古代エジプトの「昼」と「夜」の長さは季節ごとに変わる。「1時間後」はだいぶ違うが「昼●時」は意外と固定

古代エジプトでは、「1時間」の長さが夏と冬で異なる。
日の出ている時間を12等分して「昼の12時間」、日の沈んでいる時間を12等分して「夜の12時間」。

時間を計測するために水時計を使っていたのだが、ご丁寧にも12ヶ月ぶん、12通りのメモリが刻まれているんである。

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※いちばん有名なカルナック神殿出土の水時計

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で、当然ながら、夜が長いのは冬、短いのは夏になる。
その差ってどのくらいなんだろう、とちょっと計算してみた。以下は、現代カイロでの日の出・日の入データからの計算になる。

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3/1
日の出 06:19
日の入 05:54

日照時間 11h 34m

6/1
日の出 04:54
日の入 06:51

日照時間 13h 57m

9/1
日の出 05:32
日の入 06:17

日照時間 12h 44m

12/1
日の出 6:33
日の入 4:54

日照時間 10h20m

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3月
昼の1時間 58分
夜の1時間 62分

6月
昼の1時間 70分
夜の1時間 50分

9月
昼の1時間 64分
夜の1時間 56分

12月
昼の1時間 52分
夜の1時間 68分

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こんなに違うのかよ?! と、ちょっとビックリしてしまった…。
いや、つか、1時間が50分か70分かってだいぶ違うんだが。1時間の長い夏場はノンビリ仕事できるけど、冬場はちょっぱやで仕事しないと終わらなくない?


では次に、「昼の8時に行う神殿の儀式」があったとして、その時間が何時になるのかを計算してみる。

ちなみに古代エジプトでは、”一日”のカウントは、現代のように真夜中12時ではなく、夜明け前(日の出ではなくその手前の薄明の時間)からスタートだったと考えられている。つまり、太陽神ラー様がお目覚め→太陽の船で東の地表から出勤すると日付が変わる。
とはいえ、電燈もない古代世界では人間は光がない時間帯は活動しないので、基本的に夜は寝てるだけである。夕方に「また明日」と言って別れたら、翌日の朝に「明日」になっている。日付変更が真夜中か明け方かの違いだけなので、現代人の感覚とそう大きくズレるわけでもない。

というわけで、仮に、一時間の長さはそのままに、昼の12時間のスタートを日の出1時間前に繰り上げ、夜の12時間の始まりを日の入り1時間前として計算してみる。すると、面白いことが見えてくる。

3月
1日の開始から7時間44分後 13時3分

6月
1日の開始から9時間20分後 13時14分

9月
1日の開始から8時間32分後 13時4分

12月
1日の開始から6時間56分後 13時29分

*計算面倒だったんで日の出60分前を1日の始まりで設定しちゃってますが、正確に出したい場合は夏と冬の昼/夜の1時間の分単位を考慮してください。

昼と夜の長さはかなり違うのに、「昼xx時」という絶対座標だと時間があまり変わらないのだ。そう、1時間が長い夏だと、1日の始まりも長いぶん、途中の時間にやる予定の儀式は一年中だいたい同じ時間になるよう設定されている。
水時計を使った12ヶ月それぞれの目盛りは、神官たちが正確に時間どおり儀式を行うために作られたのでは、とされているが、このシステムだと確かに、毎日同じくらいの時間に儀式を出来る。1分1秒まで計測しなくてもいい古代世界ではこれで十分な正確さだっただろうなあ、と思うのだ。

……まあ、あれだ。
……1時間の長さがぜんぜん違うので、「1時間後に待ち合わせ」とか「xxまで2時間かかった」とかの描写は、古代エジプトもので出すならちょっと注意かな。