ネコだけは許された。アッシリアの通史本「アッシリア 人類最古の帝国」
クーラーに当たりに本屋に入ったら、新刊コーナーにアッシリア本がありまして。
おっ読むか~と手にとり(以下いつもの)
アッシリア 人類最古の帝国 (ちくま新書) - 山田重郎
というわけで、エジプトやメソポタミアに比べて少ないアッシリアの資料本がでたのですよ。
ヒッタイト史から見たアッシリアは、まだ帝国になる以前の時代にアナトリアにカールムと呼ばれるコロニーを作ってたアッシリア商人について言及される。
エジプト史から見たアッシリアは、王権の衰退した末期に攻め上がってくる夷狄、または対バビロニア戦争を共同で戦った一時の同盟国という扱い。
ギリシャ史だと、ヘロドトスなどの歴史家が書いた伝説。聖書学からはバビロン捕囚関連。
周辺の文化/歴史を学ぼうとすると、要所要所に顔を出すのだが、そういえばアッシリア自身を主役にして歴史本って今まであんまり見たことなかったな?? と、今更のように気がついた。自分の中の知識も、紀元前2,000年のアッシリア商人の時代から、紀元前8世紀のエジプト支配まで、間がかなりすっ飛んでいる。
そこを埋めてくれる本だった。
とはいえ、アッシリアの歴史、そもそも空白が多い。
アナトリアにコロニーを作っていた紀元前2,000年前後から数百年の「古アッシリア」のあと、紀元前1,500年前後から数百年の「中アッシリア」があり、その後、有名な「新アッシリア」が紀元前1,000年前後から紀元前600年ごろまで続く。
上記はものすごくざっくりとした時代区分だが、数百年繁栄したあと記録の少ない混乱期が数百年続く繰り返しで、いまいち安定しないのである。そして新アッシリアで大帝国を築き上げたあとは、あっというまに瓦解して消え去ってしまう。ヒッタイトといいアッシリアといい、駆け抜けるのがめちゃめちゃ早い。
エジプトやメソポタミアの通史に比べれば、期間的には短いのだが、そこを全部繋げて語ろうとするとそれなりのボリュームになるし、「分かってること」「わからないこと」を区別して書くのが大変。この本はそこを気を使って書いてくれてるので、読み応えもあるし、安心して読むことが出来た。
本のラストには、アッシリアがなぜ衰退したか? という話も出てくる。
気候変動で降水量が減ってたのでは、という説は、以前取り上げたので参考までに。
新アッシリアは旱魃で衰退したか 鍾乳洞の石から気候を測る研究
https://55096962.seesaa.net/article/201911article_21.html
あと、既存のアッシリアが軍事大国としての側面ばかり取り沙汰されていた…という話だが、これは歴史本というより兵器の本を読むと意味がわかる。オススメはこれとか。アッシリアに一体なんの恨みが?!って言うくらい、残虐な軍事国家として表現されている。まあバビロン攻め滅ぼすのにガッチガチの攻城兵器編み出して古代世界の戦闘を書き換えたりしてるんで、兵器オタ視点だとそうなっちゃうのかも。
戦闘技術の歴史1 古代編 - サイモン・アングリム, 天野 淑子
それと、タイトルにある「人類最古の帝国」の部分、ウル第三王朝の世界システムやヒッタイト帝国やエジプト新王国時代は帝国じゃないのか? という当然出てくるだろうツッコミに対する、著者なりのアンサーも本文の中に出てくるのでご安心を。「帝国」という言葉をどう定義するかが定まらない中、人によって基準が違うんだなということは分かった。
なお一点だけ文句を言うとすると、古代エジプト第26王朝のネカウ王が「ネコ」と書かれてしまったせいで、これが王名だと知らない人には「ネコ????? エジプトはネコに支配されていた?????」ってなっちゃうとこであるw たぶん10人の読者のうち5人くらいは二度見したと思う。
ネコはギリシャ語読みだから、他のアッシリアの王とあわせて、ネコ(ネカウ)って本来の読み方も併記したほうが良かったんじゃないかな。
些細なところですが…。
*****
[>おまけ
メソポタミアから見たアッシリアのポジションは、この年表を参照。アッシリア衰退後、バビロニアもメディアもみんなペルシャに支配されます諸行無常。
ネブカドネザル2世は世界史リブレットで本が出ている。
読んだ時の感想はこれ
ネブカドネザル2世: バビロンの再建者 (世界史リブレット人 3) - 山田重郎
本の最後に出てくる復興アイデンティティとしてのアッシリア人については、以前調べた。
キリスト教がらみで誕生したアイデンティティらしく、まさかの東方正教の本に出てくるという結果に。
https://55096962.seesaa.net/article/201901article_24.html
最近見つかったナボニドス王の碑文についての資料も置いておく。
