ケニアに実在した伝説の「人食いライオン」、人食いの裏事情が調査される

19世紀末、まだイギリス領だった当時のケニアで、何十人もの人間を食い殺した伝説の凶悪ライオンが二頭いた。
ケニア~ウガンダ間でイギリスが敷設していたウガンダ鉄道の作業員たちが次々と襲われ、駆除されるまでに人も家畜も大被害を被ったというもの。いわば、アフリカ版「三毛別羆事件」である。

※概要はWikipediaとかで出てくるので適当に

ツァボの人食いライオン
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%84%E3%82%A1%E3%83%9C%E3%81%AE%E4%BA%BA%E9%A3%9F%E3%81%84%E3%83%A9%E3%82%A4%E3%82%AA%E3%83%B3

三毛別羆事件
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E4%B8%89%E6%AF%9B%E5%88%A5%E7%BE%86%E4%BA%8B%E4%BB%B6

※場所はココ、現在のツァボ国立公園付近

drhbb.png

で、今回出ていたのは、博物館に保管されている、このライオンの剥製を調査したという話。
牙にこびりついた微量のDNAや骨の状況から、何を食べ、どんな生活をしていたか明らかにしようというものである。

New DNA findings shed light on Tsavo's infamous man-eating lions
https://www.livescience.com/animals/lions/new-dna-findings-shed-light-on-tsavos-infamous-man-eating-lions

牙にこびりついたDNAだと、かなり微量なものになるが、最近はそれでも種族くらいは検出できるようになっている。
これは基本的には環境DNAの分析と同じ手法で、今回は、細胞に多数含まれるミトコンドリアの配列から種族を判定しているようだ。

wegyh6.png

食料として特定された生き物は、キリン、人間、オリックス、ウォーターバック、ヌー、シマウマ。「人間」も上位に入っているあたり、「お、おう」という感じだが、記録に残っているだけで30人近く食い殺していたようなので、まあ、そりゃあね…という感じ。

注目すべきは、スイギュウがほとんど食べられていなかったらしいこと。現在のツァボでは、ライオンの主食はアフリカスイギュウ(Syncerus caffer)だそうなのだが、ライオンが殺された当時のアフリカでは、伝染性ウイルスの牛疫が侵入していて、スイギュウの数が激減していた可能性があるという。
もともと食べていた主食の獲物が減ったことが、ライオンの凶行の原因ではないかという。だとしたら、ヨーロッパからの移住者自身が撒いた種である…。

牛疫について
https://www.maff.go.jp/j/syouan/douei/eisei/

3wfgfgg0.png

また、この人食いライオンは牙を負傷していて狩りをしづらくなっており、より軟弱で狙いやすい獲物として人間を狙った可能性もあるという。


というわけで、ツァボの人食いライオンは、凶悪なイメージとは裏腹に、実は、生きるため、やむにやまれぬ事情で人間を狩っていた可能性が出てきた。
そもそも、ライオンは本来、群れを作って狩りをする動物である。それがたった二頭で行動していたとすれば、群れを作れなかった「はぐれ者」だったとも考えられる。
そしてまた、ヨーロッパから持ち込まれた牛疫で獲物が激減した環境を生き抜こうとしていたという推測が正しければ、このライオンたちは、人自身が生み出した悪魔だったのかもしれない。


*****
参考までに、微量のDNAを使った調査のバリエーション

ネス湖のネッシーの正体は巨大ウナギ! という報道→実は元の報道はちょっと違う
https://55096962.seesaa.net/article/201909article_6.html

→ネス湖の水から生息している生物を洗い出し、未知の生き物はいないという結論を出している

考古学の新時代。「土からのDNA採取」で見える古代の生き物たち
https://55096962.seesaa.net/article/202107article_17.html

→古代の土に含まれるDNAから、当時生きていた生物の種類を特定している

古代の粘土板から環境DNAを抽出する試み。粘土レンガから当時の環境を再構築出来るかも
https://55096962.seesaa.net/article/500525015.html

→粘土板や日干しレンガの材料である土に含まれるDNAから、遺物の作られた時代を際限しようとしている