「古代エジプトには冷蔵庫があった!」→近隣の古代文明でも普通に使ってたよ、エジプト起源でもないし
日本にしかないものを褒めても「はいはい日本すごい系のやつね」って言う人がいたり、別に他の国でも普通に有るものなのに「これは日本にしかない!」と言ってるのが世の中に広まったりするのは良くあるパターンだが、古代文明でもそれは「あるある」である。
今回たまたま通りすがりに見つけてまったのは、「古代エジプトには冷蔵庫がある!」というやつである。
うん、あったよ。冷蔵庫っていうかツボね。
でもそれ、同時代のメソポタミアとかアラビア半島とかにも普通にあるから…。
砂漠の国の汎用知識だから…。
わりと最近発掘されていたここの遺跡(紀元前3,000年くらい)でも見つかっている。素焼きのツボを使い、表面から水が蒸発する時に熱を奪うことによって中を冷やすというもの。キンキンに冷えるわけではなく、あくまで「外気温は40度だけど中身は25度以下に保つぜ」くらいの性能。だが湿度が常に10パーセントとかの乾燥地帯では、たったそれだけで日持ちが変わるのだ。
イラク南部・ラガシュの遺跡で発見された食堂、現代の食堂に似た風景だったことが判明
https://55096962.seesaa.net/article/497615581.html
他にも、ソース忘れたけどアナトリア高原とかでも同様のツボを使った冷却システムは見つかっていたはず。
なので古代世界では汎用的な知識、かつ砂漠の国ならどこでも使えるので、別に古代エジプト特有ではないし、ものすごいテクノロジーを使っているわけでもない。気温が近くて限界まで乾燥した地域特有の技術、という文脈ならともかく、「古代エジプトすげえ」とか「古代文明すげえ」ではないし「古代エジプトにしかない」でもないのだ。
なお、このシステムは現代の砂漠でも使われている。
ヨルダンの砂漠ジープツアーでオアシスにたどり着いた時にベドウィンのテントにおいてあって、しかもツボの下にコックついてて「おおー」って思ったものだ。ただし、めっちゃハエとか蚊が狙ってくるので、ツボの口の部分は厳重にガードされている。ビニールなかった古代は大変だっただろうな…。
というわけで、古代エジプトの話をする時は、現在のエジプトの地理だけで考えず、隣接する地域まで見たほうがいいっす。
古代世界の国境は曖昧なので人や文化は簡単に移動・伝播するしお互い影響しあう。古代エジプトにしかないもの、古代エジプト特有のものと、近隣含めた当時の古代世界一般のものは区別する必要がある。
******
それともう一つ、時代区分の話をしたい。
メディアで「古代エジプトの遺跡」とか「古代エジプトのミイラ」と紹介されているものの中には、実はローマ属州時代のものも沢山混じっている。
つい先日、「古代エジプトの神殿をクリーニングしたらきれいな絵が出てきた!」とか報道されていたアレも、プトレマイオス朝~ローマ属州時代に建てられたもので、最後の改修は3世紀なので分類としては「古代エジプト」というよりは「グレコ・ローマン」である。
(余談だが、このクリーニングは5年くらい前から実施されていて最近終わったPJ。過去履歴は以下を参照)
エジプト・エスナの神殿をクリーニングしていたら新しい「星座の名前」が見つかった、という話
https://55096962.seesaa.net/article/202011article_23.html
エスナ神殿の天井画クリーニング・修復から、新年の神話の場面が明らかに。星と神話の物語
https://55096962.seesaa.net/article/501177994.html
歴史区分での「古代エジプト」は、厳密なところでいくと、ギリシャ系王朝であるプトレマイオス朝がはじまるまでを対象にすることが多い。プトレマイオス朝時代になると第一公用語がギリシャ語になるためエジプト学者が手を出しにくくなるのもある。
ただ、一般的には、プトレマイオス朝も古代エジプトに入れ、エジプトが独立を失う紀元前30年までを「古代エジプト(ファラオ時代)」と呼ぶことが多い。
それ以降のローマ属州時代の、古代エジプト風の文化が継続している時代全てを「古代エジプト」と表現するのは、実際には正しくないと思っているのだが、世の中的にそういう使い方をされている部分もあるので注意が必要。
たとえ、まだミイラを作っていたとしても、紀元後300年のエジプトが「古代エジプト」って言われたら違和感がないですかね…? ってこと。ローマが東西分裂してビザンツ支配になっても、まだ「古代エジプト」って書いてくるものもあるからなあ。
※そのへんの話は10年前にも書いたのだが。
古代エジプトは「いつからいつまで」? ローマもビザンツも一緒くたなのが解せぬ
https://55096962.seesaa.net/article/201406article_15.html
