ナツメヤシの雑学あれこれ「デーツの歴史」

ナツメヤシといえば、エジプトでは広く食べられているポピュラーな果物。古代から壁画などに登場する、おなじみの作物だ。
だが、ふと考えてみると、その栽培方法とか食べ方とか諸々の情報をよく知らない。

というわけで! ちょっと図書館の園芸コーナー行って本を探してみた。
一番わかりやすかったのがこれ↓。お馴染みのメシテロ・シリーズだが、デーツについては珍しく、農業・栽培寄りの内容になっていた。

デーツの歴史 (「食」の図書館) - ナワル・ナスラッラ, 野村 真依子
デーツの歴史 (「食」の図書館) - ナワル・ナスラッラ, 野村 真依子

まず知らなかったのが、デーツの実の成熟は、おおよそ三段階に分けられる、ということだ。

「ハラール」…まだ若く硬い。歯ごたえあり
「ルターブ」…やわらかくなってきたもの、品種によってはここで収穫
「タムル」…乾燥したもの、水分が抜けて甘くねっとりした感じになる

熟れてくると、鳥やげっ歯類、虫など様々な生き物が狙いに来る。アジア圏だと猿にも狙われるというから、日本の果樹園と悩みは同じだ。
また、スーダンなど乾燥した地域だと、完全に木の上で乾燥させるのが難しいのでルターブで収穫して地上でタムルの状態に持っていくらしい。エジプトも同様で、地面に敷いたござの上に広げて一週間くらい天日干しにする。やり方はちょっと違うが、干し柿づくりみたいな感じだ。
むかしエジプトの農村でその風景を見たことがあるが、干したあとの実の食感も干し柿とか干し杏みたいな感じだった記憶がある。
気候は現代も古代も同じはずなので、たぶん実の熟成のやり方もほぼ同じだろうなと思う。


もう一つ知らなかったのが、デーツは雄株と雌株があり、現代の農園では雄株は数本しか植えられていないということだ。
で、余すところなく受粉させるために人間の手で受粉させているらしい。たわわに実ったナツメヤシの実は見慣れているが、あの「たわわ」具合は人の手を介したものだったらしい。意外と手間がかかっている……。

雌株は、先進国だと試験管でクローン苗を作っているらしいが、アフリカだと、実から育てるか、雌株から派生する子苗の部分を切り離して植える。そのため品質にはバラつきがあるようだ。
ていうかナツメヤシ実はめっちゃ品種があるらしく、種類によっても性質がちょっと違う。
受粉の手間とか要らない枝(子株)は切らないとダメとか、あと害虫の防除とかも含めて、やってることが りんご農家に近い

ナツメヤシは植えっぱなしで実がなるから楽だろ、と思ってたけど実はそうじゃなかった。いや確かに古代では畑のふちにほぼ植えっぱなしだったはずなんだけど。商業化された現代の大量生産大量流通の農業としては、効率的に最大量を収穫するためにかなり手間暇かけていたのだ。全然知らなかった。

あと、ナツメヤシの木でよく見る、葉っぱの上に実がなってるという状態は、実がなりすぎるから枝を人の手で葉っぱの上に押し上げた状態だというのも今日知った。(本来のなり方は、写真の下の、実がまだ緑色になってるほう)

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え、ってことは、古代世界では現代ほど一本にモリモリに実ってる状態じゃなかったってこと…?
茎が折れそうになるほどモリモリなのは品種改良と人の手による受粉のおかげ…?
なんだか色々と知らないことを知ってしまった。でもそりゃあ、何千年も栽培してればやり方だって進化するよね。当たり前か。

この本には、他にもナツメヤシにまつわる神話や、ナツメヤシの学名の由来なども書かれていたが、知りたかったのは栽培方法や利用方法だったので、そこは今回は割愛。気になる人は自分で読んでほしい。
ティグリス川のもともとの名前はナツメヤシ川だったかもしれない、とかの話も載ってた。

知らないことをたくさん知れたので満足。歴史の長い作物の世界は奥が深い。