古代エジプトにおける「街の神格化」、グレコ・ローマン時代のものが有名だが、それ以前からあったらしい

都市の擬人化(女性化)は中世・近代・現代と事例が多いが、古代エジプトでは、街を女神として神格化する文化があった。というか、グレコ・ローマン時代のものが有名なので、元々ギリシャかローマの文化だと思っていたのだが、実はそれ以前の時代にも事例があるという。

というわけで、まず基本的なところから抑えていこう。
あれっと思ったのは、こちらの、メンフィスの街を擬人(神)化した女神の事例。頭の上にピラミッドまたはオベリスクを載せている。
メンフィスという名前はギリシャ語読みで、古代エジプト語では「メンネフェル」。なので、女神の名前も「メンネフェル」である。

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この図自体はグレコ・ローマン時代のものなのだが、説明書きのところに「セティ1世がメンフィスに残したプタハ神殿に、この女神の像がある」と書かれていた。ということは、新王国時代にはすでに、メンフィスの街を擬人化する考え方があったのだと考えられる。

基本的に、街を擬人化した神は単品で出てくることがない。
その街/地域の主神や王とセットになる。セティ1世の神殿の事例でも、女神メンネフェルはプタハ神および王とセットのようなので、伝統には沿っている。

グレコ・ローマン時代の事例は以下の論文が詳しい。
神格化されて王の碑文に登場する都市は、ホルス神の本拠地エドフ、ハトホル女神の本拠地デンデラ、アメン神の本拠地で新王国時代の首都でもあるテーベ。

Personification of Cities in Greco-Roman Temples
https://www.ub.edu/ipoa/wp-content/uploads/2021/07/20191AuOrRagab.pdf

これらの都市の神格化は、基本的に女性である。
王が男性であり、その男性と対になる存在になるので、女性として扱うのが都合良かったのだろう。また、古代エジプト語で「町」を意味する言葉「ニウト」は女性名詞である。
エジプト神話では、大地そのものは男性神のゲブなのだが、そのゲブの上にある都市は女性になる。なんとも面白い扱い方だ。



余談だが、エジプトに隣接する地域のアッシリアでも、アッシュル神は男性なのに、都市としてのアッシュルの街は女性として神格化されている。街や都市が女性にされやすいのには、何か、「兵士が守るべき場所だから」とか「動かず待っているものだから」とか、そんな感覚的な利用もあるのかもしれない。

というかそもそも、街を擬人化/神格化するっていう行為自体が何なんだよって話でもあり、なんかこう…人類の思考というか、脳に備わった万国共通的な何かみたいな…深い理由があったりなかったりするような気も…?