒトの移動の歴史が分かるかも。

基礎知識として、シラミは寄生主の選り好みの激しい生物とされている。イヌのシラミはイヌにしか付かず、ヒトジラミはヒトだけに寄生する。なので、そのDNAを分析すれば寄生主の移動・移住の歴史も分かるのでは。というのが今回見つけた論文の研究。

ちなみにDNA的には近いヒトとチンパンジーのシラミも別系統で、両者のDNAが分離する560万年くらい前という数値はヒトと他の霊長類の祖先が分離した時期とほぼ重なるとされている。そういった先行研究からすると、確かにヒトジラミのDNA系統樹が作れるならヒトの移住についても分かる。さらに、子孫を作らない接触(交易だけしてた、など)も出てくるかもしれない。

面白いとこに着目するなという感じ。古代人はシラミ持ってる確率がほぽ100パーだったらしいので、検出さえ出来れば系統樹は書ける。
ただ、難点は…難点は、シラミの生体が残る環境じゃないと使えない手法 というところだ…。

Nuclear genetic diversity of head lice sheds light on human dispersal around the world
https://journals.plos.org/plosone/article?id=10.1371/journal.pone.0293409#pone.0293409.ref014

日本やアジアはサンプルとれる国が限られている!
いや、うん、知ってました。そうよね。腐るよね。残りやすいはずの人骨ですらまともに残ってないか、残ってても骨内部のDNAが採取出来ない高温多湿地域だもんね…。日本のサンプルは全然入ってなくて、なんか察した。モンゴルはわりと残ってる。

journal.pone.0293409.g003.PNG

journal.pone.0293409.g005.PNG

とまあ、サンプルにちょっと偏りがあるかなーって気はしたけど、結果としてはわりと妥当な、というか面白みのない流れが出来ている。クラスターは大きく二つに別れ、ユーラシア大陸含む旧世界とアメリカ大陸で大きく異なるという。病原菌のDNAもだいたいそうなのでまあ同じ結果。新世界とは人の接触が本当に無かったんだろうなと思う。

あとモンゴルのシラミのDNAが孤立気味なのも面白い。騎馬遊牧民が移動しまくっていたのかと思いきや、それはわりと近代の話で、古代世界的には乾燥した地域であまり他の地域の人間との接点なくヒトが暮らしていたらしい。
参考までに、最近の研究でタリム盆地の人間のDNAが孤立していたという話があったので、このへんとも絡むのかと思う。

”楼蘭の美女”は古代人の末裔か。タリム盆地の「西洋人風」のミイラ、ゲノム解析で古代からの土着民と判明
https://55096962.seesaa.net/article/202110article_25.html

あとシラミ関連の研究だとこれ

ミイラにつくアタマジラミから宿主のDNAを採取? 驚きの手法が開発される
https://55096962.seesaa.net/article/202201article_2.html

古代人の頭からシラミの死体を探して、汚染されていないDNAを検出して…と、手間がかかる方法ではあるが、研究手法としてはとても面白い。それに、子孫や物的証拠を残していない人間集団の接触を読み取れるかもしれないのは可能性が広がる。
今のところ人の移住・拡散の既存説から外れていないので面白みはないが、外れ値が出てきたときにどう転ぶかはちょっと楽しみ。