古代エジプトの「バッタの護符」、願ったものは何なのか

古代エジプトの護符の中に、ファイアンス製のバッタがある。一般的に、宗教的な意味合いのものがファイアンスで作られるはずなので、これは護符なんだろうなと思うのだが、バッタに何を願うのか…? という疑問ある。

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https://www.flickr.com/photos/antiquitiesproject/4934908845

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https://www.mediastorehouse.com.au/fine-art-finder/artists/roman-period-egyptian/grasshopper-locust-12th-13th-dynasty-22665090.html

たとえば、スカラベ(フンコロガシ)の護符は、心臓の形がスカラベのうずくまったところに似ていると言うことから心臓(=魂の宿る場所)を守るものとして作られた。ミイラの心臓の上にスカラベの護符が置かれるのは、それが理由。

ハエの護符は、振り払っても振り払っても戻って来るしぶとさから、粘り強さの象徴として使われた。

ではバッタは…?


この護符はバッタの種類が特定されておらず、Grasshopper か Locust、と書かれている。実は、この部分の違いがかなり大きい。
大群を作るのはサバクトビバッタに代表されるlocustのほうで、Grasshopperは群れにならない。
(ちなみに Locust はイナゴと訳されることが多いが、イナゴは群れを作らない。日本で大量発生するのはトノサマバッタ)

Locust を想像して、あらゆる緑を食い尽くす旺盛さを象徴しているのではないか、という説明をしている人も見かけたが、それは説明になっていない。作られている護符は常に単品だからである。というか農業国であるエジプトで、大量発生するバッタが侵入したら大災害なのだが、…災害を護符にするはずもないのだが…。

なので自分は、これは Grasshopper のほうで、飛翔姿の護符が作られているところからして跳躍力や俊敏さを示しているのでは、と考えることにした。

また、エジプトでは壁画などにバッタがよく出てくるが、このバッタは草の上など高いところにいるとこからして、日中に地面にいるサバクトビバッタでは無く、果樹園と一緒に描かれるところからして木の葉っぱを食うタイプのバッタではないかと思っている。

【もしかして】古代エジプトの墓の壁画に出てくるバッタ、エジプト土着のバッタ…?
https://55096962.seesaa.net/article/202006article_4.html

そもそもエジプトには、サバクトビバッタはほとんど侵入しないのだ。現代でも、パレスチナ・レバノンあたりの中近東はしょっちゅう大量発生しているけど…。旧約聖書にバッタ大量発生の描写があるのは、その伝承を作った人たちに馴染みの風景をエジプトに当てはめただけの可能性もある。

ただ、安くもなかっただろうファイアンスの護符でバッタ作った気持ちは、やっぱり良くわからない。
作ってるからには需要があったのだろうし、残ってるからには誰かバッタの護符を墓に入れてあの世に持っていったはずなのだが、いくらバッタ好きの私でも、さすがにそこまでするかは悩ましいところである。