古代エジプトの職人事情:「銅のノミ」は実は高級品であるという話
銅のノミ、というのは、こういうやつである。まあ、ふつうに現代でも使われる大工道具の「ノミ」ですね。
横にある、木製の大きな槌でカンカン叩いて石を削る。よく出土するのは王家の谷などの岩窟墓の中で、おそらく、暗い墓穴の中で職人が見失ったまま置き去りにされたのだろうと思われる。
ただ、古代世界では銅は貴重品だった。
ディル・エル・メディーナ出土の墓掘り職人の記録を見ていると、銅製ノミの本数かかなり厳密に管理されており、うっかりミスで無くしたら届け出を出していたり、なくしたと思われたものが実は他の職人にパチられており騒ぎになったりしている。さらに、すり減って使い物にならなくなったノミを鍛造し直すために職人が配備され、「足した」銅の量も記録されている。
王家の谷の墓なので、作っているのは王や王族などの墓である。その墓を掘るために銅ノミが官給品として支給され、すり減ったら、その分の銅が補充されている。
墓を作るために使う原材料は発注主が準備することになっており、発注時に墓の装飾に使う石膏や絵の具、手元を照らす灯り用の油、副葬品の材料などが納品されているのだが、その中に「墓を掘るための銅ノミ」があり、「銅ノミがすり減った時用の補充の銅」が追加されてるのは実に面白い。
銅ノミには、たまに↓みたいに印のついているものが出土している。これは施工主のシンボルマークか、墓掘り工事をしていた集団の所有の印ではないかと言われているが、ノミ自体が支給品かつ本数の管理がきっちりされている高級品だったことと考え合わせると、印を入れたのは管理のためなんだろうなという感じがする。
※写真元 メトロポリタンのサイト
このノミは中王国時代のもの
で、さらに面白いのが、ノミのすり減り方は選んだ土壌の硬さによって違う、というもの。
柔らかい岩盤ならそれほどすり減らないが、硬い岩盤に突き当たったり、大きな石に出くわしたりすると道具が早くすり減ってしまい、想定以上に銅が必要になるという。(実際、それで施工主に銅の追加を依頼している文書も残っている)
ちなみに、古代エジプトでは銅=金額の単位でもある。
古代エジプトの単位「デベン」と物の価値について
https://55096962.seesaa.net/article/502273875.html
岩窟墓を作れるのはよっぽどの資金がないとムリなわけだが、ミイラづくりの代金や副葬品だけではなく、墓穴を掘るのに使う道具と人件費も負担しなきゃならなかったと考えれば、そりゃあ王族でもないとムリだな…というのがよく分かる。
後世、王権の弱まった時代に墓穴の転用が相次いだ理由もよく分かる。
墓穴をイチから掘らずに済むだけで、相当、お金を浮かすことが出来たんだね。
横にある、木製の大きな槌でカンカン叩いて石を削る。よく出土するのは王家の谷などの岩窟墓の中で、おそらく、暗い墓穴の中で職人が見失ったまま置き去りにされたのだろうと思われる。
ただ、古代世界では銅は貴重品だった。
ディル・エル・メディーナ出土の墓掘り職人の記録を見ていると、銅製ノミの本数かかなり厳密に管理されており、うっかりミスで無くしたら届け出を出していたり、なくしたと思われたものが実は他の職人にパチられており騒ぎになったりしている。さらに、すり減って使い物にならなくなったノミを鍛造し直すために職人が配備され、「足した」銅の量も記録されている。
王家の谷の墓なので、作っているのは王や王族などの墓である。その墓を掘るために銅ノミが官給品として支給され、すり減ったら、その分の銅が補充されている。
墓を作るために使う原材料は発注主が準備することになっており、発注時に墓の装飾に使う石膏や絵の具、手元を照らす灯り用の油、副葬品の材料などが納品されているのだが、その中に「墓を掘るための銅ノミ」があり、「銅ノミがすり減った時用の補充の銅」が追加されてるのは実に面白い。
銅ノミには、たまに↓みたいに印のついているものが出土している。これは施工主のシンボルマークか、墓掘り工事をしていた集団の所有の印ではないかと言われているが、ノミ自体が支給品かつ本数の管理がきっちりされている高級品だったことと考え合わせると、印を入れたのは管理のためなんだろうなという感じがする。
※写真元 メトロポリタンのサイト
このノミは中王国時代のもの
で、さらに面白いのが、ノミのすり減り方は選んだ土壌の硬さによって違う、というもの。
柔らかい岩盤ならそれほどすり減らないが、硬い岩盤に突き当たったり、大きな石に出くわしたりすると道具が早くすり減ってしまい、想定以上に銅が必要になるという。(実際、それで施工主に銅の追加を依頼している文書も残っている)
ちなみに、古代エジプトでは銅=金額の単位でもある。
古代エジプトの単位「デベン」と物の価値について
https://55096962.seesaa.net/article/502273875.html
岩窟墓を作れるのはよっぽどの資金がないとムリなわけだが、ミイラづくりの代金や副葬品だけではなく、墓穴を掘るのに使う道具と人件費も負担しなきゃならなかったと考えれば、そりゃあ王族でもないとムリだな…というのがよく分かる。
後世、王権の弱まった時代に墓穴の転用が相次いだ理由もよく分かる。
墓穴をイチから掘らずに済むだけで、相当、お金を浮かすことが出来たんだね。