https://55096962.seesaa.net/article/202107article_23.html
おっ読むか~と手にとり(以下いつもの)
アッシリア 人類最古の帝国 (ちくま新書) - 山田重郎
というわけで、エジプトやメソポタミアに比べて少ないアッシリアの資料本がでたのですよ。
ヒッタイト史から見たアッシリアは、まだ帝国になる以前の時代にアナトリアにカールムと呼ばれるコロニーを作ってたアッシリア商人について言及される。
エジプト史から見たアッシリアは、王権の衰退した末期に攻め上がってくる夷狄、または対バビロニア戦争を共同で戦った一時の同盟国という扱い。
ギリシャ史だと、ヘロドトスなどの歴史家が書いた伝説。聖書学からはバビロン捕囚関連。
周辺の文化/歴史を学ぼうとすると、要所要所に顔を出すのだが、そういえばアッシリア自身を主役にして歴史本って今まであんまり見たことなかったな?? と、今更のように気がついた。自分の中の知識も、紀元前2,000年のアッシリア商人の時代から、紀元前8世紀のエジプト支配まで、間がかなりすっ飛んでいる。
そこを埋めてくれる本だった。
とはいえ、アッシリアの歴史、そもそも空白が多い。
アナトリアにコロニーを作っていた紀元前2,000年前後から数百年の「古アッシリア」のあと、紀元前1,500年前後から数百年の「中アッシリア」があり、その後、有名な「新アッシリア」が紀元前1,000年前後から紀元前600年ごろまで続く。
上記はものすごくざっくりとした時代区分だが、数百年繁栄したあと記録の少ない混乱期が数百年続く繰り返しで、いまいち安定しないのである。そして新アッシリアで大帝国を築き上げたあとは、あっというまに瓦解して消え去ってしまう。ヒッタイトといいアッシリアといい、駆け抜けるのがめちゃめちゃ早い。
エジプトやメソポタミアの通史に比べれば、期間的には短いのだが、そこを全部繋げて語ろうとするとそれなりのボリュームになるし、「分かってること」「わからないこと」を区別して書くのが大変。この本はそこを気を使って書いてくれてるので、読み応えもあるし、安心して読むことが出来た。
本のラストには、アッシリアがなぜ衰退したか? という話も出てくる。
気候変動で降水量が減ってたのでは、という説は、以前取り上げたので参考までに。
新アッシリアは旱魃で衰退したか 鍾乳洞の石から気候を測る研究
https://55096962.seesaa.net/article/201911article_21.html
あと、既存のアッシリアが軍事大国としての側面ばかり取り沙汰されていた…という話だが、これは歴史本というより兵器の本を読むと意味がわかる。オススメはこれとか。アッシリアに一体なんの恨みが?!って言うくらい、残虐な軍事国家として表現されている。まあバビロン攻め滅ぼすのにガッチガチの攻城兵器編み出して古代世界の戦闘を書き換えたりしてるんで、兵器オタ視点だとそうなっちゃうのかも。
戦闘技術の歴史1 古代編 - サイモン・アングリム, 天野 淑子
それと、タイトルにある「人類最古の帝国」の部分、ウル第三王朝の世界システムやヒッタイト帝国やエジプト新王国時代は帝国じゃないのか? という当然出てくるだろうツッコミに対する、著者なりのアンサーも本文の中に出てくるのでご安心を。「帝国」という言葉をどう定義するかが定まらない中、人によって基準が違うんだなということは分かった。
なお一点だけ文句を言うとすると、古代エジプト第26王朝のネカウ王が「ネコ」と書かれてしまったせいで、これが王名だと知らない人には「ネコ????? エジプトはネコに支配されていた?????」ってなっちゃうとこであるw たぶん10人の読者のうち5人くらいは二度見したと思う。
ネコはギリシャ語読みだから、他のアッシリアの王とあわせて、ネコ(ネカウ)って本来の読み方も併記したほうが良かったんじゃないかな。
些細なところですが…。
*****
[>おまけ
メソポタミアから見たアッシリアのポジションは、この年表を参照。アッシリア衰退後、バビロニアもメディアもみんなペルシャに支配されます諸行無常。
ネブカドネザル2世は世界史リブレットで本が出ている。
読んだ時の感想はこれ
ネブカドネザル2世: バビロンの再建者 (世界史リブレット人 3) - 山田重郎
本の最後に出てくる復興アイデンティティとしてのアッシリア人については、以前調べた。
キリスト教がらみで誕生したアイデンティティらしく、まさかの東方正教の本に出てくるという結果に。
https://55096962.seesaa.net/article/201901article_24.html
最近見つかったナボニドス王の碑文についての資料も置いておく。
https://55096962.seesaa.net/article/202107article_23.html