王家の谷で、まだ見つかっていない王墓は他にあるか?→少なくとも3人の候補がいる
少し前、トトメス2世の墓が見つかったというニュースが流れて盛り上がっていた。この墓自体は2022年に発見されており、このたび確信が持てるようになったのでエジプト政府が発表した。ということのようだが、英語ソースのニュースとか見ていると、日本のニュースで流れて来ない部分もあるので、ちょっとまとめておくことにした。
トトメス2世の墓、新たに発見される。(ミイラはもっと前から発見されている) 今までの候補墓、全部ちゃうかったんかい!
https://55096962.seesaa.net/article/510517626.html
・墓の位置
これは研究者の人がマップ公開してくれてるので、それを見ると早い。
https://www.google.com/maps/d/viewer?mid=1rbQh47y-EW-XwF6eqatKWiWiCYjwyApU&ll=25.736238632780196%2C32.58767171047801&z=15

ワジ(枯れ谷)のCの奥のほう。
写真見ると「あー…これは水没しますわ…」って感じの場所で、実際、周囲には洪水で崩れた跡が白く残っている。
ワジというのは、普段は枯れてるけど雨が降るととたんに鉄砲水が発生する場所なのだ。
一般に「王家の谷」と呼ばれているのは、今回墓が見つかった場所の反対側の谷で、トトメス2世以降の歴代の王たちの墓もほとんどがそちらにある。トトメス2世墓が作って間もなく破壊されてしまったことで、以降の王たちは近くに墓を作ることを諦めたのかもしれない、と言われている。
・他に見つかっていない第18王朝の王たちの墓について
新王国時代の第18王朝以降、王たちは首都テーベの対岸にある「王家の谷」付近に墓を作り始めるのだが、初期の王の何人かはまだ墓の位置が分かっていない。残る「墓の位置が不明」な人たちは以下。
イアフメス ★不明、改葬されたのでミイラは見つかってる
アメンヘテプ1世 ★不明、改葬されたのでミイラは見つかってる
トトメス1世 KV20、KV38
トトメス2世 ○今回発見
トトメス3世 KV34
ハトシェプスト KV20
アメンヘテプ2世 KV35
トトメス4世 KV43
アメンヘテプ3世 KV22
アメンヘテプ4世(アクエンアテン) アケト・アテン→KV55 ※推定
スメンクカーラー ★不明、この即位名を名乗ったのが2人いた説もある
ツタンカーメン KV62
アイ KV23
ホルエムヘブ KV57
初代のイアフメスと次のアメンホテプ1世は、後世に改装されて隠し場所からミイラが見つかっているので、元の墓は確実にどこかにある。(でないとミイラを避難させられないので)
ただし、イアフメスについては、古来からの墓地だったアビドスに埋葬されていたという説もあり、元の墓はテーベ対岸には無い可能性がある。これは、王家の谷周辺への埋葬がいつから伝統になったのか、という議論にも繋がっている。
・トトメス2世の「2つめの墓」があるかもしれないって何?
墓が、作られてから数年で水没して崩壊しているので、それに気づいてどこかに墓を作り直したかもしれない、ということ。
王墓は定期的に巡回して、荒らされてないかなどのチェックをしていたことが、古代の点検パピルスの存在から分かっているので、ハトシェプスト女王や息子のトトメス3世が存命の間に気付いたなら、その時点で別の場所にミイラを避難させていたはずだ。
2つ目の墓を作り直したか、父親のトトメス1世の墓に一時的に一緒にいれるなどしていた可能性はある。いずれにしても、ミイラが腐らずに現存する以上、水没直後に避難はさせていたのだろうとまでは言える。わざわざ2つめの墓まで作ったかどうかは分からないが。
・真のミイラが見つかるかもしれないって何?
