レプリカは本物と何が違うのか。「ミステリー・オブ・ツタンカーメン」に行ってみた
予定表に突っ込んだまま完全に忘れていて、朝アラートが出ているのを見て「あれ今日ってなんかあったっけ…」「ああこのイベントか」みたいな感じになり、そのまま出かけてきた。横浜で12/14から開催のイベント、「ミステリー・オブ・ツタンカーメン」。
公式
https://tutankhamen.jp/
体感型イベント、とあるのでVR的なものだと思っていたのだが、実際は デカい画面で映像が流れてる中でツタンカーメン墓の遺物レプリカを見て回る展示会 であった。
しかもレプリカなのに触るとかも出来ない(笑) どのへんが体感なのかはよく分からなかったが、ツタンカーメン墓の実物レプリカもあり、中に入ることが出来たので、そのへんが体感型なのかもしれない。

●このイベントに向いている人
・エジプトに行きたいけど行けない/行く予定のない人
・一般エジプトマニアで、雰囲気だけ楽しめればいい人
・ガチマニアで、碑文とかじっくり見たい人
・横浜美術館のすぐ近くで開催なので、あわせてアートな気分を味わいたい人
●向いていない人
・既にエジプトに行ったことがある、本物を見たことがある人
・一般エジプトマニアで、がっつりお勉強したい人
・ガチマニアで一般向け情報暗記済みの人
・ミステリー要素が好きな人
●良かったところ
・展示物との距離が近めだった
・説明文のボードが石板ライクな見た目になっていて、石に刻んだみたいな雰囲気になっていた
・大都会桜木町のオシャレエリアでの開催なので、意識高い感じで見に行ける
●イマイチだったところ
・レプリカなんだから一番人気の椅子くらい座らせてくれてもよかったのでは??
てかエジプト本国のファラオニック・ビレッジっていう施設だと、椅子のレプリカに座れるアトラクションがあったけど。人を滞留させたくないんだろうけど、ぽつんぽつんとレプリカが置かれているだけなので、なんか物足りない
・スタッフがとかく手慣れていない。入口の案内の人が堂々とカンペ読んでるのは笑った。
展示場にいるスタッフも客の動きが見えていない。ちっちゃい子どもがミイラぺちぺちしてるの気づいてなかった。明らかに訓練不足。最近雇われたバイトとかにやらせてるんですかね…
・映像がイマイチ、というか間が長い。ただ単にエジプトの風景流してるだけーみたいなところもあり映像のワクワク感も足りない。
エジプト観光庁の国威をかけたPR映像を見たことがあると、格の違いを感じてしまう
あとロータスの色がピンクだった。見た目もあんまりロータスっぽくなかったし…もしかして蓮と間違えてません?? (エジプトのロータス=スイレン。ハスではない。色は白か青が一般的なはず。)
・レプリカが作られているのは、ツタンカーメン墓から出たものの中でも一部の、黄金などが使われたゴージャスに見えるものだけで、他の「カゴなどの生活用品」「衣類」「セネト盤」「花輪」などの多くの品が再現されていない。それらは、入口横のオープニング映像で一瞬出てくるだけ。ここが一番の不満。
・ナマモノは再現しない方針かと思ったら、ツタンカーメンの娘たちのミイラだけレプリカがあった。死体のレプリカはさすがに悪趣味では。てか、流産とかしたことのある人がいたら多分あれトラウマもんの展示やぞ…。
・セネドって書かれてた神、名前の欠損部分の復元が変わって、今の資料だとセンデトになってるはず
え? ダメ出しのほうが多くないかって?
