チャタル・ホユックの女性坐像、かつては「女神」と解釈されていたが今は「年配女性」になっている
チャタル・ホユックはトルコにある、先史時代の遺跡である。
紀元前7,500年頃から居住が開始され、5,500年頃には放棄されていたとされる。石材を使った建築物があること、本格的な農業を行っていなかったにも関わらず高い人口密度で人が住んでいたことなどが特異であり、先史時代の人類史を語る場合や都市文明の発達について論じる場合にはほぼ必ず言及される。
この遺跡から発見された、ふくよかな女性の坐像については、古代史の本などで見たことある人も多いのではないかと思う。
一昔前には、この女性像は女神と表現されることが多かった。大地母神、絶対的な力を持つ女神、etc。
だが、現在、この像は女神像ではないのではとされることが多くなった。
なぜなのか。
・遺跡の発掘が進み、実際には男性像や動物の像などもたくさん出てきて、女性像だけが特別ではないと分かった
・見つかった場所が家の中やゴミ捨て場など日常生活の場で、壊れていることも多かったため崇められていたとは考えにくい
・いくつかの事例から、おなかがでっぷりしているのが妊娠というより肥満表現と考えられるようになった
現在、発掘をやってるのはジェームズ・メラート氏の後任のイアン・ホッダー氏。
そのホッダー氏がいくつか論文を出しているので詳しくはそちらで確認してほしいのだが、とりあえず無料で読める一般記事を貼っておく。
Was there a belief in the Mother Goddess at Çatalhöyük?
https://www.catalhoyuk.com/node/736
Archaeologists from Stanford find an 8,000-year-old ‘goddess figurine’ in central Turkey
https://news.stanford.edu/stories/2016/09/archaeologists-find-8000-year-old-goddess-figurine-central-turkey
妊娠してるようには見えない、垂れた乳房やおなかの感じは加齢によるもので、ふっくらしているのは脂肪っぽい。と言われているのは、最近見つかった像でこういうのがあるから。これは、「ああ…うん、確かに肥満っぽい…」ってなるよね。
日本の土偶は、女性のものが圧倒的に多い。妊娠線があったり、足の間から子供が顔を出しているように見えるダイレクトな表現があったりして、妊婦だろうなと思える点がある。だが、言われてみるとたしかに、チャタル・ホユックの女性像のでっぷりお腹を妊婦と見なせる根拠は薄い。
そして、男性像や動物の像も出土しているところを見ると、太った女性をリアルに表現したものだった可能性は、確かにある。だとすれば、一家の代表格の女家長とか、長老格のおばあちゃんとか、ご先祖様とかかもしれない。
チャタル・ホユックでは、死者を床下に埋めた事例が複数見つかっている。像が見つかる場所も住居内なことが多いため、床下に埋めるスペースがなくなった集落の晩期に、死体の代わりに祀るものとして像が作られたかもしれないという説もあるらしい。
なお、この件は、実は、何年か前に考古学界を震撼させた、以下の事件に関係がある。
世界遺産チャタル・ホユック(チャタル・フユック)に関わる捏造疑惑が発覚
https://55096962.seesaa.net/article/201803article_13.html
チャタル・ホユックを最初に発掘していたメラート氏(2012年死去)が出土品の一部を改ざんしていたことが死後(2018年)に発覚したのだ。
冒頭の有名な坐像の発見者もメラート氏である。そのため、像の発見自体は本当だが、それを女神像とする解釈は氏の恣意的なもので、場合によっては、その説に合わない男性像などの発見物を意図的に隠したのではと疑われているのだ。
同氏を巡っては、他にも発見したものを恣意的に解釈した疑惑が持たれている。
チャタル・ホユック、「世界最古の地図」と呼ばれた壁画の解釈問題が再燃
https://55096962.seesaa.net/article/201803article_20.html
また、そもそも彼がトルコの発掘現場から追放された原因が遺物の密売(もしくは偽造)疑惑であり、トルコにおける先史時代のパイオニアとはされていたものの色々曰く付きの学者である。
考古学者が見たトロイア戦争の夢と現実 ~捏造疑惑、調べてみたら闇が深かった
https://55096962.seesaa.net/article/201803article_14.html
つまり、メラート氏によって定説化していたものが死後再評価で疑わしいとされ、訂正されつつある中の一部がこれ、という話。
捏造事件が発覚した当時も言ったけど、大御所が発見状況を恣意的に歪めて報告してたら、再検証大変だよね…。明らかに全部捏造ならともかく、もっともらしい嘘の紛れた発掘報告書を精査しなきゃならんのだから。
ともあれ、チャタル・ホユックを巡る評価はこのところ急速に書き換わりつつある。もはや、この遺跡は「大地母神を祀る巨大な神殿複合施設」ではない。どういうわけか高密度で人間が居住することになった、国とは呼べない、都市というよりバカでかい村落とでも呼ぶべき民家の集合体なのだ。
発掘はまだ続いており、書き換えもまだ途中のようなので、今後の動向は追っていきたい。
紀元前7,500年頃から居住が開始され、5,500年頃には放棄されていたとされる。石材を使った建築物があること、本格的な農業を行っていなかったにも関わらず高い人口密度で人が住んでいたことなどが特異であり、先史時代の人類史を語る場合や都市文明の発達について論じる場合にはほぼ必ず言及される。
この遺跡から発見された、ふくよかな女性の坐像については、古代史の本などで見たことある人も多いのではないかと思う。
一昔前には、この女性像は女神と表現されることが多かった。大地母神、絶対的な力を持つ女神、etc。
だが、現在、この像は女神像ではないのではとされることが多くなった。
なぜなのか。
・遺跡の発掘が進み、実際には男性像や動物の像などもたくさん出てきて、女性像だけが特別ではないと分かった
・見つかった場所が家の中やゴミ捨て場など日常生活の場で、壊れていることも多かったため崇められていたとは考えにくい
・いくつかの事例から、おなかがでっぷりしているのが妊娠というより肥満表現と考えられるようになった
現在、発掘をやってるのはジェームズ・メラート氏の後任のイアン・ホッダー氏。
そのホッダー氏がいくつか論文を出しているので詳しくはそちらで確認してほしいのだが、とりあえず無料で読める一般記事を貼っておく。
Was there a belief in the Mother Goddess at Çatalhöyük?
