現代の大人数都市における食料供給と需要予測について & おまけで古代の話

むかし、「青ヶ島」という離島に行ったことがある。

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八丈島から小型船で3時間ほどかけて向かうか、乗れる人数は少ないがヘリを使うのだが、どちらにしても日帰りは不可能なため、島民以外は、乗る前に「宿の予約はしていますよね」と聞かれる。
これは野宿させないためでもあるが、島にはコンビニのような店がなく、食料品店はあるもののインスタントに食べられるものがほとんど無いため、何の準備もせず島に到着すると詰む、というのが大きな理由になる。

ちなみに島にはイモ畑と牧場くらいはあるが、食料の大半は八丈島からの船での輸送である。
食料は人口にあわせて輸入されていて、多少の余剰分しかない。
なので、島に数件ある宿が全て満杯になるほど大量の観光客が来ると、そもそも食料が足りない。

これが「島」という限定された空間での食料供給事情となる。
島には養える人口キャパがあるが、それを越えて人が住んでいる場合には、別の場所から食料を運び込まなければならない。
日本国の中での食料は足りているか、むしろ余り気味だったとしても、島でだけ「局地的な」「一時的な」食料不足が発生するのである。

沖縄のような大きめの島の場合は人口キャパは増えるし、島内で食料生産をしている場所もあるのでそこから融通するということが出来るが、基本的な考え方は同じ。台風で物資搬入が出来ない時期はスーパーから食料が消える、などは沖縄でもよく発生している。


次に日本列島という「島」について考えて欲しいのだが、ここでも人口キャパは島での食料生産量を越えている。つまり、食料供給は島だけでは完結できない。そして実際、多くの食料が「島」の外部から搬入されている。

人口は現象しつつあるため、食料の必要量は減っていく想定だが、その代わりに海外からの観光客が増えており、観光シーズンの観光都市では食料の消費量が上がると思われる。
この需要増を予測して、食料の運搬をする必要がある。

つまり、需要予測を外すと、大量に余ったり、極端に不足したりする、ということである。
そして、食料の大半は、作るのや運ぶのに時間がかかるため、足りなくなった瞬間にすぐに何とか出来るものではない、ということである。

記憶力のいい人なら、オリンピックイヤーだった2020年に合わせて和牛の生産量を上げたのに、コロナでオリンピック開催が流れてしまい、大量の牛肉が余ったことを覚えているかもしれない。また、学校が閉鎖され、学校給食用の牛乳も余って、投げ売りされていたことも騒がれていた。

食肉用の牛も、乳牛も、育てるのに時間がかかる。母牛に妊娠させ、出産させ、子牛を育てる。何年も前から需要を予測して生産計画を立てている。それが、コロナという不測の事態によって需要予測を大きく外したことにより、大量に余ることになったのだ。

また逆に、突発的な需要増によって足りなくなったのが今年の米騒動と言われているものである。
米の生産量自体は足りており、国には備蓄米と呼ばれる在庫が大量にあった。しかし、米は精製して袋詰して出荷する必要があり、牛ほどではないが食べられる状態にするまで時間がかかる。既に各工場が新米用にスタンバイしているところで台風やマスコミの煽りなどで需要が跳ね上がったため、一時的に品薄になった、という話である。

しかもこれは東京や大阪といった都市部でだけの現象だったことが既に見えている。需要が跳ね上がったのも、不足が発生したのも都市部でだけなので、流通計画の失敗と言えるかもしれない。

余った事例、足りなくなった事例、どちらも、不測の事態によって事前予測が外れたことによる。
無駄に余らせてしまうと値崩れが起きて生産者がたちゆかなくなるし、足りないと生活出来なくなってしまう。このように、食料を過不足なく行き渡らせるのは、なかなかテクニックのいる仕事なのだと分かる。

国なり生産者なり各小売店なりが調整した結果が、今の、食うに困らない状況を作ってくれている。
特にこれは、人口の大きな都市を支える場合には、より高度な調整が必要となる。1人暮らしより大家族のほうが食料の買い込み調整が大変なのと同じことだ。
当たり前に見えることの裏にも、いろんな人たちの苦労があるのは覚えておきたい。
それは、本当は「当たり前」なのではなく、努力によって達成されているものなのだと。

(それが分かるだけでも、軽々しく誰かを責めたり騒いだり出来なくなると思うよ?)


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ついでに古代の話も書いておく。
この食料生産のコントロールは古代都市ではどうしてたのよ? というところである。

結論から言うと、地域による。

メソポタミアとかマヤのように都市国家だった地域は、基本的に、食料は自分の所属する都市で生産したもののみ。食料は戦略物資なので他国には依存出来ない。人口が増えすぎたり、食料生産量が落ちて人口を維持できなくなって崩壊した都市もある。

エジプトのように領域国家で、川があるので穀物を大量に運べる船が使える場合は、都市間で食料の融通がされていた形跡がある。穀物生産量の多い国とはいえ、ナイル上流のアスワン地域や、耕作地を持たない新興都市のアマルナは、他都市からの食料の融通がないと人口を維持できなかった。

ローマ帝国のように、植民地からの穀物輸入に頼りがちで、植民地を失うと食料の供給が出来なくなった国もある。

しかし、いずれの場合でも言えることは、食料供給量の管理は重要で、流通が止まると都市が消滅するというのは当たり前に起きていたことなのだ。
日本という「島」で、シーレーンが大事と言われるのは、海を通って食料が運び込まれているからで、そこ止まると食っていけなくなるんですよ。防衛関連でシーレーン云々が出てきた場合は、それも思い出してください。