カンボジアの密林寺院群に、古代エジプトのピラミッドと共通する思想は読み取れるのか。王命による宗教複合施設の雛形について
少し前に、カンボジアのアンコール遺跡についての本を読んだ。タイトルからして分かるとおり、アンコール遺跡群を作るにあたり、いかに水を制御し、農耕地を増やして国力としていったのか、という話である。9世紀ごろから建造開始され、王朝衰退とともに忘れ去られ、19世紀に再発見されるまで密林の中に埋もれていた。有名なアンコール・ワットやアンコール・トムは一つの寺院単位であり、周辺に多数の寺院遺跡が存在する。

アンコール王朝の水利都市―アンコール・ワット建立の経済活動解明に挑戦― - 石澤 良昭
かたや砂漠の国、かたや熱帯雨林の国、と気象条件も前提も大きく異なるものの、王ごとに寺院を建てているところや、建てるために景観を大きく変えているところ、事業のために多くの人を集めているところなどが古代エジプトのピラミッド群と共通するなあと思ったので、少し「似てるな」と思う部分を整理してみることにした。
王権の強い世界では、王命による事業は全て公共事業となる。
よってピラミッドは公共事業を目的としたものではなく、事業種類として公共事業なのは今更言うまでもないが、アンコールの遺跡群も公共事業と言える。両者の共通点は、宗教都市を作る場合の公共事業の雛形のようなものになりえるかもしれない。
●王ごとに建てる(使い回ししない)
王なら誰でも、自分好みのモニュメントを建てて後世に名を残したい。…と思っていたかどかはともかくとして、王ごとに作っているのは両者に共通する。これは中南米の、「前の王の建てたものの上に一回り大きいもの被せる」というやり方とは根本的に考え方が違っていると思う。
土地が聖なるものだからその場所に建て続ける。という考え方に対し、建物を建てた場所が聖なる場所になるのだから新しく建てる。という考え方。
最初に、アンコール遺跡群ってピラミッドっほいなーと思ったのがここだった。ぽんぽんピラミッド建ててたエジプトと、寺院建てまくってたアンコール朝は似てる気がしたのだ。
●モニュメント+周辺設備の複合
ピラミッド同様、アンコールの寺院も、目立つ寺院本体と周辺の付属施設の組み合わせで成り立つ複合(コンプレックス)である。
参道とか回廊、ため池などをワンセットで作って設置。あまり使いまわししないところは特徴的。
●建造事業のための自然改変
ピラミッド建造時代のエジプトでは、ナイルの支流から水を引き込む、港を作る、などの水利事業が盛んに行われていた。アンコール遺跡も近くを流れるシェムリアップ川、ロリュオス川の流れを変えるなどの自然改変は行われている。
ただしアンコールで作られていたため池(バライ)のようなものは、エジプトでは作られていない。そもそもナイル川沿い以外の場所は砂漠なので作れないともいう。
少なくとも、大規模建造の前提条件として、「効率的な建築を可能にする環境」を整えられることは必須かなと思う。
あと、ナイルの増水と同じく、アンコール遺跡でも、南に面しているトンレ・サップ湖が雨季になると三倍くらいの大きさになるというのはちょっと面白いかも。水利都市を築くからには、”水”に関わる特徴的な気候があるのだ。
●労働力集め&ごはん
労働者のための集落を作ることで、宗教施設に都市が付随する環境を作っていたのは両者とも同じ。巨大な建造物を多数作るなら、通年で稼働できる労働力を集住させることは必須条件。
で、人を集めると、住むとこだけでなく、ごはんも必要となる。
余剰作物が必要=付近の農地の拡大も必要。作るものがデカければデカいほど、人が必要となればなるほど、農業力も必要になってくる。
アンコール遺跡に付随するため池は、コメを作るために整備されている。
●建造のための土地問題
最初のピラミッド/寺院ほど目立つ一等地にあり、あとの王たちは周辺の地域に散らばっている、というのはどっちも同じ。これは、使いやすい/良質な土地から優先で建造が開始されるので当然と言える。
建造に適した土地がなくなると終了である。エジプトのピラミッド建造が止まったのは土地がもうない&宗教トレンドの変化、カンボジアの寺院建造が止まったのは土地がもうない&王朝の衰退、という感じだと思う。
というわけで、ざっと思いつくものを、つらつらと書き並べてみた。
