古代エジプトの書記は体のどのへんに負荷がかかっていたか。骨の変形から見る結果
古代エジプトの書記の骨(というか関節)を調べて、その変形から仕事の負荷を見てみようという研究が出ていた。
論文のタイトルにもあるとおり、対象はアブシールで出土した古王国時代の書記たち。「書記」かどうかは、埋葬から上流階級だなというところや、墓の副葬品、故人の職業として歯書記だと明確に書かれているかどうかなどで判別しているらしい。正確な肩書きが不明な人のほうが多いので、ここはちょっと曖昧かなと思ったが、まあ古王国時代で個別の墓に埋葬される上流階級なら専業の書記じゃなくても書記スキルは持ってた可能性が高いかなあと思うので、ここはまあいいかな…
本文中にカイ二乗検定などの統計用語が出てくるが、これは、書記の遺骨と、書記以外の遺骨を別のグループにして、骨に見られる異変に「有意な差」があるかどうかを見るという手法を使っているから。集団間で誤差を越える明らかな差異がある部分は、職業病だった可能性がある。
Ancient Egyptian scribes and specific skeletal occupational risk markers (Abusir, Old Kingdom)
https://www.nature.com/articles/s41598-024-63549-z
で、古代エジプトの書記がどんなポーズで仕事をしていたかというと、こんな感じ。片膝を立てるか、あぐらをかくかして膝にパピルスのの巻物を載せて書く。足の組み方は人それぞれだっただろうが、右手にペンを持つスタイルが一般的だ。
このポーズで長時間労働をしたら、関節にどんな影響が出るのか。
結果として、首と肩の影響が最も大きく、膝部分はそれほどでもなかったそうだ。わずかに膝の右側に影響が見られたが、加齢によるものかもしれないのでそこまで明確とは言えない。頚椎と右肩の部分、右の第1中手骨、あご、右上腕骨、右大腿骨内側顆、左坐骨結節などの関節に、書記以外の骨よりも強い負荷が見られたという。
具体的な部位はググると出てくる。
頚椎と右肩はわかりやすい。膝に乗せた巻物に向かって俯いて、右手で文字を書いていたからだ。右の第1中手骨というのもペンだこが出来る部分だったのだろう。右大腿骨は、ひざを立てるポーズに関連していそうで、左の坐骨はあぐらをかいていたときに負荷がかかっていたのかもしれない。
分かりづらいのが顎で、これはペン先を整えるために頻繁に噛んでいたのではないかとされる。
古代エジプトの書記のペンは、紙に墨をこすりつけるようにして書くため先端が乱れたりインクが絡まったりしやすく、そのたびに先端を切り落として噛んで先端を整える必要があったそうなのだ。
ただ、顎の摩耗自体は食べ物や加齢によっても発生するため、書記特有のものかどうかは不明。
いずれにしろ、今回の調査で出た骨の異変の中で、書記特有のものだと確実に言えそうなのは、前かがみになることによる頚椎と右腕の負荷あたりのように思われる。座り仕事のわりに、正座した時のような下肢の負荷があまり見られないのは、もしかしたら頻繁に姿勢を変えていたとか、負荷のかかりづらい姿勢を各自で開発していたのかもしれない。
というか、書き物するなら凝る場所はやっぱ「目、肩、腰」だったんだろうなあ…と、シミジミ思った。
古代人にピッ●エレキバン的なやつとか温湿布とか配ったら神になれそう。あとタイムスリップするなら按摩・マッサージ技術もチートできると思います。
*****
[>おまけ
参考までに、粘土板に文字を書いていたメソポタミアの書記の仕事風景ははこんなかんじ。粘土板を手に持たなきゃならないのでけっこう腕の力がいる。
メソポタミアの書記、腕鍛えられてない? 粘土板に文字を書く時の重量負荷を計算してみる
https://55096962.seesaa.net/article/201912article_11.html
あと、書記坐像について。
古代エジプトの書紀坐像から考える、「職業への概念」
https://55096962.seesaa.net/article/493535221.html
最近発見された寺子屋の遺跡。
古代人の落書きコレクション。アトリビスの寺子屋から大量のオストラカが発見される
https://55096962.seesaa.net/article/202202article_3.html
(余談ですが、ITインフラ担当はデータセンターの床に座って膝の上にパソコン載せて、古代エジプト書記の格好でConfig流してることが稀によくあります。確かに首と肩がこる。そして寒い。たとえパイプ椅子でも、椅子のある現場は…大変ありがたいのです……。)
