歴史ものと見せけかたシュールギャグ映画「ナポレオン」、エジプトが出てくるので見に行ってきた(※ネタバレあり)

リドリー・スコット監督の大作映画「ナポレオン」。見に行くか微妙だなあと思っていたのだが、エジプトマニア界がザワついていたのでちょっと見に行ってきた。
まず最初にその部分について記載する。

映画公式
https://www.napoleon-movie.jp/

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エジプトが出てくるのは、史実としてナポレオンがエジプトに上陸したシーンだ。ナポレオンが率いた軍に学者が付き添い、取られた記録が貴重な「エジプト誌」という書物に纏められたことはエジプトマニアとしては必須の知識である。
ちなみにロゼッタ・ストーンもナポレオン軍なしでは発見されることはなかった。その後、イギリスに接収されてしまったので現在はイギリスにあるのだが、解読者もフランス人である。
もっとも、この映画ではそのへんは出てこない。

映画はナポさんの軍歴を追っていく長編なのでエジプト部分はざっくりなのだが、何故かピラミッド前を行軍中にピラミッドを砲撃するのである。
何の前フリもなく。
ピラミッドから上がる白煙。えっ???? て感じである。まずその距離からピラミッド上部を砲撃するのは無理じゃねえか? ※細かい

あと何故かピラミッド前でミイラを盗掘してその声を聞こうと耳を寄せるシーンがある。…のだが、ミイラのポーズが王族である。両手を胸の前で汲んでいる。そしてお顔はセティ1世からラメセス2世をモデルにしたと思われる、鷲鼻のシュッとした第19王朝フェイス。

棺はの末期王朝スタイルなのに包帯の巻き方と中身が新王国時代、かつやたらと保存状態がよく、ミイラマスクも顔の部分の包帯もないのは違和感がある。最大限、好意的に見れば、事前にミイラの顔を見せるために適当な棺にミイラを入れて準備しておいた設定なのかもしれないが。まあそんなことはともかく、このピラミッド破壊と王族ミイラの盗掘シーンはそりゃエジプトマニアざわつくわなぁという感じであった。

さらに細かいことを言えば、出てくるエジプト人の人足が、肌の色と体格からしてヌビア人である。ピラミッド周辺に住むエジプト人はあそこまで内陸アフリカ的な見た目はしていない。なんでエジプト出した…あと何でマムルーク隊がボッコにされるシーンを挟んだ…。
「歴史が見下ろしている」の有名なセリフも無かった。カットされただけなのかもしれないし、観客はそんな有名なところはもう知ってるだろうから脳内補完してねってことなのかもしれないが、エジプトのシーンを入れる意味があったのかどうかも分からない。

この映画、全編通して「なんでこの歴史場面をチョイスした???」という感じの謎な場面が多かったように思う。




タイトルにも書いたように、私の感想としては、これは歴史を元ネタにしたシュールギャグ映画だと認識すべきものと思われる。「翔んで埼玉」と同じ路線。
なんか良くわからないけど大軍がわーって戦い合ってて、ナポさんが演説したら軍隊が「皇帝★バンザイ!」って叫びだす感じの。承認欲求モンスターな小男がぐちぐち言いながら妻の尻に敷かれて成り上がっていき、妻を失って凋落していくテンポの良いシュールギャグ。

ナポさんがエジプトから妻に「恋しい、会いたい」と真剣な手紙を書いている最中に明るい軽快な曲とともにジョゼフィーヌの寝室に場面が切り替わり、熱い不倫シーンが描かれる。これを笑わずに見ろというほうが無理だ。
妻の不倫を知ったナポさんはエジプトに軍隊置き去りにしてダッシュ帰宅。妻となんやかんやのメロドラマがあってよりを戻すが、子供が出来ないのでなんやかんやで離婚。

戦場→妻とのやりとり→戦場→妻とのやりとり の繰り返しでテンポよく進むのだが、テンポ良すぎてギャグになってるのである。あとナポレオンがあまりにキモいダメ男。ダメ男が成り上がったあと一気に転落するあたりの描写も、ギャグとしてはよく出来ている。ただし、歴史ファン、軍オタ、ナポレオン・ファンとの親和性は最悪だと思う。

よく言えば「ナポレオンを愛に悩む等身大の姿で描いた映画」。

悪く言えば「ナポレオンを矮小化してカリスマ性を全て剥ぎ取った映画」。

監督がイギリス人なので巧妙なフランスdis映画なのでは、とちょっと疑ってしまうくらいナポさんのカリスマ性はゼロである。なんで軍隊がついていくのかもわからないし、なんで成功したのかも、皇帝になれたのかもさっぱり分からない。周知の歴史としてそのへんは脳内で補完しろ的なやつなのかもしれない。補完したらしたで「何でこの戦場をチョイスしたんだ」ってなっちゃうけど。

イギリス軍のえらい人がちゃんと戦場で紅茶飲んでたのとかもギャグ映画としては高評価ですね。他の歴史描写? …うんあの、軍オタとの親和性が悪いって言った時点でお察しください。わちゃわちゃしてるシーンの迫力はあったんだけど、軍オタの人に細かい評価は任せる。

それと、フランスが舞台なのにみんな英語で喋るので、見に行くなら吹き替えがお勧めです。
…フランス革命とか大好きな日本では、この映画あんまウケないと思うんですよね…。