古代エジプトに存在したのは「スイレン」、だがLotusの一般的な訳語はハスという面倒さ
まず最初に、古代エジプトに生えていたのは「スイレン」であり、「ハス」ではない。ということを念頭においてもらいたい。
「睡蓮」と書いている本は正解で、「蓮」と書いてある本は全て間違い。蓮はインド亜大陸から東南アジアあたりが原産のものと、アメリカ大陸が原産のもののニ系統が知られているが、どちらも古代にはエジプトに入ってきていない。そして見た目が似ていても実際には種として疎遠なため、細かい違いは沢山ある。
だが、エジプト本でよく見かける「ロータス(Lotus)」という英単語の一般的な翻訳は、実は「蓮」なのだ。
なので古代エジプトの資料に慣れてる人は自動的に「ロータス=睡蓮」と変換するところ、慣れていない人だと「蓮」と変換してしまう可能性がある。
そもそもLotusは元はギリシャ語λωτός (lōtós)で、そこからラテン語→英語とつながっている。ギリシャ人がエジプトのスイレンもLotusと呼んだのが、この面倒な状況の始まりっぽいのだが、実際にはインドのLotusとエジプトのLotusは花が似てるだけで別種なのだ…。なので、現在ではエジプトのスイレンだけ区別して Egyptian lotuses という言い方も存在する。
というわけで、違いをまとめておくことにした。
●スイレン
Water lilies (Nymphaea)
花と葉は厚め。花びらは尖っていてシャープ。
葉っぱが水面にはりついているのがスイレン、立ち上がるのがハスと言われているが、厳密にはその区別んが当てはまらない種もあるのであまりアテにならない。葉っぱで見るべきところは「大きな切れ込みが入っているかどうか」。そして、1m以上の深い水深にも対応して生えるのがスイレン。
スイレンは花が咲き終わると蕾が水没してしまうので、蓮コラみたいなグロいやつは残らない。
アジアなど温暖なところでしか育たないハスに比べ耐寒性の強い種が多い。開花時の強い香りが特徴で、古代エジプトの神話に「太陽神がスイレンの香りで活力を取り戻す」というものがあったり、墳墓や神殿に「スイレンの花を鼻先に掲げる」という図像が登場するのはそのため。(ハスは匂いがほとんどしない)
・参考ー「白スイレン」と言われているものは日本語で言うとヒツジグサ
・「青スイレン」と言われているものはNymphaea nouchaliで検索すると出てくる、古代エジプトの宗教文書に出てくる「Lotus」はだいたいこっち
●ハス
Lotus (Nelumbo)
花と葉はペラっとしている。花びらは丸みを帯びていることが多い。
葉っぱは丸く、切れ込みが入っていないのが特徴。30センチくらいの浅い池で育ち、あまり深い水には対応していない。
ハスは咲き終わると特徴的な種収容部分が水面に残る。有名な「蓮コラ」を思い出してもらいたい。
蓮コラの元になったブツブツのアレが残るのはハスだけで、スイレンにはない。
スイレンより寒さに弱く、香りはあまりしない。
というわけで、比べてみるとかなり違うことが分かると思う。次に古代エジプトの壁画や意匠でLotusが出てきた時は、このへん注意してほしい。
なお、古代エジプトには百合もまだ入ってきていない。原産地の一つに西アジアがあるが、エジプト芸術に登場しないので入ってきた証拠がない。コプト時代になると登場するようになるので、ファラオ時代が終了する頃には入ってきていたかもしれない、くらい。
もしもエジプト本にユリが登場した場合には、Water LilyのLily部分だけ訳したか、花の形だけ見て葉っぱを見ずにユリだと誤認したかだと思う。
(もちろん、ネフェルテム神もスイレンの化身の神である。)
「睡蓮」と書いている本は正解で、「蓮」と書いてある本は全て間違い。蓮はインド亜大陸から東南アジアあたりが原産のものと、アメリカ大陸が原産のもののニ系統が知られているが、どちらも古代にはエジプトに入ってきていない。そして見た目が似ていても実際には種として疎遠なため、細かい違いは沢山ある。
だが、エジプト本でよく見かける「ロータス(Lotus)」という英単語の一般的な翻訳は、実は「蓮」なのだ。
なので古代エジプトの資料に慣れてる人は自動的に「ロータス=睡蓮」と変換するところ、慣れていない人だと「蓮」と変換してしまう可能性がある。
そもそもLotusは元はギリシャ語λωτός (lōtós)で、そこからラテン語→英語とつながっている。ギリシャ人がエジプトのスイレンもLotusと呼んだのが、この面倒な状況の始まりっぽいのだが、実際にはインドのLotusとエジプトのLotusは花が似てるだけで別種なのだ…。なので、現在ではエジプトのスイレンだけ区別して Egyptian lotuses という言い方も存在する。
というわけで、違いをまとめておくことにした。
●スイレン
Water lilies (Nymphaea)
花と葉は厚め。花びらは尖っていてシャープ。
葉っぱが水面にはりついているのがスイレン、立ち上がるのがハスと言われているが、厳密にはその区別んが当てはまらない種もあるのであまりアテにならない。葉っぱで見るべきところは「大きな切れ込みが入っているかどうか」。そして、1m以上の深い水深にも対応して生えるのがスイレン。
スイレンは花が咲き終わると蕾が水没してしまうので、蓮コラみたいなグロいやつは残らない。
アジアなど温暖なところでしか育たないハスに比べ耐寒性の強い種が多い。開花時の強い香りが特徴で、古代エジプトの神話に「太陽神がスイレンの香りで活力を取り戻す」というものがあったり、墳墓や神殿に「スイレンの花を鼻先に掲げる」という図像が登場するのはそのため。(ハスは匂いがほとんどしない)
・参考ー「白スイレン」と言われているものは日本語で言うとヒツジグサ
・「青スイレン」と言われているものはNymphaea nouchaliで検索すると出てくる、古代エジプトの宗教文書に出てくる「Lotus」はだいたいこっち
●ハス
Lotus (Nelumbo)
花と葉はペラっとしている。花びらは丸みを帯びていることが多い。
葉っぱは丸く、切れ込みが入っていないのが特徴。30センチくらいの浅い池で育ち、あまり深い水には対応していない。
ハスは咲き終わると特徴的な種収容部分が水面に残る。有名な「蓮コラ」を思い出してもらいたい。
蓮コラの元になったブツブツのアレが残るのはハスだけで、スイレンにはない。
スイレンより寒さに弱く、香りはあまりしない。
というわけで、比べてみるとかなり違うことが分かると思う。次に古代エジプトの壁画や意匠でLotusが出てきた時は、このへん注意してほしい。
なお、古代エジプトには百合もまだ入ってきていない。原産地の一つに西アジアがあるが、エジプト芸術に登場しないので入ってきた証拠がない。コプト時代になると登場するようになるので、ファラオ時代が終了する頃には入ってきていたかもしれない、くらい。
もしもエジプト本にユリが登場した場合には、Water LilyのLily部分だけ訳したか、花の形だけ見て葉っぱを見ずにユリだと誤認したかだと思う。
(もちろん、ネフェルテム神もスイレンの化身の神である。)