もう一度、最初に上げた「向いていない人」の一覧を見てくれ。そう、自分、このイベントには向いてなかった。
中の人、もう本物見てきてるし、ツタンカーメン墓も現地で入ったことあるんだ…。なんならティイの頭部像とネフェルティティの胸像見にドイツまで行ったわ。なのでレプリカしかなくて、レプリカならではの体験も出来ないイベントだと「ふーん」って感じで普通に流して終わっちゃうんだわ…。写真は撮れるんだけどね…。
一つ良かったのは、ツタンカーメンの厨子のいちばん外側のやつの、謎めいた図像を近くで見れたことですかね。
これはオススメ。なんの説明も無かったのが非常に残念。この厨子の模様は、専門家が「意味がわからん、読み解けん」と言うくらい謎だらけなんですよ。
上から二段目の左のほうに首チョンパされた胴体が並んでて、水のしたたる太陽のようなものと星があるでしょ。こことか何なの?って感じ。
その右は額に太陽からのビームを受けているミイラが並んでいて、足元をヘビが支えている。これもどういう意味なのか謎。

冥界神の中に「こっち見んなブラザーズ」もいる。※私が勝手に読んでる名前
この二柱は死者の書にもいるけど、ツタンカーメンの厨子にデカデカと描かれるとやっぱインパクトありますよね。

ただ、やはりレプリカは、どんなに精巧に作られても本物とオーラが違うんですよね。
それを特に感じたのがアクエンアテンの巨像を見た時。
カイロ博物館ではじめてあれの実物を見た時、自分は、「うわ、この人とは絶対あわねぇ」って思ったんですよ。で、それからずっと、「アクエンアテンとは話あわない」「古代世界にタイムトリップ出来たとしても会いたくないファラオ No.1」って言い続けてるんです。
そういうオーラがなんもなかった。レプリカの像は、普通の”面長なおじさん”。
神は細部に宿る、という言葉があるけれど、レプリカで再現出来ない細部こそ、まさに古代人の魂の宿ってる部分なんだと思う。
椅子や戦車くらいだとレプリカでもそこそこイイなって思うんですが、人物の像や神像になると、とたんにペラさを感じてしまいましたね…。よく出来てはいたんですが、本物を見たことある人はもいっかいわざわざ見に行かなくてもいいかなと思います。説明書きも少ないし、映像はほぼ雰囲気だけなので!
●ツッコミどころ
まず一つ、最後のツタンカーメン墓のところに「ツタンカーメン墓の近くにネフェルティティの墓が隠されているのでは」みたいな話が書いてありましたが、その件は完全に否定されました。ツタンカーメン墓に隣接する空間や隠し部屋は無い、で結論が出ています。
もともとの説を唱えたリーブス博士が監修者の先生のお友達なんで無理やり入れたんじゃないか? とちょっと思いました。
相変わらず続報が出ません!ツタンカーメンの墓に隠し部屋はあるのか論争の最終結論
https://55096962.seesaa.net/article/201804article_1.html
【最終結論】ツタンカーメンの墓に隠し部屋は、ありませんでした。
https://55096962.seesaa.net/article/201805article_7.html
この件、最初に隠し部屋がある! と発表されたあと、GPR(地中探査レーダー)の技術者から「GCRってそういう使い方するもんじゃないんだけど」「壁の向こうに有機物があるとか判別できる技術じゃないよ」とかツッコミ入りまくって、別の複数のチームが再検査して「空間なんてねぇわ」という結論になってるんです。科学的には妥当な手続き。
なので、いまだに隠し部屋があるとか言ってるのは、昔のバラエティ番組で「ピラミッドは墓じゃない!」とか騒いでたアレと同じなんですよね。手続きが妥当なら結果は受け入れないと。
もう一つが、ツタンカーメンをアクエンアテンの息子としていたところ。
これは実は当時のDNA解析手法に問題があり、医学論文でいくつものクレームがついている研究です。
ツタンカーメンの親子鑑定DNA解析に見る問題点(1) STR検査法とその使い方
https://55096962.seesaa.net/article/201604article_20.html
ツタンカーメンの親子鑑定DNA解析に見る問題点(2) 科学の体裁を模した"解体ショー"
https://55096962.seesaa.net/article/201604article_23.html
エジプト人考古学者で、権威でもあるザヒ・ハワスが異論を認めていないため、エジプトで仕事する考古学者は表立って反論出来ない風潮になっているが、事実としていくつもの問題があること、調査がされたのが2005年と少し古く、いまの確立された検査法でもう一回やり直したほうがいいと思われる。
そもそも、サンプルを採取したアクエンアテンとされる遺骨は年齢が若すぎて、アクエンアテンではない可能性すら残っている。断言するのは危険だろうなと思います。
さいごに一つ、監修者の趣味なのか、三大ピラミッドのうち二つだけクローズアップして、その真中に日が沈む、あるいは昇るシーンをサプリミナル的に何度も使用していたのが気になった。ヒエログリフで日の出を現した「アケト」の文字がピラミッドから来ているという独自説には根拠が薄く、妥当性もないと以前ツッコんだことがあります。
そもそも、ナイル川沿いの集落はピラミッドの東側に位置しているし、ピラミッドは台地の上に建ってるのでピラミッドの背後の地平線は見えない。前提からして無理がある。
そんな理由で、いちばん小さいメンカウラー王のピラミッドを邪険にされちゃ困るんですけどね。
(どうせならツタンカーメン専門のK合先生に監修依頼したほうが、もう少し熱の籠もった展示になったのでは…とうっすら思ったけど、運営会社次第なのかなあ…。)
