「メジェド」という名前の古代エジプト神は本当は存在しない/名前が日本限定で定着した経緯とか
ここ最近、当たり前のように古代エジプトネタの創作物に顔を出すようになった「メジェド」という神がいる。
だが、この神が一躍有名になったのは2014年のことで、しかも日本ローカルの話である。
うん、めっちゃ最近なんだ。
でも10年前だから、当時のことを知らない人は経緯とか初耳かもしれないよね。だから書いておくよ。
●有名になった経緯
時を遡ること2014年、大英博物館展でグリーンフィールド・パピルスと呼ばれるクッソ長いパピルスが来日した。これは「死者の書」であり、死後の世界で使う呪文がたくさん書かれている。要するに古代人の使った冥界攻略本である。
その中に、特徴的な見た目をした存在がいた。
これが主にTwitter界隈で話題となり、トゥギャッターやまとめブログによって面白おかしく拡散された結果、知名度が上がった。
日本だけの現象であり、海外のエジプトマニア界でも一部で話題になったりはしたが、別に定着はしていない。グッズ作られるほど盛り上がりもしていない。まあ、たぶん日本特有のゆるキャラ好きカルチャーには合致したということなのだろう。
●「メジェド」という名前の意味
だが、この存在=神の名前は、おそらく「メジェド」ではない。
呪文内で「メジェド」と呼ばれているのは確かなのだが、それは「打ち倒すもの」という意味で、神の肩書き/別名/通り名 と呼ぶべきものなのだ。
以下に、「メジェド」という単語が出てくる死者の書 第17章の解説をまとめておいた。
要約すると、この部分は「メジェド」という神を指しているというよりは、「メジェドな●●」(打ち倒すものという役割を持つ神、●●)に対する祈りの部分で、他に呪文内で呼ばれている神々がラーやホルスといった有名どころであることからして、誰か有名な神の別名の可能性が高い、と自分は解釈している。
大人気? メジェド様とその周辺 ~死者の書・第17章の前後解釈を添えて
https://55096962.seesaa.net/article/201403article_32.html
死者の書にしか出て来ない神名の多くは低級神または精霊のような存在だ。だが、この呪文は冥界における身の安全を力ある神々に祈る内容なので、ぽっと出のマイナー神に祈ると不自然になる。なので固有の神名というよりは他の格の高い神の別名と解釈するのが妥当だろう。呪文の文脈的にもそう読める。
というわけで、通常この部分は、英訳でも日本語でも「打ち倒すもの」と現代語に置き換えられる。
よって、学術よりのエジプト神話本にメジェドという神名が出てくることは無い。
では、「メジェドな●●」の正体は誰なのか…だが、自分は、この部分はアメンかラー、もしくはアメン・ラーの別名を指す部分ではないかと考えている。太陽神なら高位だし、ぶっちゃけ最高神なので一般死者が軽々しく名前呼ばずに別名で呼ぶのはアリだし、他の神に命令しているのも納得できるので。
太陽神ラーの別名と「隠れたる者」の謎
https://55096962.seesaa.net/article/490192849.html
●「メジェド」が登場するのは最大遡って紀元前1,500年くらい
死者の書の成立は新王国時代(紀元前1,500年~)以降であり、グリーンフィールド・パピルスは第21王朝の終わりから第22王朝のはじめごろ(紀元前940年前後)であるということにも注意してもらいたい。
呪文は時代ごとに微妙に変わることがあるため、死者の書が使われ始めた初期に「メジェド」という単語が使われていたかは分からない。
少なくとも、有名になったようなノッペリした姿が描かれ始めたのが確認できるのは、新王国時代の終わり以降。
つまり、この存在をピラミッドを作っていた紀元前2,500年の世界に出してはいけない。その当時は死者の書の元になるピラミッド・テキストが成立しはじめたくらいの時代で、1,000年も前になる。同じ「古代エジプト」の世界でも、ピラミッド作ってた時代とツタンカーメンやハトシェプストが生きてた時代は、そのくらい時代がズレてるのだ。平安時代に浮世絵なんてねえぞ、みたいな話である。
●オマケ メジェドのはちまき
メジェドの図にはたまにハチマキ巻いてるやつがあると思うが、これは、古代エジプト語で、額に巻くハチマキ状のヘアバンドのことを「メジェフ」ということから語呂合わせで遊んでるんだと思う。古代エジプト人の大好きな語呂合わせジョーク。
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以上、あらためて「メジェド」という神についてまとめておいた。
古代エジプト史の中でも登場は新しいし、有名になったのはたった10年前でさらに新しい。
そして、しれっと古参のエジプト神のような顔しているが、ぶっちゃけそれ神名じゃない。いわば、日本のサブカルと結びついて現代に誕生した新たな神格である。ビリケンさんとかアマビエとか、そういうやつに近い。
なので普通のエジプト本や神話本には出てこない(サブカル寄りのやつなら出てくるかもしれない)と思うが、資料が無いのはそういうことである。
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追記
FGOキッズの皆むけに書いておくと、ゲーム内でメジェドを使役しているニトクリスは、史実としては存在せず、後世の伝承によって生まれた存在である。
後世に作られた存在である彼女が、同じく後世に作られた存在であるメジェドを使ってるという虚構に虚構を重ねた構図なのだ。
なお上述のとおりメジェドの本来の名前は「メジェド」ではないので、死者の書に書かれた正しいメジェド召喚の呪文、もしくは隠された真名のほうを知ってるとニトクリスから使役権ひっぺがせると思う。たぶんね。
