コブラの毒は意外と死ねない…クレオパトラの本当の死因は「不明」だよという話

「クレオパトラはコブラの毒で自殺したことで有名な女王だが」と、さも既知の事実のように書かれていて、あー世間的にはまだこれのままなのか…と思ってしまった中の人。あれ後世の伝承の一つで、現在では最も有名になってるエピソードってだけで、実際の死因ははっきりしないんですよね…。

エジプト考古学とかエジプト史の世界だと、「コブラに噛ませて自殺したという伝承がある」という書き方になってて、実際そうだったと考えている人はほぼいないかと思います。

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ツッコミ入れてる人はそれなりにいるんですが、有名所だとこれとか。

Snake unlikely to have killed Cleopatra
https://www.manchester.ac.uk/discover/news/snake-unlikely-to-have-killed-cleopatra/

・コブラはデカすぎてイチジクの籠に隠すとか無理やぞ
・毒を出さずに噛む事が多いから複数人一気に殺すのは無理やぞ
・そもそもエジプトコブラの毒は遅効性の神経毒で死亡率10%しかないぞ

エジプトコブラの平均的な大きさは1.4m、冷静に考えると確かにこっそり運び込むのは無理。西洋絵画に描かれるコブラが実際より小さすぎるんですね…。しかも基本的に夜行性らしい。真っ昼間に噛んでもらうのはちょっと厳しい?
死亡率低めなのもネックですかね。確実に死にたい場合にはおすすめできない方法。

Egyptian_Cobra_Ouraeus.png


さらに以下のように、古代エジプトの医療パピルスの中に毒蛇に噛まれた時の対処法があるため、よっぽど発見が遅くなければ毒が全身に回る前に救命出来たのでは? という意見もあったりします。

Researchers extol skills of ancient Egyptian medics
https://phys.org/news/2023-12-extol-skills-ancient-egyptian-medics.html

なお、この件について「古代エジプトには現在よりもはるかに多くの毒蛇が生息していたんだから、クレオパトラが死ねるヘビも生息していたのでは?」という反論をしてくる人がいるかもしれないので、その意見も潰しておく。元になっている論文は以下になる。

Ancient Egypt had far more venomous snakes than the country today, according to new study of a scroll
https://phys.org/news/2023-10-ancient-egypt-venomous-snakes-country.html

日本語で記事にしているところは以下。

古代エジプトには想像よりもはるかに多くの毒蛇が生息していた
https://karapaia.com/archives/52326827.html

読めば分かるがこれは約4200年前までの「エジプト王国初期ごろの気候では」動物の生息範囲が違っていたのでは、話であり、それから2000年以上もあと、紀元前後の時代に生きていたクレオパトラの時時代には当てはまらない。そもそもクレオパトラが住んでいたのはエジプト北部の地中海沿岸、大都会アレキサンドリアである。近くにアフリカ内陸部の毒蛇が生き残れる場所はない。また、クレオパトラの時代には、人口が増えたことや灌漑が進んだことによって、ナイル川沿いからはナイルワニやカバですらほとんど姿を消していた。

ブルックリン・パピルスが新しい時代のものとしても、内容はそれ以前の内容を書き写していることにも注意しておく必要がある。四本牙の蛇(ナミヘビの仲間)がクレオパトラ当時にエジプトに生息していたとは言い切れない。というかもし生息していたとしても、結局はデカい蛇を部屋の中にこっそり運び込めるかどうか、という問題になるので、出来た可能性は低い…。

というわけで、「クレオパトラはコプラに噛ませて自殺した」は、悲劇的なシチュエーションのために定着した後世の伝承で、歴史的な事実とは分けて認識したほうがいいです。ほんとにコブラ使った可能性はゼロじゃないけど、可能性は低いと認識しておくのが無難ですね。