*******
というわけで、「エジプト展」という単体で見てしまうとちょっと微妙。展示内容、スタッフの練度ともに熱を感じない薄味。
ただ、久しぶりに山じゃない本物の横浜を見てうまいもんが食えたので、それは良しとしましょう。
公式
https://tutankhamen.jp/
体感型イベント、とあるのでVR的なものだと思っていたのだが、実際は デカい画面で映像が流れてる中でツタンカーメン墓の遺物レプリカを見て回る展示会 であった。
しかもレプリカなのに触るとかも出来ない(笑) どのへんが体感なのかはよく分からなかったが、ツタンカーメン墓の実物レプリカもあり、中に入ることが出来たので、そのへんが体感型なのかもしれない。

●このイベントに向いている人
・エジプトに行きたいけど行けない/行く予定のない人
・一般エジプトマニアで、雰囲気だけ楽しめればいい人
・ガチマニアで、碑文とかじっくり見たい人
・横浜美術館のすぐ近くで開催なので、あわせてアートな気分を味わいたい人
●向いていない人
・既にエジプトに行ったことがある、本物を見たことがある人
・一般エジプトマニアで、がっつりお勉強したい人
・ガチマニアで一般向け情報暗記済みの人
・ミステリー要素が好きな人
●良かったところ
・展示物との距離が近めだった
・説明文のボードが石板ライクな見た目になっていて、石に刻んだみたいな雰囲気になっていた
・大都会桜木町のオシャレエリアでの開催なので、意識高い感じで見に行ける
●イマイチだったところ
・レプリカなんだから一番人気の椅子くらい座らせてくれてもよかったのでは??
てかエジプト本国のファラオニック・ビレッジっていう施設だと、椅子のレプリカに座れるアトラクションがあったけど。人を滞留させたくないんだろうけど、ぽつんぽつんとレプリカが置かれているだけなので、なんか物足りない
・スタッフがとかく手慣れていない。入口の案内の人が堂々とカンペ読んでるのは笑った。
展示場にいるスタッフも客の動きが見えていない。ちっちゃい子どもがミイラぺちぺちしてるの気づいてなかった。明らかに訓練不足。最近雇われたバイトとかにやらせてるんですかね…
・映像がイマイチ、というか間が長い。ただ単にエジプトの風景流してるだけーみたいなところもあり映像のワクワク感も足りない。
エジプト観光庁の国威をかけたPR映像を見たことがあると、格の違いを感じてしまう
あとロータスの色がピンクだった。見た目もあんまりロータスっぽくなかったし…もしかして蓮と間違えてません?? (エジプトのロータス=スイレン。ハスではない。色は白か青が一般的なはず。)
・レプリカが作られているのは、ツタンカーメン墓から出たものの中でも一部の、黄金などが使われたゴージャスに見えるものだけで、他の「カゴなどの生活用品」「衣類」「セネト盤」「花輪」などの多くの品が再現されていない。それらは、入口横のオープニング映像で一瞬出てくるだけ。ここが一番の不満。
・ナマモノは再現しない方針かと思ったら、ツタンカーメンの娘たちのミイラだけレプリカがあった。死体のレプリカはさすがに悪趣味では。てか、流産とかしたことのある人がいたら多分あれトラウマもんの展示やぞ…。
・セネドって書かれてた神、名前の欠損部分の復元が変わって、今の資料だとセンデトになってるはず
え? ダメ出しのほうが多くないかって?
もう一度、最初に上げた「向いていない人」の一覧を見てくれ。そう、自分、このイベントには向いてなかった。
中の人、もう本物見てきてるし、ツタンカーメン墓も現地で入ったことあるんだ…。なんならティイの頭部像とネフェルティティの胸像見にドイツまで行ったわ。なのでレプリカしかなくて、レプリカならではの体験も出来ないイベントだと「ふーん」って感じで普通に流して終わっちゃうんだわ…。写真は撮れるんだけどね…。
一つ良かったのは、ツタンカーメンの厨子のいちばん外側のやつの、謎めいた図像を近くで見れたことですかね。
これはオススメ。なんの説明も無かったのが非常に残念。この厨子の模様は、専門家が「意味がわからん、読み解けん」と言うくらい謎だらけなんですよ。
上から二段目の左のほうに首チョンパされた胴体が並んでて、水のしたたる太陽のようなものと星があるでしょ。こことか何なの?って感じ。
その右は額に太陽からのビームを受けているミイラが並んでいて、足元をヘビが支えている。これもどういう意味なのか謎。
冥界神の中に「こっち見んなブラザーズ」もいる。※私が勝手に読んでる名前
この二柱は死者の書にもいるけど、ツタンカーメンの厨子にデカデカと描かれるとやっぱインパクトありますよね。
ただ、やはりレプリカは、どんなに精巧に作られても本物とオーラが違うんですよね。
それを特に感じたのがアクエンアテンの巨像を見た時。
カイロ博物館ではじめてあれの実物を見た時、自分は、「うわ、この人とは絶対あわねぇ」って思ったんですよ。で、それからずっと、「アクエンアテンとは話あわない」「古代世界にタイムトリップ出来たとしても会いたくないファラオ No.1」って言い続けてるんです。
そういうオーラがなんもなかった。レプリカの像は、普通の”面長なおじさん”。
神は細部に宿る、という言葉があるけれど、レプリカで再現出来ない細部こそ、まさに古代人の魂の宿ってる部分なんだと思う。
椅子や戦車くらいだとレプリカでもそこそこイイなって思うんですが、人物の像や神像になると、とたんにペラさを感じてしまいましたね…。よく出来てはいたんですが、本物を見たことある人はもいっかいわざわざ見に行かなくてもいいかなと思います。説明書きも少ないし、映像はほぼ雰囲気だけなので!
