「クフ王のピラミッド建設者」ヘムオンさんが空気すぎる理由を考えていた

「ジェセル王の階段ピラミッド」の設計者とされるイムホテプは、後世には神格化され崇められた人物である。現代日本でも有名でありゲームで美少女化されたりマンガに出てきたりする。墓は発見されておらず、実在の人物だった可能性は高いが直接的な物証には乏しいにも関わらずもである。

史実と後世の伝承のはざま 古代エジプト神官イムホテプの伝承はどこまで史実なのか
https://55096962.seesaa.net/article/501510630.html

それに対し、「クフ王のピラミッド」の設計責任者・建設監督であったとされるヘムオン/ヘミウヌは、墓が見つかっており像まであるのに、ほぼ無名である。てか自分も、年末に本棚の整理しながら出てきた本をパラパラめくってて「あー…そういやこんな人いたなぁー…」って思い出してたくらいなんである。

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階段ピラミッドは確かに、ピラミッド時代の先鞭をつけたエポック・メイキング的な建造物だった。しかし、世界最大のピラミッド、クフ王のピラミッドを築いたはずの人物だって、評価されても不思議はないはずである。が、後世に神格化された様子もないし、あまりに扱いが小さい。何故なのか。

…ということを考えていたとき、あることに気づいて泣きそうになってしまった。

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●ヘムオンさんプロフィール

クフ王の甥、王族で世襲の宰相。古王国時代のエジプトは王族が要職を専有するのが普通だつた。
姉妹や兄弟が多数いたことが墓から知られている。「王の息子」「宰相」「建築監督官」「裁判長」「トト神の家の5人の中で最も偉大な者」などの称号を持ち、クフ王時代の大規模建造の総責任者であったことが分かる。
墓はギザにあるG4000、生きていた時代は紀元前2,500年頃でイムホテプと100年も離れていないくらいの時代である。
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ヘムオンもイムホテプも、ピラミッド建設に関わっていたとされるが、実際どこまで関わったのか詳細までは記録に残っていない。
ただ、イムホテプは王族ではなかったと考えられており、「設計者」とされる伝承があるのに対し、ヘムオンは王族で世襲だったことが分かっており、「建築責任者」ではあるものの「設計者」とする伝承が無い。

イムホテプのほうが現場への関与度が高く、ヘムオンは実際には現場の指揮を取らずに報告だけ受けている責任者だったのではないかと思う。だとすると、前者だけが後世に神格化された理由は良くわかる。イムホテプはインディーズ開発者からライセンスごと大企業に買われてCEOになったクチであり、ヘムオンさんは、そのライセンスを買った大企業で下請け協力会社に発注だけ出していたSIer的ポジションだからだ。

…え? 喩えになんか私情が入ってる?
そこは気にしちゃいけないよHAHAHA


また、もしヘムオンさんが現場にしっかり入ってベンダーコントロールまでしている立場だったとしても、出来上がった大ピラミッドの状況を見るに、だいぶプロジェクトを炎上させたのではという感じがする。玄室が内部に三つもある時点で察して欲しいのだが、設計が二転三転した跡がたくさん残っているのだ。
ちなみに近年になってミューオン技術で見つかった空間も、通路を作ろうとして止めて埋めた跡だと考えられている。

上からの指示が変わるたび、現場監督たちは自分のチームの進捗をリカバリしなくてはならなくて大変だったと思う。そんな時に進捗だけせっついてくるプロパーはめちゃくちゃ嫌われる。ヘムオンさんの立場…そういうやつだったんじゃないかなこれ…。
階段ピラミッドだって何度も設計を修正した跡はあるのだけれど、総工数が膨大だった分、大ピラミッドのほうが設計変更のハレーションは大きかったのは想像に難くない。

彼が優秀なPMだったのか、優秀な部下に丸投げするだけの無能なお飾りPMだったのかは分からないので、実際は無能すぎて人望が無かったとかかもしれないけど、苦労したわりに後世にぜんぜん名前が残らなかったし、イムホテプみたいに崇められることもなかった。

近い時代に生きており、どちらも歴史的建造物に関わっていながら、片方は神扱い、片方は坐像が「古王国時代の代表作品」として知られる、という感じで評価が別れてしまった。歴史とは、実に面白い。