マチュピチュの「ピチュ」は「峰」の意味ではない? そもそも元のケチュア語の翻訳に諸説ある件について
マチュピチュといえば遺跡マニアの憧れ、しかし近年はオーバーツーリズムの影響で入場制限がかかったり入場料が釣り上がったりといろいろあるペルーの高地にあるインカ時代の都市の一つ。
一般的に、マチュ・ピチュという名前は「古い峰」という意味だと説明される。これは遺跡の隣にある山の名前でもある。
対して、向かい側にあるもう一つの山はワイナ・ピチュ、「若い峰」とされる。
遺跡の名前は片方の山の名前をとって、慣例的にマチュピチュと呼び習わされている。
少し前に「この都市の名前は実際にはワイナピチュだった!」という以下のような記事が出たが、山と山の間の鞍部にあたる部分に山の名前をつけるのはおかしい。実際のところ、都市名は単に「ピチュ」と呼ばれていた、というのが有力な説だ。
「マチュピチュ」は間違いだった? 歴史家が発見した本当の名は
https://www.cnn.co.jp/fringe/35185944.html
では、この「ピチュ」って何なのか。
「峰」だとすると、山の谷間の鞍部を峰と読んでることになるので、どのみち違和感がある。
ーー実は、この「ピチュ」という言葉、元のケチュア語の意味が複数提示されていて、どれだったか分からんという状態のようなのだ。
<訳語の説>
・峰
・頂上
・ピラミッド
・鳥
・瞳
最初の3つはわりとよく出てくるものだが、最後の2つはあまり知られていないと思う。
日本語の本だと↓で提示されている。
インカ帝国-歴史と構造 (中公選書 149) - 渡部 森哉
「鳥」というのは、元々のケチュア語が「ピチウ」=鳥または家禽 だったとする想定から来ていて、マチュピチュ全体が上空から見ると鳥の形になっているところから来ている、というもの。これは意外とあり得る話で、たとえばクスコの町はピューマの形に作られているというのは大方の学者の意見が一致するところ。同じく神聖な生き物である鳥を象るというのはありえなくもない。そして、元の都市名がピチウ=「鳥」だったとすれば、名前に関する違和感は消える。
Is Machu Picchu a giant geoglyph of a bird?
https://www.archaeology.wiki/blog/2011/12/22/is-machu-picchu-a-giant-geoglyph-of-a-bird/
ただ、やはり反論もある。
鳥とするには頭が北を向くことになるが、インカでは東西の方向が重要視されるので、頭部を北に向けるのはやらないんじゃない?という反論を見かけた。また、両脇の山が「古い鳥」 「新しい鳥」では山のほうの意味が通じなくなる。
要するに、ケチュア語の翻訳は訳語として何が正しいのかの話から始まり、よく知られている意味ですら、あってるかどうか確証が持てないということなのだ。
なお、これを調べて要る時にさらに「ケチュア語だと思われている単語が実はアイマラ語由来のケースもある」ということを知った。
クスコはインカの都市が作られる以前は先住民のいる土地だったため、クスコ周辺の地名には先住民の言語の名称が残っているらしい。南米は全地域が他民族/多言語だから、安易に「古い時代の言葉」という大雑把なくくりも出来ないということを学んだ。
結論は言語学者に任せるしかないが、「マチュピチュの名前の由来すらはっきりしてない」という現状は覚書きとして残しておく。
*****
[>おまけ
訳語によって意味が変わるもの、といえば古英語もそう。ベーオウルフの剣の外見は訳に何を当てるかで変わる。
ベーオウルフの翻訳あれこれ「ネイリングは灰色の剣なの?」
https://55096962.seesaa.net/article/201311article_9.html
一般的に、マチュ・ピチュという名前は「古い峰」という意味だと説明される。これは遺跡の隣にある山の名前でもある。
対して、向かい側にあるもう一つの山はワイナ・ピチュ、「若い峰」とされる。
遺跡の名前は片方の山の名前をとって、慣例的にマチュピチュと呼び習わされている。
少し前に「この都市の名前は実際にはワイナピチュだった!」という以下のような記事が出たが、山と山の間の鞍部にあたる部分に山の名前をつけるのはおかしい。実際のところ、都市名は単に「ピチュ」と呼ばれていた、というのが有力な説だ。
「マチュピチュ」は間違いだった? 歴史家が発見した本当の名は
https://www.cnn.co.jp/fringe/35185944.html
では、この「ピチュ」って何なのか。
「峰」だとすると、山の谷間の鞍部を峰と読んでることになるので、どのみち違和感がある。
ーー実は、この「ピチュ」という言葉、元のケチュア語の意味が複数提示されていて、どれだったか分からんという状態のようなのだ。
<訳語の説>
・峰
・頂上
・ピラミッド
・鳥
・瞳
最初の3つはわりとよく出てくるものだが、最後の2つはあまり知られていないと思う。
日本語の本だと↓で提示されている。
インカ帝国-歴史と構造 (中公選書 149) - 渡部 森哉
「鳥」というのは、元々のケチュア語が「ピチウ」=鳥または家禽 だったとする想定から来ていて、マチュピチュ全体が上空から見ると鳥の形になっているところから来ている、というもの。これは意外とあり得る話で、たとえばクスコの町はピューマの形に作られているというのは大方の学者の意見が一致するところ。同じく神聖な生き物である鳥を象るというのはありえなくもない。そして、元の都市名がピチウ=「鳥」だったとすれば、名前に関する違和感は消える。
Is Machu Picchu a giant geoglyph of a bird?
https://www.archaeology.wiki/blog/2011/12/22/is-machu-picchu-a-giant-geoglyph-of-a-bird/
ただ、やはり反論もある。
鳥とするには頭が北を向くことになるが、インカでは東西の方向が重要視されるので、頭部を北に向けるのはやらないんじゃない?という反論を見かけた。また、両脇の山が「古い鳥」 「新しい鳥」では山のほうの意味が通じなくなる。
要するに、ケチュア語の翻訳は訳語として何が正しいのかの話から始まり、よく知られている意味ですら、あってるかどうか確証が持てないということなのだ。
なお、これを調べて要る時にさらに「ケチュア語だと思われている単語が実はアイマラ語由来のケースもある」ということを知った。
クスコはインカの都市が作られる以前は先住民のいる土地だったため、クスコ周辺の地名には先住民の言語の名称が残っているらしい。南米は全地域が他民族/多言語だから、安易に「古い時代の言葉」という大雑把なくくりも出来ないということを学んだ。
結論は言語学者に任せるしかないが、「マチュピチュの名前の由来すらはっきりしてない」という現状は覚書きとして残しておく。
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[>おまけ
訳語によって意味が変わるもの、といえば古英語もそう。ベーオウルフの剣の外見は訳に何を当てるかで変わる。
ベーオウルフの翻訳あれこれ「ネイリングは灰色の剣なの?」
https://55096962.seesaa.net/article/201311article_9.html