帝国の支配者たる女たちの物語「モンゴル帝国 草原のダイナミズムと女たち」
本屋の新刊コーナーにあったので、移動中に読もうと思って手に取った。著者プロフィールを見ずに読み始めたので、てっきり中国人が日本語で書いていると思っていたのだが、なんとモンゴル人で、ある意味関係者だった(笑)
途中で「私の一族の場合」とか出てきて、「???」と思ったのだが、著者名は中国語ペンネームで、本名のモンゴル語名と帰化後の日本名もあるらしい。
モンゴル帝国 草原のダイナミズムと女たち (講談社現代新書) - 楊海英
モンゴル帝国は実は、カーンの妃たちによって運営されており、女性たちが政治の主役になることも多かった…というのが本の主題。
中国の記録では無視されがちな女性たちの存在について見直すべき、という指摘もされていた。
ハーンを決めるためには選挙手続きが必要だが、その空位の期間は妃が政治を取りしきることや、妃たちがそれぞれに天幕と家畜を放牧する領域を持っていて、ハーンといえど主たる妃の許可なしに天幕に滞在出来ないことなどが面白かった。
あと、生まれた男子は基本的に母親に教育されるので、母に頭が上がらないという話。叱咤されると引き下がるしかない。モンゴル人の男たちはみんなマザコン、とモンゴル人に言われると、「そ、そうか…」としか言いようがなかった。
レヴィ・レート婚の仕組みや、妃たちの「実家」が持つ後ろ盾の意味。名家から嫁いだ妃と、あまり権力を持たない家から嫁いだ妃ではそもそもの立場の強さが異なること。あと、妃たちの中にネストリウス派キリスト教徒も、仏教徒も、イスラム教徒もいて名前の系統がまちまちなのも面白い。モンゴル帝国の版図時代が広いので、東西のいろんな宗教・文化がまじりあっているのだ。そんな帝国を、草原の掟というべき礼儀と法律で縛って統一したのがチンギス・ハーン。女性たちは、制定された礼儀の守り手でもあり、子供たちの教育で叩き込む役割でもあった。
このあたりの事情が分かっていると、モンゴル帝国を舞台にした、女性たちが主人公の創作「天幕のジャードゥーガル」を読んだ時の解像度が上がるかもしれない。主人公は、トゥレゲネ妃と懇意にしていたファーティマという女性。
この「モンゴル帝国 草原のダイナミズムと女たち」では、彼女に同情的な論調でそれなりにページも割いているので、ある意味ネタバレの塊だが、本編の背景となる事象を学ぶのにも使えるかと思う。
天幕のジャードゥーガル 1 (ボニータ・コミックス) - トマトスープ
一昔前のモンゴル史は中華フィルタを通して見たものが多かった気がするのだが、最近はそのフィルタを外していろんな切り口の資料が出てくるので、自分にもようやくとっかかりが出来た気がする。(中華フィルタかかると、どの食材もぜんぶ中華料理の味になってしまって食べ飽きるのである…)
****
合わせて読むと理解が深まると思われるのが「モンゴル帝国と長いその後」。
あまり好きな語り口ではなかったが、モンゴル帝国とは何だったのか、どう解釈すべきなのか、みたいな一つの指標が示されている。(その解釈にまるっと従うかどうかは別として)
興亡の世界史 モンゴル帝国と長いその後 (講談社学術文庫 2352 興亡の世界史) - 杉山 正明
途中で「私の一族の場合」とか出てきて、「???」と思ったのだが、著者名は中国語ペンネームで、本名のモンゴル語名と帰化後の日本名もあるらしい。
モンゴル帝国 草原のダイナミズムと女たち (講談社現代新書) - 楊海英
モンゴル帝国は実は、カーンの妃たちによって運営されており、女性たちが政治の主役になることも多かった…というのが本の主題。
中国の記録では無視されがちな女性たちの存在について見直すべき、という指摘もされていた。
ハーンを決めるためには選挙手続きが必要だが、その空位の期間は妃が政治を取りしきることや、妃たちがそれぞれに天幕と家畜を放牧する領域を持っていて、ハーンといえど主たる妃の許可なしに天幕に滞在出来ないことなどが面白かった。
あと、生まれた男子は基本的に母親に教育されるので、母に頭が上がらないという話。叱咤されると引き下がるしかない。モンゴル人の男たちはみんなマザコン、とモンゴル人に言われると、「そ、そうか…」としか言いようがなかった。
レヴィ・レート婚の仕組みや、妃たちの「実家」が持つ後ろ盾の意味。名家から嫁いだ妃と、あまり権力を持たない家から嫁いだ妃ではそもそもの立場の強さが異なること。あと、妃たちの中にネストリウス派キリスト教徒も、仏教徒も、イスラム教徒もいて名前の系統がまちまちなのも面白い。モンゴル帝国の版図時代が広いので、東西のいろんな宗教・文化がまじりあっているのだ。そんな帝国を、草原の掟というべき礼儀と法律で縛って統一したのがチンギス・ハーン。女性たちは、制定された礼儀の守り手でもあり、子供たちの教育で叩き込む役割でもあった。
このあたりの事情が分かっていると、モンゴル帝国を舞台にした、女性たちが主人公の創作「天幕のジャードゥーガル」を読んだ時の解像度が上がるかもしれない。主人公は、トゥレゲネ妃と懇意にしていたファーティマという女性。
この「モンゴル帝国 草原のダイナミズムと女たち」では、彼女に同情的な論調でそれなりにページも割いているので、ある意味ネタバレの塊だが、本編の背景となる事象を学ぶのにも使えるかと思う。
天幕のジャードゥーガル 1 (ボニータ・コミックス) - トマトスープ
一昔前のモンゴル史は中華フィルタを通して見たものが多かった気がするのだが、最近はそのフィルタを外していろんな切り口の資料が出てくるので、自分にもようやくとっかかりが出来た気がする。(中華フィルタかかると、どの食材もぜんぶ中華料理の味になってしまって食べ飽きるのである…)
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合わせて読むと理解が深まると思われるのが「モンゴル帝国と長いその後」。
あまり好きな語り口ではなかったが、モンゴル帝国とは何だったのか、どう解釈すべきなのか、みたいな一つの指標が示されている。(その解釈にまるっと従うかどうかは別として)
興亡の世界史 モンゴル帝国と長いその後 (講談社学術文庫 2352 興亡の世界史) - 杉山 正明