実際の出土品から見る、古代エジプトの女性たちのアクセサリー。「ナンチャッテ・エジプト」には出てこないものについて

まずは、実際には広く使われていたはずで出土例もそこそこあるのに創作界隈では全くといいほど触れられず、スルーされているアクセサリーについてプッシュしておきたい。古代エジプト絵を描く人、作品をつくる人は、このへんも入れていい。

こちら、中王国時代に墓の副葬品として多く作られた人形である。以前紹介した、パドル・ドールと似た用途だったのではとされる。この人形の身につけているアクセサリーが、実際に女性たちの埋葬から出土している。
以下、中王国時代の出土品から実在したアクセサリーを追ってみよう。

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※博物館サイト
https://www.metmuseum.org/art/collection/search/591470

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※博物館サイト
https://hindmanauctions.com/items/10576643-an-egyptian-faience-female-figure

人形は足が切れているので、以下の墓の壁画で補完する。

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1.ティアラ
創作界隈だと新王国時代のハゲワシの王妃っぽい王冠が多いが、ビーズや金細工のティアラも使われていた。

2.髪の毛にビーズ
長い髪にビーズを結びつけたカツラが見つかっている。おしゃれ。
ティアラとヘアビーズの実例は以下。

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3.でっかい首飾り
しずく型のブローチみたいなものをぶら下げたペンダントも実際に出土している。
幅広の首飾りだけじゃなく、いわゆるペンダントというのもあったのだ。これはエジプトっぽくないので外国のデザインでは? と言われてる出土品。
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4.チェーン腕輪
ビーズのブレスレットと言うべきものもあるが、細い禁のチェーンみたいなのをからめたやつもある。
腕輪のタイプは実に様々で、創作絵でよくみるガッチリした幅広の腕輪だけでは決して無い。

5.ボディチェーン/チェーンベルト/ガードル
人形のほうには、ほぼ必ずタカラガイを結びつけたチェーンベルトが描かれている。中王国時代の流行りだったのだと思われる。
タカラガイは形状が女性器に似ていることから、安産のお守りや子沢山祈願などの意味をこめて腰につけられていたのでは、とされる。

他、肩にななめに掛けられているビーズチェーンらしきものあるが、これは実際に出土した記録がないので分からない。ビーズはバラバラになって出土するため、元は一本の長いチェーンだったとしても、気づかれずに腕輪と首輪のように別々に復元されてしまった可能性もあるそうだ。

6.鳥の爪飾り
なんだこれカッケェな! と思って探しにいったのだが、マジでこの形状の出土品があった。足に鷹の爪つけてオシャレしてたよ古代の貴婦人。
多分これも何か意味のある護符だったのだろう。

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ここに出していないものでは、あと指輪も実際には存在する。
ただし、イヤリングだけはまだ存在しない。イヤリング/ピアスは外来文化で、一般に使われるのは新王国時代に入ってから。ツタンカーメンのマスクがピアスしているのは、あれは外国文化を取り入れた結果なのだ…。

というわけで、知名度は低いが実際には存在したアクセサリーは結構ある。
個人的に、古代エジプト史を通していちばんデザインが好きなのは中王国時代のアクセです。


私はね、こういう首飾りを並べて、「今日はどれをつけようかな♥」とか選んでる、かわいい古代エジプト人ギャルが! 見たい!
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アクセの種類について詳しい説明を読みたい人はこれオススメ。邦語がないけど…。
Tomb Treasures of the Late Middle Kingdom: The Archaeology of Female Burials (English Edition) - Grajetzki, Wolfram
Tomb Treasures of the Late Middle Kingdom: The Archaeology of Female Burials (English Edition) - Grajetzki, Wolfram


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以下はおさらい


古代エジプトのイラストでは何故か「黒髪サラサラのおかっぱ髪」というヘア・スタイルが多用されるが、実はこの髪型は実際には古代エジプト人がしてた髪型ではなく近代の創作イメージである。という話を、以前書いた

髪を切るハサミもない時代に、前髪1センチだけ切るとかも出来ないんだから、伸ばすんなら2つに分けるだろう。実際、前髪分けのロングは多く見られる。男性でおかっぱっぽく見えてるやつはすべて髪型を編み込んだカツラで、カツラの下は大抵、短く刈り込まれていた。

で、今回は「リアル」なアクセサリーについてである。
これまた、金色の下地に鮮やかな青や赤の宝石をはめ込んだ腕輪や足輪、幅広の首飾りなどが創作界隈の定番だが、実際には、幅広の首飾りは王族など特権階級の装飾で、おそらく貴族ですらほとんど身につけていない。葬儀のさいに特別に作られる装飾品として形だけ墓に入れるか、棺の蓋に描くだけだったと思われる。という話も、以前、紹介した

何千年も前のことなので、すべてのファッションが記録に残っているわけではない。一般庶民の記録はほとんど無い。
また、埋葬用に特別に作られる装飾品もあったと考えられていることから、特に新王国時代は、墓に入れられた装飾品を本当に使ったかどうかの判断が難しい。

ただ、少なくとも、故人の好みでチョイスされ、日用品と一緒に埋葬されたものたちは、実際に使ってた愛用品だと判断していもいいと思うのだ。