古代エジプトの「大安吉日」。365日分の吉兆カレンダーあるよ!

現代日本では大安・仏滅とか日によって吉兆があるけれど、古代エジプトにもあるんですよ。
成立はおそらく中王国時代ごろ、「トト神によって成立した」とされている神話的な吉兆カレンダーがいくつか残ってて、研究書とかも出ている。古代エジプトの日常生活を考えるなら、これ結構重要なポイントのはずだよね。ってなわけで書いておく。

Calendar of Lucky and Unlucky Days (Egypt)
https://anefest.spbu.ru/en/articles/ancient-minor-asia/141-calendar-of-lucky-and-unlucky-days-egypt.html

古代エジプトの季節名などカレンダーの見方は以下を参照。
http://www.moonover.jp/bekkan/today/index.htm

季節は3つに分けれられ、夏の「増水期」(アケト)からスタート。「成長期」(ペレト)、「収穫期」(シェムウ)へと続く。
カレンダーでは、さらに一日が「朝」「昼」「夕」に分けられ、それぞれの時間帯で「良い」「悪い」が設定されている。つまり、日本でいう「先負」「先勝」みたいな概念もあったのだ。

「良い」は良いを意味するネフェル、弦楽器みたいな形をしているが、心臓と気管を表す文字。
「悪い」のアハァは船の帆柱の形である。
これらが3つの時間帯それぞれに並んでいるので、たとえば「1日中イイよ! 超ラッキーデイ!」みたいな日は、ネフェルの文字が3つ並ぶことになる。もし朝だけ悪いなら、アハァが1つとネフェルが2つ並ぶ。

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で、これを360日分(30日✕12ヶ月)、表にしたのがコレ。
表内の「S」はサリエ・パピルス、「B」はバッジ・パピルスからの出典。サリエ・パピルスは最初と後半が欠損しているので途中からLostになっている。いちばん右端はイル・ラフーンから出土した断片パピルスをつなぎ合わせた結果。異なる部分もあるが、だいたい同じ内容で被っているので、おそらくオリジナルがどこかにあって、そこから写したものが民衆の間に出回っていた。

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これを見ると、各月の最初の日は大安吉日になっていることが分かる。おそらく、月の第一日は太陽神ラー様の月命日ならぬ月誕生日であり、ラーの守護下にあるとされた日だからだ。必ず良い日とされるなら、神殿や行政の行事はこの日にやるべきだったかもしれない。

また、ここに載っていない「予備日」、365日の最後の半端な5日は、全日厄災の日とされ、何もしないほうがいいとまでされていた。
この5日間は神話上、天の女神ヌトと大地の神ゲブの5人の子供たち<オシリス・セト・イシス・ネフティス・大ホルス>が一人ずつ誕生した日とされており、特にセトの誕生した日は最悪と書かれている。それぞれの日の吉兆は、神話とも結びついていたのである。

なお、一年トータルで見ると、良い日と悪い日の割合はこうなるらしい。(コプト月の名前になっているが、上から順番に「増水期 1月」「2月」と読み替えていくとよい)

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ちなみに、カレンダーには各日の注釈がついており、以下のようになっている。

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増水期 第一日
ラー・ホルアクティの生まれる日。原初の水ヌンが溢れ出し、増水によって全土が清められる。全ての神々は祝福する。

増水期 第二日
もし汝が何かを見るならば、それは良きものとなる。主神のため邪悪な蛇アポピスが水の中で打ち倒され、エンネアド(九柱神)はラーの前に出て、太陽の若返りを祝う。

増水期 第三日
この日に生まれた者はワニによって死ぬさだめである。それは神々が冥界の川でイビィ(単語の意味は不明)を作る日がゆえである。

増水期 第四日
この日は何もしてはならない。ハトホルが処刑人たちとともに川を遡上する日である。神々によって逆風が引き起こされるため、この日に操船してはならない。

増水期 第五日
この日に生まれた者は雄牛によって死ぬさだめである。

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生まれた日によって、死に方とか運命とかが予言されているのが面白い。現代の日本だと、大安や仏滅などの吉兆は冠婚葬祭くらいにしか関連しないが、古代人にとっての日々の吉兆は、さらに広い意味を持っていたようだ。
また、「この日は何もしてはならない」などの禁忌があるところは、日本の文化で言うと平安時代あたりの「物忌み」や「穢れ」の概念を思い起こさせる。
単なる迷信じゃなくて、何か意味があったのでは…? と思うところもある。

まあぶっちゃけ、四日目の「何もするな」は、増水期の1日目が新年ということを考えると、「新年祭は三日もやれば十分だからそろそろ休め、休肝日にしろ」みたいな意味で入ってんのかな、と、ちょっと思ったw

あと、古代人が実際にどこまでこのカレンダーを気にして生活していたのかまでは分からないけど、王室や神殿の行事はたぶん気にしていたんじゃないかなーと思っている。