●ツッコミどころ
まず一つ、最後のツタンカーメン墓のところに「ツタンカーメン墓の近くにネフェルティティの墓が隠されているのでは」みたいな話が書いてありましたが、その件は完全に否定されました。ツタンカーメン墓に隣接する空間や隠し部屋は無い、で結論が出ています。
もともとの説を唱えたリーブス博士が監修者の先生のお友達なんで無理やり入れたんじゃないか? とちょっと思いました。
相変わらず続報が出ません!ツタンカーメンの墓に隠し部屋はあるのか論争の最終結論
https://55096962.seesaa.net/article/201804article_1.html
【最終結論】ツタンカーメンの墓に隠し部屋は、ありませんでした。
https://55096962.seesaa.net/article/201805article_7.html
この件、最初に隠し部屋がある! と発表されたあと、GPR(地中探査レーダー)の技術者から「GCRってそういう使い方するもんじゃないんだけど」「壁の向こうに有機物があるとか判別できる技術じゃないよ」とかツッコミ入りまくって、別の複数のチームが再検査して「空間なんてねぇわ」という結論になってるんです。科学的には妥当な手続き。
なので、いまだに隠し部屋があるとか言ってるのは、昔のバラエティ番組で「ピラミッドは墓じゃない!」とか騒いでたアレと同じなんですよね。手続きが妥当なら結果は受け入れないと。
もう一つが、ツタンカーメンをアクエンアテンの息子としていたところ。
これは実は当時のDNA解析手法に問題があり、医学論文でいくつものクレームがついている研究です。
ツタンカーメンの親子鑑定DNA解析に見る問題点(1) STR検査法とその使い方
https://55096962.seesaa.net/article/201604article_20.html
ツタンカーメンの親子鑑定DNA解析に見る問題点(2) 科学の体裁を模した"解体ショー"
https://55096962.seesaa.net/article/201604article_23.html
エジプト人考古学者で、権威でもあるザヒ・ハワスが異論を認めていないため、エジプトで仕事する考古学者は表立って反論出来ない風潮になっているが、事実としていくつもの問題があること、調査がされたのが2005年と少し古く、いまの確立された検査法でもう一回やり直したほうがいいと思われる。
そもそも、サンプルを採取したアクエンアテンとされる遺骨は年齢が若すぎて、アクエンアテンではない可能性すら残っている。断言するのは危険だろうなと思います。
さいごに一つ、監修者の趣味なのか、三大ピラミッドのうち二つだけクローズアップして、その真中に日が沈む、あるいは昇るシーンをサプリミナル的に何度も使用していたのが気になった。ヒエログリフで日の出を現した「アケト」の文字がピラミッドから来ているという独自説には根拠が薄く、妥当性もないと以前ツッコんだことがあります。
そもそも、ナイル川沿いの集落はピラミッドの東側に位置しているし、ピラミッドは台地の上に建ってるのでピラミッドの背後の地平線は見えない。前提からして無理がある。
そんな理由で、いちばん小さいメンカウラー王のピラミッドを邪険にされちゃ困るんですけどね。
(どうせならツタンカーメン専門のK合先生に監修依頼したほうが、もう少し熱の籠もった展示になったのでは…とうっすら思ったけど、運営会社次第なのかなあ…。)
*******
というわけで、「エジプト展」という単体で見てしまうとちょっと微妙。展示内容、スタッフの練度ともに熱を感じない薄味。
ただ、久しぶりに山じゃない本物の横浜を見てうまいもんが食えたので、それは良しとしましょう。