だが、この神が一躍有名になったのは2014年のことで、しかも日本ローカルの話である。
うん、めっちゃ最近なんだ。
でも10年前だから、当時のことを知らない人は経緯とか初耳かもしれないよね。だから書いておくよ。
●有名になった経緯
時を遡ること2014年、大英博物館展でグリーンフィールド・パピルスと呼ばれるクッソ長いパピルスが来日した。これは「死者の書」であり、死後の世界で使う呪文がたくさん書かれている。要するに古代人の使った冥界攻略本である。
その中に、特徴的な見た目をした存在がいた。
これが主にTwitter界隈で話題となり、トゥギャッターやまとめブログによって面白おかしく拡散された結果、知名度が上がった。
日本だけの現象であり、海外のエジプトマニア界でも一部で話題になったりはしたが、別に定着はしていない。グッズ作られるほど盛り上がりもしていない。まあ、たぶん日本特有のゆるキャラ好きカルチャーには合致したということなのだろう。
●「メジェド」という名前の意味
だが、この存在=神の名前は、おそらく「メジェド」ではない。
呪文内で「メジェド」と呼ばれているのは確かなのだが、それは「打ち倒すもの」という意味で、神の肩書き/別名/通り名 と呼ぶべきものなのだ。
以下に、「メジェド」という単語が出てくる死者の書 第17章の解説をまとめておいた。
要約すると、この部分は「メジェド」という神を指しているというよりは、「メジェドな●●」(打ち倒すものという役割を持つ神、●●)に対する祈りの部分で、他に呪文内で呼ばれている神々がラーやホルスといった有名どころであることからして、誰か有名な神の別名の可能性が高い、と自分は解釈している。
大人気? メジェド様とその周辺 ~死者の書・第17章の前後解釈を添えて
https://55096962.seesaa.net/article/201403article_32.html
死者の書にしか出て来ない神名の多くは低級神または精霊のような存在だ。だが、この呪文は冥界における身の安全を力ある神々に祈る内容なので、ぽっと出のマイナー神に祈ると不自然になる。なので固有の神名というよりは他の格の高い神の別名と解釈するのが妥当だろう。呪文の文脈的にもそう読める。
というわけで、通常この部分は、英訳でも日本語でも「打ち倒すもの」と現代語に置き換えられる。
よって、学術よりのエジプト神話本にメジェドという神名が出てくることは無い。
では、「メジェドな●●」の正体は誰なのか…だが、自分は、この部分はアメンかラー、もしくはアメン・ラーの別名を指す部分ではないかと考えている。太陽神なら高位だし、ぶっちゃけ最高神なので一般死者が軽々しく名前呼ばずに別名で呼ぶのはアリだし、他の神に命令しているのも納得できるので。
太陽神ラーの別名と「隠れたる者」の謎
https://55096962.seesaa.net/article/490192849.html
●「メジェド」が登場するのは最大遡って紀元前1,500年くらい
死者の書の成立は新王国時代(紀元前1,500年~)以降であり、グリーンフィールド・パピルスは第21王朝の終わりから第22王朝のはじめごろ(紀元前940年前後)であるということにも注意してもらいたい。
呪文は時代ごとに微妙に変わることがあるため、死者の書が使われ始めた初期に「メジェド」という単語が使われていたかは分からない。
少なくとも、有名になったようなノッペリした姿が描かれ始めたのが確認できるのは、新王国時代の終わり以降。
つまり、この存在をピラミッドを作っていた紀元前2,500年の世界に出してはいけない。その当時は死者の書の元になるピラミッド・テキストが成立しはじめたくらいの時代で、1,000年も前になる。同じ「古代エジプト」の世界でも、ピラミッド作ってた時代とツタンカーメンやハトシェプストが生きてた時代は、そのくらい時代がズレてるのだ。平安時代に浮世絵なんてねえぞ、みたいな話である。
●オマケ メジェドのはちまき
メジェドの図にはたまにハチマキ巻いてるやつがあると思うが、これは、古代エジプト語で、額に巻くハチマキ状のヘアバンドのことを「メジェフ」ということから語呂合わせで遊んでるんだと思う。古代エジプト人の大好きな語呂合わせジョーク。
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以上、あらためて「メジェド」という神についてまとめておいた。
古代エジプト史の中でも登場は新しいし、有名になったのはたった10年前でさらに新しい。
そして、しれっと古参のエジプト神のような顔しているが、ぶっちゃけそれ神名じゃない。いわば、日本のサブカルと結びついて現代に誕生した新たな神格である。ビリケンさんとかアマビエとか、そういうやつに近い。
なので普通のエジプト本や神話本には出てこない(サブカル寄りのやつなら出てくるかもしれない)と思うが、資料が無いのはそういうことである。
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追記
FGOキッズの皆むけに書いておくと、ゲーム内でメジェドを使役しているニトクリスは、史実としては存在せず、後世の伝承によって生まれた存在である。
後世に作られた存在である彼女が、同じく後世に作られた存在であるメジェドを使ってるという虚構に虚構を重ねた構図なのだ。
なお上述のとおりメジェドの本来の名前は「メジェド」ではないので、死者の書に書かれた正しいメジェド召喚の呪文、もしくは隠された真名のほうを知ってるとニトクリスから使役権ひっぺがせると思う。たぶんね。