「もしも2つ目の墓を作っていたのなら」という前提のもと、その墓から、真・トトメス2世のミイラが見つかるのではないか、と妄想 空想をたくましくした学者がひねり出した説。
実は、現在見つかってるミイラのほとんどは後世に改装されて本人の墓ではない場所で見つかっているので、その時にラベル都立違えたり誤認されたりした可能性のあるものが少なくない。現在ハトシェプスト女王のものとされているミイラでさえ、そう特定されたのは近年のことで、長らく別のミイラがハトシェプストとされてきた。
エジプト王のミイラの名前は実はあってるかどうか分からんという話
https://55096962.seesaa.net/article/201504article_14.html
ただ、今回のトトメス2世はその中でも「ラベルがしっかりついてるので取り違えの可能性は低そう」とされてるミイラである。
そもそも、この推論は、「2つめの墓を作っていた」「他の王たちと違い、2つめの墓から隠し場所に移動させられることなくミイラが放置された」という仮説を元にしており、可能性の高くはない可能性を二段に重ねている時点でほぼ空想物語である。
何度も言っているが、「もし~ならxxかもしれない」の仮説を使う場合は一段まで。推測を二段重ねるとどんな仮説でも「真」になってしまうため、絶対にやってはいけない。
今回でいうと、
(1)トトメス2世の墓は埋葬直後に水没して破壊されたと考えられる ←事実
(2)だがミイラは無事 ←事実
(3)墓を新たに作ったかもしれない ←推測
は妥当な考え方だが、
(1)トトメス2世の墓は埋葬直後に水没して破壊されたと考えられる ←事実
(2)墓を新たに作った可能性がある ←推測
(3)真のミイラはそこに残されているかもしれない ←推測
とか
(1)トトメス2世の墓は埋葬直後に水没して破壊されたと考えられる ←事実
(2)トトメス2世のミイラも別人のものの可能性がある ←推測
(3)王家の谷にまだトトメス2世のミイラが眠っているかもしれない ←推測
になると、(2)と(3)で二段に推測を重ねているのでNG。ヘタな鉄砲も数うちゃ当たるので、二段重ねでも正解することはあるだろうが、それ以外に外した弾数が膨大になるのは確実だ。
可能性を考えてワクワクするのはいいんだけど、可能性を現実のものにしようとして発掘しはじめるとロクなことにはならない。大抵、貴重な遺跡や遺物を破壊して終わることになる。(クフ王のピラミッドにドリルで穴あけた件はどうなりましたか? ツタンカーメン墓にも穴開けようとしてましたがどうなりましたか? …ということ)
****
拾えてない情報は、だいたいこのへんかな…。
まだ調査されていないエリアや発掘中の墓候補はあるため、未発見の王墓や、王族の墓が見つかる可能性はあるが、ミイラが見つかっている王=その墓は既に過去の王朝が空っぽにしている、ということなので、ミイラが現存する王の墓については、きらびやかな財宝が見つかる可能性はほぼ無いと思う。
あとは、新王国時代でも第20王朝にラメセス8世という墓不明の王がいるのと、第三中間期の王たちの墓の位置はほぼ不明なんで、そのあたりが気になる。
トトメス2世の墓、新たに発見される。(ミイラはもっと前から発見されている) 今までの候補墓、全部ちゃうかったんかい!
https://55096962.seesaa.net/article/510517626.html
・墓の位置
これは研究者の人がマップ公開してくれてるので、それを見ると早い。
https://www.google.com/maps/d/viewer?mid=1rbQh47y-EW-XwF6eqatKWiWiCYjwyApU&ll=25.736238632780196%2C32.58767171047801&z=15

ワジ(枯れ谷)のCの奥のほう。
写真見ると「あー…これは水没しますわ…」って感じの場所で、実際、周囲には洪水で崩れた跡が白く残っている。
ワジというのは、普段は枯れてるけど雨が降るととたんに鉄砲水が発生する場所なのだ。
一般に「王家の谷」と呼ばれているのは、今回墓が見つかった場所の反対側の谷で、トトメス2世以降の歴代の王たちの墓もほとんどがそちらにある。トトメス2世墓が作って間もなく破壊されてしまったことで、以降の王たちは近くに墓を作ることを諦めたのかもしれない、と言われている。
・他に見つかっていない第18王朝の王たちの墓について
新王国時代の第18王朝以降、王たちは首都テーベの対岸にある「王家の谷」付近に墓を作り始めるのだが、初期の王の何人かはまだ墓の位置が分かっていない。残る「墓の位置が不明」な人たちは以下。
イアフメス ★不明、改葬されたのでミイラは見つかってる
アメンヘテプ1世 ★不明、改葬されたのでミイラは見つかってる
トトメス1世 KV20、KV38
トトメス2世 ○今回発見
トトメス3世 KV34
ハトシェプスト KV20
アメンヘテプ2世 KV35
トトメス4世 KV43
アメンヘテプ3世 KV22
アメンヘテプ4世(アクエンアテン) アケト・アテン→KV55 ※推定
スメンクカーラー ★不明、この即位名を名乗ったのが2人いた説もある
ツタンカーメン KV62
アイ KV23
ホルエムヘブ KV57
初代のイアフメスと次のアメンホテプ1世は、後世に改装されて隠し場所からミイラが見つかっているので、元の墓は確実にどこかにある。(でないとミイラを避難させられないので)
ただし、イアフメスについては、古来からの墓地だったアビドスに埋葬されていたという説もあり、元の墓はテーベ対岸には無い可能性がある。これは、王家の谷周辺への埋葬がいつから伝統になったのか、という議論にも繋がっている。
・トトメス2世の「2つめの墓」があるかもしれないって何?
