東京に住む都会派カワセミと仲間たち「カワセミ都市トーキョー」

人の密集した環境は読み物がないとストレスに耐えきれない中の人ですよ。移動が多い週はとにかく本がほしいのです。
というわけで本屋適当に漁って見つけた本。なかなか面白くて一気に読めた。

カワセミ都市トーキョー 【電子限定カラー版】 (平凡社新書1049) - 柳瀬博一
カワセミ都市トーキョー 【電子限定カラー版】 (平凡社新書1049) - 柳瀬博一

ざっくり内容をまとめると、「カワセミといえば清流の鳥のイメージだが、東京の河川にはけっこうカワセミが住んでる」。
高度成長期に河川が汚染され、生物の死に絶えた死の川と化した東京の河川は、生態系が一度リセットされてしまった。だが、水が綺麗になったあと、外来生物や放流された魚を含む新たな生態系が作られ、そこに、上流から戻ってきたカワセミたちも組み込まれていったというのだ。

カワセミたちは、新たな環境に適応した。巣穴は河岸のコンクリ打ちの水抜き穴。川に投げ込まれた自転車の上をお気に入りの漁場とし、アリカザリガニを狩る。人間は自分の都合でしか自然を見ないことが多いので、「外来生物? 駆除したほうがいいよね!」となるが、当の自然のほうは外来だの在来だの気にしていないんである。鳥目線では、住む魚の種類が変わったなら、新しく食えるやつを穫ればいい。

本来の「古い自然」の中では清流静けさを好み、人間が近づくことすら嫌がっていたカワセミたちは、都会に再生された「新しい自然」に適応した結果、コンクリマンションに住み、都市騒々しさに慣れ、人間をカラス避けくらいにしか思わない無頓着さを身に着けた。
それも、ここ数十年の間に。

同じようにして都会に出てきた鳥たちは、他にもけっこういる。
オナガやハクセキレイなどもそう。道路や駐車場を高速で駆け回るハクセキレイの姿は、もはや見慣れた光景となった。が、彼らも本来の住処は都市部ではない。そして、かつては今ほど人間に接近することもなかった。
どうやら鳥界にも都会嗜好の波が押し寄せているらしい。

切っ掛けはたぶん、都市部での繁殖に成功した個体がいて、「あれ、意外と楽じゃん」と思ったことによるんだと思う。
カワセミの場合、河岸のコンクリ穴で繁殖すれば、穴を掘る手間が省ける。よっぽどの大雨でもなければ、川の水位上昇程度では流されない。コンクリ打ちなので崩れない。
この本では、都内に残った旧華族の邸宅や天皇家の御領など、古くから残る自然が避難所のように機能して、そこを足がかりに新しい自然の生態系が構築されたのでは、と推測していたが、確かにそれはありそうだ。

自然はしぶとく、自らルールを書き換えてゆく強さを持つ。
「守ってやらなければ」などと上から目線で思うは、人間のエゴなのだ。いち早く適応出来たものが生き残り、繁栄する。人も、鳥も、それ以外の生き物たちも、等しく自然界のルールに組み込まれているものなのだと思う。