*****
地理空間と時間の定義。これはどちらも、歴史を考える上では必須の概念なのです…。
今回たまたま通りすがりに見つけてまったのは、「古代エジプトには冷蔵庫がある!」というやつである。
うん、あったよ。冷蔵庫っていうかツボね。
でもそれ、同時代のメソポタミアとかアラビア半島とかにも普通にあるから…。
砂漠の国の汎用知識だから…。
わりと最近発掘されていたここの遺跡(紀元前3,000年くらい)でも見つかっている。素焼きのツボを使い、表面から水が蒸発する時に熱を奪うことによって中を冷やすというもの。キンキンに冷えるわけではなく、あくまで「外気温は40度だけど中身は25度以下に保つぜ」くらいの性能。だが湿度が常に10パーセントとかの乾燥地帯では、たったそれだけで日持ちが変わるのだ。
イラク南部・ラガシュの遺跡で発見された食堂、現代の食堂に似た風景だったことが判明
https://55096962.seesaa.net/article/497615581.html
他にも、ソース忘れたけどアナトリア高原とかでも同様のツボを使った冷却システムは見つかっていたはず。
なので古代世界では汎用的な知識、かつ砂漠の国ならどこでも使えるので、別に古代エジプト特有ではないし、ものすごいテクノロジーを使っているわけでもない。気温が近くて限界まで乾燥した地域特有の技術、という文脈ならともかく、「古代エジプトすげえ」とか「古代文明すげえ」ではないし「古代エジプトにしかない」でもないのだ。
なお、このシステムは現代の砂漠でも使われている。
ヨルダンの砂漠ジープツアーでオアシスにたどり着いた時にベドウィンのテントにおいてあって、しかもツボの下にコックついてて「おおー」って思ったものだ。ただし、めっちゃハエとか蚊が狙ってくるので、ツボの口の部分は厳重にガードされている。ビニールなかった古代は大変だっただろうな…。
というわけで、古代エジプトの話をする時は、現在のエジプトの地理だけで考えず、隣接する地域まで見たほうがいいっす。
古代世界の国境は曖昧なので人や文化は簡単に移動・伝播するしお互い影響しあう。古代エジプトにしかないもの、古代エジプト特有のものと、近隣含めた当時の古代世界一般のものは区別する必要がある。
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それともう一つ、時代区分の話をしたい。
メディアで「古代エジプトの遺跡」とか「古代エジプトのミイラ」と紹介されているものの中には、実はローマ属州時代のものも沢山混じっている。
つい先日、「古代エジプトの神殿をクリーニングしたらきれいな絵が出てきた!」とか報道されていたアレも、プトレマイオス朝~ローマ属州時代に建てられたもので、最後の改修は3世紀なので分類としては「古代エジプト」というよりは「グレコ・ローマン」である。
(余談だが、このクリーニングは5年くらい前から実施されていて最近終わったPJ。過去履歴は以下を参照)
エジプト・エスナの神殿をクリーニングしていたら新しい「星座の名前」が見つかった、という話
https://55096962.seesaa.net/article/202011article_23.html
エスナ神殿の天井画クリーニング・修復から、新年の神話の場面が明らかに。星と神話の物語
https://55096962.seesaa.net/article/501177994.html
歴史区分での「古代エジプト」は、厳密なところでいくと、ギリシャ系王朝であるプトレマイオス朝がはじまるまでを対象にすることが多い。プトレマイオス朝時代になると第一公用語がギリシャ語になるためエジプト学者が手を出しにくくなるのもある。
ただ、一般的には、プトレマイオス朝も古代エジプトに入れ、エジプトが独立を失う紀元前30年までを「古代エジプト(ファラオ時代)」と呼ぶことが多い。
それ以降のローマ属州時代の、古代エジプト風の文化が継続している時代全てを「古代エジプト」と表現するのは、実際には正しくないと思っているのだが、世の中的にそういう使い方をされている部分もあるので注意が必要。
たとえ、まだミイラを作っていたとしても、紀元後300年のエジプトが「古代エジプト」って言われたら違和感がないですかね…? ってこと。ローマが東西分裂してビザンツ支配になっても、まだ「古代エジプト」って書いてくるものもあるからなあ。
※そのへんの話は10年前にも書いたのだが。
古代エジプトは「いつからいつまで」? ローマもビザンツも一緒くたなのが解せぬ
https://55096962.seesaa.net/article/201406article_15.html
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地理空間と時間の定義。これはどちらも、歴史を考える上では必須の概念なのです…。