墓が、作られてから数年で水没して崩壊しているので、それに気づいてどこかに墓を作り直したかもしれない、ということ。
王墓は定期的に巡回して、荒らされてないかなどのチェックをしていたことが、古代の点検パピルスの存在から分かっているので、ハトシェプスト女王や息子のトトメス3世が存命の間に気付いたなら、その時点で別の場所にミイラを避難させていたはずだ。
2つ目の墓を作り直したか、父親のトトメス1世の墓に一時的に一緒にいれるなどしていた可能性はある。いずれにしても、ミイラが腐らずに現存する以上、水没直後に避難はさせていたのだろうとまでは言える。わざわざ2つめの墓まで作ったかどうかは分からないが。
・真のミイラが見つかるかもしれないって何?
「もしも2つ目の墓を作っていたのなら」という前提のもと、その墓から、真・トトメス2世のミイラが見つかるのではないか、と
実は、現在見つかってるミイラのほとんどは後世に改装されて本人の墓ではない場所で見つかっているので、その時にラベル都立違えたり誤認されたりした可能性のあるものが少なくない。現在ハトシェプスト女王のものとされているミイラでさえ、そう特定されたのは近年のことで、長らく別のミイラがハトシェプストとされてきた。
エジプト王のミイラの名前は実はあってるかどうか分からんという話
https://55096962.seesaa.net/article/201504article_14.html
ただ、今回のトトメス2世はその中でも「ラベルがしっかりついてるので取り違えの可能性は低そう」とされてるミイラである。
そもそも、この推論は、「2つめの墓を作っていた」「他の王たちと違い、2つめの墓から隠し場所に移動させられることなくミイラが放置された」という仮説を元にしており、可能性の高くはない可能性を二段に重ねている時点でほぼ空想物語である。
何度も言っているが、「もし~ならxxかもしれない」の仮説を使う場合は一段まで。推測を二段重ねるとどんな仮説でも「真」になってしまうため、絶対にやってはいけない。
今回でいうと、
(1)トトメス2世の墓は埋葬直後に水没して破壊されたと考えられる ←事実
(2)だがミイラは無事 ←事実
(3)墓を新たに作ったかもしれない ←推測
は妥当な考え方だが、
(1)トトメス2世の墓は埋葬直後に水没して破壊されたと考えられる ←事実
(2)墓を新たに作った可能性がある ←推測
(3)真のミイラはそこに残されているかもしれない ←推測
とか
(1)トトメス2世の墓は埋葬直後に水没して破壊されたと考えられる ←事実
(2)トトメス2世のミイラも別人のものの可能性がある ←推測
(3)王家の谷にまだトトメス2世のミイラが眠っているかもしれない ←推測
になると、(2)と(3)で二段に推測を重ねているのでNG。ヘタな鉄砲も数うちゃ当たるので、二段重ねでも正解することはあるだろうが、それ以外に外した弾数が膨大になるのは確実だ。
可能性を考えてワクワクするのはいいんだけど、可能性を現実のものにしようとして発掘しはじめるとロクなことにはならない。大抵、貴重な遺跡や遺物を破壊して終わることになる。(クフ王のピラミッドにドリルで穴あけた件はどうなりましたか? ツタンカーメン墓にも穴開けようとしてましたがどうなりましたか? …ということ)
****
拾えてない情報は、だいたいこのへんかな…。
まだ調査されていないエリアや発掘中の墓候補はあるため、未発見の王墓や、王族の墓が見つかる可能性はあるが、ミイラが見つかっている王=その墓は既に過去の王朝が空っぽにしている、ということなので、ミイラが現存する王の墓については、きらびやかな財宝が見つかる可能性はほぼ無いと思う。
あとは、新王国時代でも第20王朝にラメセス8世という墓不明の王がいるのと、第三中間期の王たちの墓の位置はほぼ不明なんで、そのあたりが気になる。