ヤクの家畜化は少なくとも2,500年前には始まっていた。チベット高原の調査から

ヤクとは、みんなおなじみチベットにいる毛むくじゃらの牛みたいなやつである。厳密には牛ではなく交配できる近縁種。
寒さに強く、酸素が薄くても活動できるという、チベットでは無くてはならない家畜なのだが、いつから家畜化されたのかはっきりしていなかったらしい。というかチベットは現在、中国が支配しているので、中国さんが発掘しないと結果が発表されないのである。

今回の調査ではBangaという村から出てきた骨を分類して、2500年前らは家畜化されていた可能性が高いと言える結果が出たようだ。

Evidence for early domestic yak, taurine cattle, and their hybrids on the Tibetan Plateau
https://www.science.org/doi/10.1126/sciadv.adi6857

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参考までに、一般的な牛の見た目はこれ
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ヤクはこれ
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似てるんだけど別種と分かると思う。鳴き声とか実際に動いてるところを見るとさらに違いはわかりやすい。
中の人もチベット行った時に見かけたが、標高4000mくらいの超空気うっすい極寒の地でもゆうゆうと動いてるの見て「あっこれ勝てない」って悟った思い出。

論文内に出てくる種族の一覧はこれ。
「Bos」はウシ科全般のことで、一般的な家畜ウシ、インドのコブ牛「ゼブ」、野生ヤク、家畜ヤクといったものが区別される。問題は骨の状態だとどれに当たるのかがかーなり判別厳しいらしいことだ。今回の調査では193個の骨が分類されているようだが、難航したらしいことがうかがえる。

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で、確実に家畜ウシと分かるものがメスのウシ5体ぶん、オスのヤク1体ぶん。DNAの分析結果で、▲の印がついている場所がそれ。
ウシのほうは西ヨーロッパあたりで家畜化されたやつが持ってこられているようで、インドのコブウシではない。

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面白い分析方法だと思ったのは、「ウシとヤクの混血の痕跡を探す」という方法である。
実はウシとヤクは近縁種として交配できるのだ。これを「ゾ」という。メスのゾはさらに子孫を繋ぐことが出来るが、オスのゾは不妊となる。これは染色体の本数の関係と思われる。
なので混血の系統は母系でのみ遺伝することになり、系統を辿りやすいのだ。

ウシとヤクの混血が存在した最古の地点は、当然ながらヤクのほうも家畜化されている可能性が高いと言うことが出来る。両者の生態はかなり異なり、人為的以外での交配の可能性はそれほど高くないはずだ。

結果として、混血は約2600年前から2300年前には発生していた、となり、中間の2500年前というのが家畜化されていただろう時代の妥当なラインとなっている。
これなら、野生のヤクと家畜化されたヤクが骨などの見た目から判別しにくくても納得の結果になる。

ただ問題は、現在の野生ヤクと、家畜化されたヤクの間の遺伝的な繋がりが見えないらしいことだ。
どうも今そのへんいるヤクをそのまま家畜化したわけではないらしい。チベット高原のどこか一部の地域で家畜化されて、母集団のほうは既に絶滅してしまった、とかなのかもしれない。

いずれにしろ、チベット高原は気候が厳しく酸素が薄くて活動がマジ厳しいところなので、調査はこれから進んでいくのかなと思う。
たぶん今でてる年代は遡っていくんだろうな…家畜化されてすぐ混血の利点に気づくってことはないだろうから。