ウマはいつ家畜化されたのか: 追加研究が出て紀元前2,200年頃でほぼ確定に。各所の専門家は修正がんばって!
ここまでの おさらい:
かつてウマは、「紀元前3,500年頃に家畜化され始めた」と考えられてきた。ボタイ遺跡から出土しているウマの骨がその証拠とされた。
が、古代ウマのDNA情報の分析結果や、ウマが家畜化されてから拡散までの時系列がいまいち巧く構築されないことから、なんか違うんじゃないかと議論が交わされていた。
そこへ、2021年に新たに「紀元前2,000年頃から各地のウマのDNAが急速に均一化されはじめるため、このあたりで家畜化されたと見るのが妥当」という説が出た。詳細はその当時に書いた以下を参照。
2021年に出た新説→
家畜化された馬の起源論争、ついに決着か。現代に繋がる主流の馬の起源地が特定される
https://55096962.seesaa.net/article/202110article_18.html
で、今回、その説をさらに裏付ける、「紀元前2,200年頃に家畜化されたと思われる」という論文が出た。
たぶんこれで定説として確定するんじゃないかなあ…と予想。
Widespread horse-based mobility arose around 2,200 BCE in Eurasia
https://www.nature.com/articles/s41586-024-07597-5
というわけで、ウマの家畜化された時期は、過去説より2,000年近くあとの時代に移動してしまった。
以下のような変遷があるので、もし何かの本を手に取って「デレイフカ」や「ボタイ」という言葉を見たら、ああ過去説で指標とされていた遺跡か…と思ってください。
デレイフカ 紀元前4,000年 → ボタイ 紀元前3,500年 → ヴォルガ・ドン川流域? 紀元前 2,200年<現在説>
ではボタイで見つかった大量のウマの骨は何だったのかというと、家畜化したのではなく、狩猟対象として近所のウマを狩っていた痕跡だろうとされる。ウマは、当初は肉や皮などを手に入れるための野生動物だったのだ。一時的に、短期間飼っていた可能性はあるが、家畜ではなかった。
家畜として人間の手で世代交代させはじめたのは、そこから1,000年ほど後。家畜化されたウマのDNAは、野生のものとは差異が出ているという。
また、ウマを家畜化したのが紀元前2,000年前後ということは、「紀元前3,000年頃にユーラシア大陸から馬を連れた遊牧民族がヨーロッパに大量移住してきた、それによって人が入れ替わった」という説が使えなくなる。より具体的には、ヤムナヤ文化や、インド・ヨーロッパ語族のヨーロッパへの移住との関連である。
ウマが家畜化されたのはヤムナヤ文化が衰退したあとだし、インド・ヨーロッパ語族はもうヨーロッパに入った後なのだ。では、一体だれがウマを飼いならし、各地へ拡散させたのか?
…それが、次なる「謎」として提示される。
研究は終わらないし、歴史ファンの楽しみも尽きることはない。
研究者の次の論文を正座してお待ちしております。
いやーしかし、騎馬遊牧民の歴史本とか、ユーラシア大陸のウマ飼育の本とか、修正大変そうだなぁー! (笑顔で見守る)
*****
[>オマケ
新説が出るまでの過去経緯。
かつては古代のDNAの分析をする技術が確立されていなくて、遺跡からウマの骨がでたら「飼ってたはず!」みたいな結論を出していたのが、分析手法の登場によって研究が飛躍的に進んでいったのが分かる。
まあこれでオリエントにおけるウマ利用の歴史とは整合性が取れたので、自分的には納得している。
(2020年)
飼育馬の起源地、アナトリア説も否定されさらに分からなくなる
https://55096962.seesaa.net/article/202009article_16.html
(2018年)
野生馬、実は絶滅していた!というニュース→元ソースの本題は「馬飼育の歴史が想定と違う」
https://55096962.seesaa.net/article/201803article_2.html
かつてウマは、「紀元前3,500年頃に家畜化され始めた」と考えられてきた。ボタイ遺跡から出土しているウマの骨がその証拠とされた。
が、古代ウマのDNA情報の分析結果や、ウマが家畜化されてから拡散までの時系列がいまいち巧く構築されないことから、なんか違うんじゃないかと議論が交わされていた。
そこへ、2021年に新たに「紀元前2,000年頃から各地のウマのDNAが急速に均一化されはじめるため、このあたりで家畜化されたと見るのが妥当」という説が出た。詳細はその当時に書いた以下を参照。
2021年に出た新説→
家畜化された馬の起源論争、ついに決着か。現代に繋がる主流の馬の起源地が特定される
https://55096962.seesaa.net/article/202110article_18.html
で、今回、その説をさらに裏付ける、「紀元前2,200年頃に家畜化されたと思われる」という論文が出た。
たぶんこれで定説として確定するんじゃないかなあ…と予想。
Widespread horse-based mobility arose around 2,200 BCE in Eurasia
https://www.nature.com/articles/s41586-024-07597-5
というわけで、ウマの家畜化された時期は、過去説より2,000年近くあとの時代に移動してしまった。
以下のような変遷があるので、もし何かの本を手に取って「デレイフカ」や「ボタイ」という言葉を見たら、ああ過去説で指標とされていた遺跡か…と思ってください。
デレイフカ 紀元前4,000年 → ボタイ 紀元前3,500年 → ヴォルガ・ドン川流域? 紀元前 2,200年<現在説>
ではボタイで見つかった大量のウマの骨は何だったのかというと、家畜化したのではなく、狩猟対象として近所のウマを狩っていた痕跡だろうとされる。ウマは、当初は肉や皮などを手に入れるための野生動物だったのだ。一時的に、短期間飼っていた可能性はあるが、家畜ではなかった。
家畜として人間の手で世代交代させはじめたのは、そこから1,000年ほど後。家畜化されたウマのDNAは、野生のものとは差異が出ているという。
また、ウマを家畜化したのが紀元前2,000年前後ということは、「紀元前3,000年頃にユーラシア大陸から馬を連れた遊牧民族がヨーロッパに大量移住してきた、それによって人が入れ替わった」という説が使えなくなる。より具体的には、ヤムナヤ文化や、インド・ヨーロッパ語族のヨーロッパへの移住との関連である。
ウマが家畜化されたのはヤムナヤ文化が衰退したあとだし、インド・ヨーロッパ語族はもうヨーロッパに入った後なのだ。では、一体だれがウマを飼いならし、各地へ拡散させたのか?
…それが、次なる「謎」として提示される。
研究は終わらないし、歴史ファンの楽しみも尽きることはない。
研究者の次の論文を正座してお待ちしております。
いやーしかし、騎馬遊牧民の歴史本とか、ユーラシア大陸のウマ飼育の本とか、修正大変そうだなぁー! (笑顔で見守る)
*****
[>オマケ
新説が出るまでの過去経緯。
かつては古代のDNAの分析をする技術が確立されていなくて、遺跡からウマの骨がでたら「飼ってたはず!」みたいな結論を出していたのが、分析手法の登場によって研究が飛躍的に進んでいったのが分かる。
まあこれでオリエントにおけるウマ利用の歴史とは整合性が取れたので、自分的には納得している。
(2020年)
飼育馬の起源地、アナトリア説も否定されさらに分からなくなる
https://55096962.seesaa.net/article/202009article_16.html
(2018年)
野生馬、実は絶滅していた!というニュース→元ソースの本題は「馬飼育の歴史が想定と違う」
https://55096962.seesaa.net/article/201803article_2.html