やはり、国家権力と宗教が結びついて宗教複合施設を作る場合の基本的セットのようなものはうっすら見える。前提条件が違っても、権力者の考えること・やることは似たようなものなのかもしれない。
今回は2個所の文明だけの比較なので、他にもサンプルが見つかったらここに加えてみようと思う。

アンコール王朝の水利都市―アンコール・ワット建立の経済活動解明に挑戦― - 石澤 良昭
かたや砂漠の国、かたや熱帯雨林の国、と気象条件も前提も大きく異なるものの、王ごとに寺院を建てているところや、建てるために景観を大きく変えているところ、事業のために多くの人を集めているところなどが古代エジプトのピラミッド群と共通するなあと思ったので、少し「似てるな」と思う部分を整理してみることにした。
王権の強い世界では、王命による事業は全て公共事業となる。
よってピラミッドは公共事業を目的としたものではなく、事業種類として公共事業なのは今更言うまでもないが、アンコールの遺跡群も公共事業と言える。両者の共通点は、宗教都市を作る場合の公共事業の雛形のようなものになりえるかもしれない。
●王ごとに建てる(使い回ししない)
王なら誰でも、自分好みのモニュメントを建てて後世に名を残したい。…と思っていたかどかはともかくとして、王ごとに作っているのは両者に共通する。これは中南米の、「前の王の建てたものの上に一回り大きいもの被せる」というやり方とは根本的に考え方が違っていると思う。
土地が聖なるものだからその場所に建て続ける。という考え方に対し、建物を建てた場所が聖なる場所になるのだから新しく建てる。という考え方。
最初に、アンコール遺跡群ってピラミッドっほいなーと思ったのがここだった。ぽんぽんピラミッド建ててたエジプトと、寺院建てまくってたアンコール朝は似てる気がしたのだ。
●モニュメント+周辺設備の複合
ピラミッド同様、アンコールの寺院も、目立つ寺院本体と周辺の付属施設の組み合わせで成り立つ複合(コンプレックス)である。
参道とか回廊、ため池などをワンセットで作って設置。あまり使いまわししないところは特徴的。
●建造事業のための自然改変
ピラミッド建造時代のエジプトでは、ナイルの支流から水を引き込む、港を作る、などの水利事業が盛んに行われていた。アンコール遺跡も近くを流れるシェムリアップ川、ロリュオス川の流れを変えるなどの自然改変は行われている。
ただしアンコールで作られていたため池(バライ)のようなものは、エジプトでは作られていない。そもそもナイル川沿い以外の場所は砂漠なので作れないともいう。
少なくとも、大規模建造の前提条件として、「効率的な建築を可能にする環境」を整えられることは必須かなと思う。
あと、ナイルの増水と同じく、アンコール遺跡でも、南に面しているトンレ・サップ湖が雨季になると三倍くらいの大きさになるというのはちょっと面白いかも。水利都市を築くからには、”水”に関わる特徴的な気候があるのだ。
●労働力集め&ごはん
労働者のための集落を作ることで、宗教施設に都市が付随する環境を作っていたのは両者とも同じ。巨大な建造物を多数作るなら、通年で稼働できる労働力を集住させることは必須条件。
で、人を集めると、住むとこだけでなく、ごはんも必要となる。
余剰作物が必要=付近の農地の拡大も必要。作るものがデカければデカいほど、人が必要となればなるほど、農業力も必要になってくる。
アンコール遺跡に付随するため池は、コメを作るために整備されている。
●建造のための土地問題
最初のピラミッド/寺院ほど目立つ一等地にあり、あとの王たちは周辺の地域に散らばっている、というのはどっちも同じ。これは、使いやすい/良質な土地から優先で建造が開始されるので当然と言える。
建造に適した土地がなくなると終了である。エジプトのピラミッド建造が止まったのは土地がもうない&宗教トレンドの変化、カンボジアの寺院建造が止まったのは土地がもうない&王朝の衰退、という感じだと思う。
というわけで、ざっと思いつくものを、つらつらと書き並べてみた。
やはり、国家権力と宗教が結びついて宗教複合施設を作る場合の基本的セットのようなものはうっすら見える。前提条件が違っても、権力者の考えること・やることは似たようなものなのかもしれない。
今回は2個所の文明だけの比較なので、他にもサンプルが見つかったらここに加えてみようと思う。