古代エジプトの「復活の呪文」に出てくる神様は? 最初のピラミッド・テキストより

おさらいとして、エジプトのピラミッドは、内部にビッシリ文字が書かれているものと、書かれていないものがある。
ビッシリ書かれているものは一般に「ピラミッド・テキスト」と呼ばれる、死後の復活のための儀式や請願などの呪文。呪文が最初に登場するのは第5王朝のウナス王のピラミッドであり、それ以降、第8王朝のカカラー・イビィ王のピラミッドまで、合計11基で発見されている。

で、このテキストが古代エジプトのまとまった神話文書としては最古のものになる。
日本でいうと古事記・日本書紀のポジション。

ふと思いたち、いちばん古いウナス王のピラミッド・テキストを読み返して出てくる神名を拾ってみた。
時代的には紀元前2,400~300年くらいの時代のもの。だいたいの神話資料は新王国時代を基準にしているが、新王国時代は紀元前1.500年~なので1000年近く古いテキストになる。

後世まで大神として確固たる地位を持ち続けている神々もいれば、後世にはほとんど言及されなくなる神もいる。
あと出現比率も面白い。

※参考にした英訳はこちら
The Ancient Egyptian Pyramid Texts (Writings from the Ancient World) by James P. Allen(2015-02-11)
The Ancient Egyptian Pyramid Texts (Writings from the Ancient World) by James P. Allen(2015-02-11)

※以前作った神名リストはこちら
http://www.moonover.jp/bekkan/god/index.htm#sa_ta


●10回以上出てくる神々

ここがピラミッド・テキストの書かれた当時の王権に関わる神々、復活・永遠・再生といった儀式に関わる重要な神々なのだと思われる。

・アトゥム →ラーではなくアトゥムが神々の父として連呼される
・オシリス →死せる王がオシリスとなるので当然
・ホルス →この時代の王はホルスそのものなのでこれも当然
・セト →オシリスの殺害者でホルスの対向者なので当然
・トト →この時代のテキストではトトはオシリスとセトの兄弟とされており、オシリスを害したと読める呪文がある


●5回程度出てくるがそれほど頻繁ではない神々

・ゲブ →ゲブが「汝(王)の父」と書かれている箇所もある
・ヌト →天空の女神、オシリスたちの母なので重要なところには出てくる
・シュウ →大気の神、テフネトよりは出現回数が多い
・イシス →以外に出てこない。重要な呪文には登場するが補佐的役割
・ネフティス →イシスと同じ
・ソティス →シリウス星の神格化、王の魂が天空に昇る思想からの登場かと思う。夫とされるオリオン(サァフ)とともに登場
・ペェの魂、ネケンの魂 →死者の復活の儀式でよく図像として書かれる神々(精霊寄り)
・マアト →真実・秩序の神格化 意外と出てこなかった


●3回以下の神々

・アピス →太陽神の聖獣
・アヌビスの娘 →名前が出てこないがほかの神話で補完するなら名前はケベフト、遺体を清める水の女神
・アンジェティ →オシリスと関連する神、後世にはオシリスと同化して消えてしまう
・ウアジェト →ペェの領主でありコブラの女神
・ウラエウス →単なるコブラとは明らかに違う、神格として登場している箇所があったのでここにカウント
・シェスメテト →王の腰帯の神格化
・シェズム →屠殺の神ではないかとされる存在
・セクメト →最初の首都メンフィスの守護神、力の女神
・セベク →ワニの神、呪文内では西方の主人とされている
・セルケト →サソリの女神のはずだが、描写がサソリっぽくないため属性が違うかもしれない
・ソカル →冥界神
・ソプドゥ →ハヤブサ神、死せる王の化身とされる
・チェネネト →だいぶマイナーな神で後世には消えてしまうため属性が不確かだが、太陽神属性と考えられる
・チェネヌテト(チェネニエト?) →チェネネトと綴り違うので別カウント
・テフネト →シュウの伴侶だが意外と出てこなかった
・ネイト →セベクの母とされる戦の女神
・ネフェルテム →最初の首都メンフィスの守護神、水連の神
・プタハ →最初の首都メンフィスの守護神、創造神
・マフデト →猫科の姿で描かれる裁定の女神
・ミン →生殖の神
・ハピ/ドゥアムテフ/イムセティ/ケベフセヌエフ →ホルスの息子たちとされる4精霊


◯番外編 登場してるかもしれないけど読み取れない

・ラー →太陽としての「ラー」も太陽神としての「ラー」も同じなのでどっちか分からん。月神トトと対になって書かれてる部分はたぶん神格のほうだろうなと思ったけど、アトゥムと被っているので「ラー神」という存在なのかの判別がつかずカウント出来なかった

・サァフ(オリオン) →単純に星として登場してるのか神格なのかわからなかった

・各種の蛇 →「xx蛇」という名前でコールされている部分がけっこうあったが、xxの部分の古代エジプト語の意味が不明で固有名詞なのかなんなのか判別つかず

・天の雄牛 →神名なのかどうかも不明



以上、ざっと数えただけなので、5回以下しか登場していない神のところはちょっとアバウト。電子版で検索かけてカウントすればより正確には出ると思うが、紙の本しかなかったので、あくまで目安である。
ただこれを見ると、かなり偏った神名コールがされているのが分かると思う。復活の呪文なので復活に関連する神名が呼ばれるわけだが、体感してアトゥム、オシリス、ホルス、セト、トトの5柱で半分くらいを占める。イシスやネフティスは意外に出てこない。そしてラーもあまりコールされない。(太陽という単語は出てくるが、それを全部ラー神のことと読み替えてもホルスやオシリスより回数が少ない)

ピラミッド・テキストは、のちの時代に死者の書へと変化していくが、やはり本質は、太陽信仰ではなく死せる王=オシリスの復活、という信仰なのだと思う。

あとおもしろいなと思ったのは、9柱神を意味する「エンネアド」が2つあること。「大エンネアド」と「小エンネアド」が設定されており、双方をアトゥムが統べる。「アトゥムの二重エンネアドの名において」とかのフレーズが何度か出てくる。片方はオシリスたち神々の一族が入るはずだが、もう片方にどの神が入るのかは謎。

それと「骨」に関する呪文が多い。古王国時代はまだミイラ制作の技術が完成しておらず、しばしばミイラづくりに失敗して骨しか残らなかったことと関係しているのかもしれない。

ともあれ、古王国時代のテキストは背景の読み取れない謎呪文が多すぎる。対にされている神の組み合わせが後世と違っていたり、属性が他の神と入れ替わっていたり、面白いっちゃ面白いんだけど難しい…。