クローヴィス石器の溝は「パイク」にするためだった? 新たな仮説が出る 

「パイク」というのは、柄の長い槍のこと。要するに、石器を長い槍の先端につけて使っていたかもしれない、という話である。
まず前提として、クローヴィス石器とは、新大陸に渡った人類が培った最初期の文化の一つ。
(複数あったかもしれないため現在の表現ではこうなる。また、かつては最古とされていたが、新大陸に到達した時期が遡りつつあるため最古かどうかも現状は不明)

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石器の特徴として「両側にミゾがある」というものなのだが、このミゾが何に使われていたのかについては諸説ある。
過去の研究では、「槍先につけた場合に外れやすくするためでは?」というものがあった。

クローヴィス文化の石器に刻まれた溝のヒミツ。命中した時に獲物の身体に残りやすくするためかもしれない
https://55096962.seesaa.net/article/201704article_11.html

また、このミゾに毒を塗った説も見かけたことがあるが、それは特に取り上げていない。
人類が到達した当事の新大陸は、マンモスやオオナマケモノ(ミロドンなど)、狼の近縁種と、大型の動物の多い環境だった。そして移住した時期は最終氷期の終わるより少し前なので、食物の中に占める狩りの比重は大きかったと考えられる。

その環境で効率的に狩りをするにはどうすればいいか。槍を投げても、マンモスのような皮下脂肪の暑い獣にはなかなか致命傷を与えられない。ならパイクとして使ったほうが効果的なんじゃない? というのが、今回出た説である。

Clovis points and foreshafts under braced weapon compression: Modeling Pleistocene megafauna encounters with a lithic pike
https://journals.plos.org/plosone/article?id=10.1371/journal.pone.0307996

これが代表的なクローヴィス石器。ミゾがついている。
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このミゾの両側に支柱をつけ、片方を外れやすくしておくことで穂先が破壊されないようにする。と同時に、支柱となる槍先が追加ダメージを与えられるようにする。
残された石器は、狩りのエモノと思われる動物の体の中に残っているケースが多いという。それは先行の研究でも言及されている話なのだが、槍先の石器が破壊されない場合はエモノの体内に残りやすくなるらしい。ということは、過去の研究にもう一捻り付け加えた感じになる。

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ただ、突進してくるマンモスの前でパイク構えるのはかなり危険な狩りの仕方だし、大型動物だと一本二本刺さったくらいでは致命傷にならない。これだけだとちょっと狩りの効率化にはならんなあという感じなので、たとえば落とし穴と組み合わせるとか、もう一捻りはあったほうが現実的な気もする。あと、柄の部分は発見されていないので、あくまで実験による可能性の示唆に留まる。
ただ、説としてはなかなかおもしろい。獲物がデカい地域の狩りだと、確かに投げ槍よりはパイクのほうが向いている。その視点は今までなかったので、可能性の一つとして覚えておこうと思う。