古代世界で金属矢じりの矢は超高級品。うかつに出すと財政破綻しちゃうゾ★ というわけで矢じり種類の資料を置いておくよ

古代エジプトイラスト、矢じりに金属ついてるやつけっこう見かけて「この時代の青銅くっそコスト高なんでそれはちょっとファラオ様の財政が厳しいぞ??」って思ったんだけど、よく考えたら一般人そもそも古代の矢とか知らんよなって思ったので、少し詳しいめにまとめておくことにした。

●古代世界の「弓」

まず、弓には単弓と複合弓がある。単弓は単純に一本の木を曲げて紐をくくりつけたような形のもの。複合弓は複数の材料を紐で縛るなどして一本にまとめて張りを良くしたもので、単弓より威力が上がる。
古代エジプト世界で弓兵の重要度が上がるのは、この複合弓の技術が入ってきてからで、第二中間期以降になる。

●対人戦用と狩猟用

対人戦に使われるようになるまでは、弓は基本的に狩猟用である。また対人戦で使われるようになってからも、狩猟用という目的は相変わらず別に存在する。当然ながら、両者で使う矢は同じではない。

実は対人用のほうが矢じりが適当である。人間は毛皮ない分、貫通しやすいので。
金属が貴重で金属鎧なんてほぼない時代では、せいぜい革鎧で胴体部分を守れていれば御の字。弓兵側も、低コストの矢を大量に射掛けて傷を負わせて戦意を失わせることさえ出来ればそれでヨシ。一撃必殺的な威力は必要ない。
結果として、木製の矢の使用が多くなる。

●実際の矢の例

墓に納められた矢の資料がいくつかある。
有名所だとこのへん。矢じりはついていない。

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https://www.britishmuseum.org/collection/object/Y_EA47570_1

あと探せばツタンカーメン墓から出てきた矢などもサンプルとして見つかると思う。

●時代/場所による矢じりの差

以下の資料がとても詳しいが、詳しすぎて全部読むのが面倒くさいと思うので、まとめの表の部分だけ出してみる。

Interpretations of Prehistoric Technology from Ancient Egyptian and other Sources. Part I : Ancient Egyptian Bows and Arrows and their relevance for African Prehistory.
https://www.persee.fr/doc/paleo_0153-9345_1974_num_2_2_1057

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まず材料には「石」「骨」「木材」「金属」と4種類ある。
金属矢じりが高いなら石にすればいいじゃない、と思うかもしれないが、石を削って小さく加工するのも手間なんである。複合弓が開発され、弓自体の威力が上がった時代であれば、硬い木の先を削って鋭くするだけでも人に刺さる。

で、木を削った一本矢の何が便利かと言うと、戦場で敵の死体に刺さってたやつを引っこ抜いて再利用できるんである。先が鈍っても削り直せば良し。これが石や金属の矢じりだと、敵に刺さったまま先っぽがロストしてしまうことがあるので、勿体ない。
鎧がまだそれほど重要視されていなかった古代世界での戦闘であれば、この低コストタイプの矢を大量に使うのが便利。「矢は高い、ヌビア兵を出せ!」…とはならなかったのだ。

金属矢じりで矢らしい形をしたタイプは新王国時代の終わり頃から、主に末期王朝時代の産物になる。この頃は鉄器時代に入り始めており、金属のコストが下がってきていた。

※青銅は材料となる錫が限られた土地でしか取れないため採掘・輸送が高コスト
※鉄は鉱山が多いため青銅よりは低コスト

また、対人戦用いがいの矢で面白いのだと「鳥撃ち用」なども表に載っている。



…というわけで、

・複合弓の登場前とと登場後では矢のトレンドが違う
・金属矢は高コスト、戦争で使うなら木製
・鳥撃ち用の矢は対人用のゴツいのとは違う
・鉄器時代に入ると金属矢じりの矢も多くなる(=防具も発達する)

このへん抑えておくと、古代世界の戦争風景の解像度が上がるし、エジプト絵にもリアリティが出て私が嬉しいかと思います! よろしくお願いします!!!!(笑)