ヒッタイト全般についてだいたい分かる本「ヒッタイト帝国 「鉄の王国」の実像」

エジプト本は多いのに、ヒッタイトがメインの本は少ない。最近リトンから「ヒッタイトの歴史と文化 」が出ていたが、一般書店に出回る前にネット通販で瞬殺されてしまった上にそもそも一般書ではなく専門書寄りだった。なので、お手軽な一般書の文庫版のヒッタイト本を出したかったというコンセプトは理にかなっている。とりあえず読んでみたが、初心者向けの導入としては良いカンジの内容だった。

ヒッタイト帝国 「鉄の王国」の実像 (PHP新書) - 津本 英利
ヒッタイト帝国 「鉄の王国」の実像 (PHP新書) - 津本 英利

本の構成として、まずヒッタイトとは何かという部分から入っている。多くの人がイメージするヒッタイトはエジプトとかち合ッテイタヒッタイト帝国時代だと思うのだが、いきな帝国が発生するわけもなく、長い前段がある。その中でアッシリア商人や、もともとアナトリアに住んでいた人たちの話も出てくる。実に親切。

あと中の人がその昔、調べるのに苦労したルウィ語についても、丁寧に説明してくれている。
あの時この本があればわざわざ個人輸入で本買ったり英語とかドイツ語のページを翻訳して四苦八苦しなくて済んだのに(笑) 今からヒッタイト入る人はめっちゃ楽よ多分。

またタイトルに「鉄の王国の実像」だが、日本でよく言われる、ヒッタイト=鉄の王国 というイメージは実はもう古いもので、最近の発見によってそこはだいぶ書き換わってますよという話が出ている。
これは昔このブログでも書いたことがあるが、ヒッタイトから発見される鉄器が少ないことや、技術を独占していたとは言えないこと、鉄器時代の始まりはヒッタイトの崩壊とは関係なさそうなことなどが挙げられている。

鉄器が広まり始めた理由と技術の変遷/ヒッタイト崩壊後、真の鉄器時代に至るまで
https://55096962.seesaa.net/article/201805article_10.html

実はヒッタイトの鉄器にこだわるのは日本特有の事情だ、という話がこの本の中に出てくるが、実際、個人輸入で手に入れた外国語の資料など見てみると、驚くほど鉄製造に関する記述が少ないんである。否定も肯定もされないので日本で今までに出ていた本に書かれていたイメージだった人は「??」ってなるのではなかろうか…。この本では、なんでヒッタイト=鉄のイメージになったのか、というあたりにも触れられている。

また「海の民」はヒッタイトの滅亡に直接関連していなさそうだという話や、エジプトとヒッタイトの戦車の使い方の違いなど面白い視点も入っていた。

ヒッタイトの通史も触れられているが、まぁ面白いほど内乱・暗殺・内ゲバの連続なので、よく国がもったな? としか言いようがない。
古代エジプト王朝は3000年続いたが、ヒッタイトは500年くらいで滅びてしまった。その理由は、海の民に求めなくとも、気候変動の影響を受けやすい天水農法をしていたことと、内ゲバ大国だったことでそれなりに納得のいく説明がつけられてしまう。

最後に残る謎は、「一時は権勢を誇ったヒッタイト帝国の思い出が後世に残らなかったこと」。旧約聖書にうっすらと痕跡を残すだけで、近くに住んでいたギリシャ人の資料に全然残らなかったのはやはり謎すぎる。これは昔から本当に何でやねんと思っているのだが、偶然に偶然が重なった結果なのかもしれないなあ…。


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おまけ

ヒッタイトの言葉4種と範囲・内容の覚書き
https://55096962.seesaa.net/article/491566706.html

ヒッタイト滅亡後のアナトリア、知られざる「王国」の石碑が発見される
https://55096962.seesaa.net/article/202002article_22.html

幻の「カラシュマ語」、ヒッタイトの首都から発見される
https://55096962.seesaa.net/article/500922058.html