古代エジプト・先王朝時代の墓から出た去勢羊、ツノをかっこよくするために整形されていた。古代世界の「犠牲獣」について

紀元前3,700年頃、先王朝時代のヒエラコンポリスの貴族墓から出てきた羊の頭部の骨のの形がなんか特徴的なので調べてみたところ、種類が違うわけじゃなく人工的に骨の形を整えて、ツノをカッコよくしていたという話。
時期的にはナカダ期の序盤。エリートは、墓に珍しい動物を埋葬することが多かった時代になる。

元論文
The earliest evidence for deformation of livestock horns: The case of Predynastic sheep from Hierakonpolis, Egypt
https://www.sciencedirect.com/science/article/abs/pii/S0305440324001729?via%3Dihub

サマリー
Archaeological study uncovers world's oldest evidence of livestock horn manipulation
https://phys.org/news/2024-12-archaeological-uncovers-world-oldest-evidence.html

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…どう? カッコいい…?

現場はHK6と呼ばれる墓地で、写真は、角が意図的に上向きに成長するように根本で一回折って縄で縛るなどされていた個体だという。ツノが無くなっているものや、水平の向きに伸びるよう変形が加えられていたものもあったという。
また、これらは去勢羊と考えられており、骨が細長く、癒合していない骨がある状態で、去勢されていない羊よりも体が大きく成長していたという。

現代の知識では、去勢人字は従順になるため、羊飼いに従う先導役の羊として仕立てるのが一般的。しかし先王朝時代のエジプトでは、去勢は「羊を大きくして見栄えのある体格にするため」に使われていた、ということだ。

また、オスの羊は3歳を越えると独特の臭みが出てくるとされ、たいてい3歳までには屠殺されてしまうのだが、これらの羊は6~8 歳だそうで。食べるためではなく、最初から墓の供物とするために育てられていた可能性があるそうだ。


かつて、ヒエラコンポリスの貴族墓からいろんな珍しい動物が出てくることについて「ペット」と表現されることにツッコミを入れたことがあるが、やはりこれは「ペット」ではなく「犠牲獣」が正しい表現だと思う。
集められていた動物たちは、飼い主の自慢すべき財産であり、多少の愛情は持っていたとしても所有物としての側面が強く、豪華な副葬品の一部でしかないのだ。
(もっとも、現代のペットも、家族の一員!なんて言われるようになったのは近代のことだが…。)

その動物は、果たして本当に「ペット」なのか。ヒエラコンポリス出土の動物たち
https://55096962.seesaa.net/article/201506article_13.html

犠牲獣は、シリア・パレスチナ方面の宗教やメソポタミアでも多く見られる。ただ、それらの犠牲はほとんどが「羊」。エジプトに特徴的なのは、羊だけではなく他の多くの獣を使うこと、特にゾウやキリン、ヒヒなど、エジプト外から連れてきた珍しい生き物をより多くの種類、集めたがることだと思う。

そして、「去勢」の技術の使い方も、遊牧の民と農耕民の国では、少しばかり違っていたのかもしれない。