中世ヨーロッパ風ファンタジーの奴隷制度、実はアラビアン・ナイトなのでは。という話

突然だが、ライトノベルなどによく出てくる中世ヨーロッパ風世界における奴隷制度について話をしてみたい。市場にはたいてい、エルフや獣人など多くの種族が売られており、話の展開上、主人公が美少女を買うことが多い。またはキーパーソンが売り飛ばされていたり、主人公自体が奴隷出身だったり、酷い目に会っていた奴隷たちを解放する展開などもよくあるパターンだ。

しかしこれ、よくよく考えてみたら全部アラビアン・ナイトに出てくる。

…と、いうことに、アラビアン・ナイトに出てくる女奴隷についての解説本を読んでるうちに気づいてしまった。
中世ヨーロッパ風と見せかけて、奴隷市場のシーンは中世アラブだったのだ。

アラビアン・ナイトの中の女奴隷──裏から見た中世の中東社会 (ブックレット《アジアを学ぼう》別巻) - 波戸愛美
アラビアン・ナイトの中の女奴隷──裏から見た中世の中東社会 (ブックレット《アジアを学ぼう》別巻) - 波戸愛美

アラビアン・ナイトは日本では「千夜一夜物語」というタイトルで知られる。実際に千夜ぶんあるのは19世紀に成立した新しい写本で、この本では14-15世紀に成立した写本、話数は足りないが古い時代の奴隷観がよく残っていると考えられるライデン版を元に考察している。
美しい女奴隷は高く売れるとか、奴隷から王の愛妾になるとか、賢い女奴隷が主人公の若者を助ける話とか、ラノベでさんざん見た話がアラビアン・ナイトの中にはある。
また、奴隷市場に出回る女性たちが「タタール娘、エチオピア娘、フランク娘(フランク=フランス、ヨーロッパを指す)、ルーム娘(ルーム=ローマ、ビザンツを指す)」と多岐に渡り、アフリカ系、アジア系、ヨーロッパ系と全般扱われていたことも分かる。いろんな種族の娘たちが売られている異世界と同じなのだ。

なお中世アラブの世界はイスラーム世界でもあるので、奴隷を解放するのは「徳を積む行為」だし、妻を複数持てるので奴隷を愛妾にしたり二人目以降の妻に迎えたりしても倫理的な問題は無い。(家庭内の問題は起きるかもしれないが。)
また人間はすべてアッラーのしもべである、とという価値観の世界のため、奴隷を使い捨てにするとか、モノのように扱うという描写はほぼ無い。文学作品を元にしているため、現実をどこまで反映しているかは定かではないが、少なくとも創作物の中における「奴隷」の扱いは、現代ラノベよりはずっとマシなように思われる。

あと、よく考えてみたら、ヨーロッパの中世文学で奴隷市場の話ってあんまり出てきた覚えがないな…。中世ヨーロッパ、アラブ世界向けの奴隷の輸出自体はやっていたし、アフリカ人とっ捕まえて奴隷として売り払うとかはとしていたけど、たぶんアラブほど奴隷市場自体が一般的じゃなく、市場で奴隷のセリが行われてるみたいな風景ではなかったと思うんだ。