https://www.catalhoyuk.com/node/736
Archaeologists from Stanford find an 8,000-year-old ‘goddess figurine’ in central Turkey
https://news.stanford.edu/stories/2016/09/archaeologists-find-8000-year-old-goddess-figurine-central-turkey
妊娠してるようには見えない、垂れた乳房やおなかの感じは加齢によるもので、ふっくらしているのは脂肪っぽい。と言われているのは、最近見つかった像でこういうのがあるから。これは、「ああ…うん、確かに肥満っぽい…」ってなるよね。
日本の土偶は、女性のものが圧倒的に多い。妊娠線があったり、足の間から子供が顔を出しているように見えるダイレクトな表現があったりして、妊婦だろうなと思える点がある。だが、言われてみるとたしかに、チャタル・ホユックの女性像のでっぷりお腹を妊婦と見なせる根拠は薄い。
そして、男性像や動物の像も出土しているところを見ると、太った女性をリアルに表現したものだった可能性は、確かにある。だとすれば、一家の代表格の女家長とか、長老格のおばあちゃんとか、ご先祖様とかかもしれない。
チャタル・ホユックでは、死者を床下に埋めた事例が複数見つかっている。像が見つかる場所も住居内なことが多いため、床下に埋めるスペースがなくなった集落の晩期に、死体の代わりに祀るものとして像が作られたかもしれないという説もあるらしい。
なお、この件は、実は、何年か前に考古学界を震撼させた、以下の事件に関係がある。
世界遺産チャタル・ホユック(チャタル・フユック)に関わる捏造疑惑が発覚
https://55096962.seesaa.net/article/201803article_13.html
チャタル・ホユックを最初に発掘していたメラート氏(2012年死去)が出土品の一部を改ざんしていたことが死後(2018年)に発覚したのだ。
冒頭の有名な坐像の発見者もメラート氏である。そのため、像の発見自体は本当だが、それを女神像とする解釈は氏の恣意的なもので、場合によっては、その説に合わない男性像などの発見物を意図的に隠したのではと疑われているのだ。
同氏を巡っては、他にも発見したものを恣意的に解釈した疑惑が持たれている。
チャタル・ホユック、「世界最古の地図」と呼ばれた壁画の解釈問題が再燃
https://55096962.seesaa.net/article/201803article_20.html
また、そもそも彼がトルコの発掘現場から追放された原因が遺物の密売(もしくは偽造)疑惑であり、トルコにおける先史時代のパイオニアとはされていたものの色々曰く付きの学者である。
考古学者が見たトロイア戦争の夢と現実 ~捏造疑惑、調べてみたら闇が深かった
https://55096962.seesaa.net/article/201803article_14.html
つまり、メラート氏によって定説化していたものが死後再評価で疑わしいとされ、訂正されつつある中の一部がこれ、という話。
捏造事件が発覚した当時も言ったけど、大御所が発見状況を恣意的に歪めて報告してたら、再検証大変だよね…。明らかに全部捏造ならともかく、もっともらしい嘘の紛れた発掘報告書を精査しなきゃならんのだから。
ともあれ、チャタル・ホユックを巡る評価はこのところ急速に書き換わりつつある。もはや、この遺跡は「大地母神を祀る巨大な神殿複合施設」ではない。どういうわけか高密度で人間が居住することになった、国とは呼べない、都市というよりバカでかい村落とでも呼ぶべき民家の集合体なのだ。
発掘はまだ続いており、書き換えもまだ途中のようなので、今後の動向は追っていきたい。