論文のタイトルにもあるとおり、対象はアブシールで出土した古王国時代の書記たち。「書記」かどうかは、埋葬から上流階級だなというところや、墓の副葬品、故人の職業として歯書記だと明確に書かれているかどうかなどで判別しているらしい。正確な肩書きが不明な人のほうが多いので、ここはちょっと曖昧かなと思ったが、まあ古王国時代で個別の墓に埋葬される上流階級なら専業の書記じゃなくても書記スキルは持ってた可能性が高いかなあと思うので、ここはまあいいかな…
本文中にカイ二乗検定などの統計用語が出てくるが、これは、書記の遺骨と、書記以外の遺骨を別のグループにして、骨に見られる異変に「有意な差」があるかどうかを見るという手法を使っているから。集団間で誤差を越える明らかな差異がある部分は、職業病だった可能性がある。
Ancient Egyptian scribes and specific skeletal occupational risk markers (Abusir, Old Kingdom)
https://www.nature.com/articles/s41598-024-63549-z
で、古代エジプトの書記がどんなポーズで仕事をしていたかというと、こんな感じ。片膝を立てるか、あぐらをかくかして膝にパピルスのの巻物を載せて書く。足の組み方は人それぞれだっただろうが、右手にペンを持つスタイルが一般的だ。
このポーズで長時間労働をしたら、関節にどんな影響が出るのか。
結果として、首と肩の影響が最も大きく、膝部分はそれほどでもなかったそうだ。わずかに膝の右側に影響が見られたが、加齢によるものかもしれないのでそこまで明確とは言えない。頚椎と右肩の部分、右の第1中手骨、あご、右上腕骨、右大腿骨内側顆、左坐骨結節などの関節に、書記以外の骨よりも強い負荷が見られたという。
具体的な部位はググると出てくる。
頚椎と右肩はわかりやすい。膝に乗せた巻物に向かって俯いて、右手で文字を書いていたからだ。右の第1中手骨というのもペンだこが出来る部分だったのだろう。右大腿骨は、ひざを立てるポーズに関連していそうで、左の坐骨はあぐらをかいていたときに負荷がかかっていたのかもしれない。
分かりづらいのが顎で、これはペン先を整えるために頻繁に噛んでいたのではないかとされる。
古代エジプトの書記のペンは、紙に墨をこすりつけるようにして書くため先端が乱れたりインクが絡まったりしやすく、そのたびに先端を切り落として噛んで先端を整える必要があったそうなのだ。
ただ、顎の摩耗自体は食べ物や加齢によっても発生するため、書記特有のものかどうかは不明。
いずれにしろ、今回の調査で出た骨の異変の中で、書記特有のものだと確実に言えそうなのは、前かがみになることによる頚椎と右腕の負荷あたりのように思われる。座り仕事のわりに、正座した時のような下肢の負荷があまり見られないのは、もしかしたら頻繁に姿勢を変えていたとか、負荷のかかりづらい姿勢を各自で開発していたのかもしれない。
というか、書き物するなら凝る場所はやっぱ「目、肩、腰」だったんだろうなあ…と、シミジミ思った。
古代人にピッ●エレキバン的なやつとか温湿布とか配ったら神になれそう。あとタイムスリップするなら按摩・マッサージ技術もチートできると思います。
*****
[>おまけ
参考までに、粘土板に文字を書いていたメソポタミアの書記の仕事風景ははこんなかんじ。粘土板を手に持たなきゃならないのでけっこう腕の力がいる。
メソポタミアの書記、腕鍛えられてない? 粘土板に文字を書く時の重量負荷を計算してみる
https://55096962.seesaa.net/article/201912article_11.html
あと、書記坐像について。
古代エジプトの書紀坐像から考える、「職業への概念」
https://55096962.seesaa.net/article/493535221.html
最近発見された寺子屋の遺跡。
古代人の落書きコレクション。アトリビスの寺子屋から大量のオストラカが発見される
https://55096962.seesaa.net/article/202202article_3.html
(余談ですが、ITインフラ担当はデータセンターの床に座って膝の上にパソコン載せて、古代エジプト書記の格好でConfig流してることが稀によくあります。確かに首と肩がこる。そして寒い。たとえパイプ椅子でも、椅子のある現場は…大変ありがたいのです……。)