「アララト山の調査で海洋生物の痕跡が見つかった!大洪水の証拠だ!」→そこ昔は海だっただけでは…?

何年かに一度、定期的にニュースサイトに取り上げられる話題に、「アララト山にあるノアの方舟の遺構」というものがある。
たまたま船の形に見えなくもない地形Durupınar site(ドゥナピル遺跡/構造、実際には遺跡ではない)があり、地質学者が「これは自然の造形ですよ」と言ってるにもかかわらず、人工物と言い張ってノアの方舟の存在を証明しようと頑張ってる聖書原理主義者がいるのである。

で、今回は、「現場から岩石と土壌のサンプルを収集したところ、粘土のような物質、海洋堆積物、軟体動物を含む海産物の残骸の痕跡が見つかった。これは洪水の証拠と見なされる」という内容が流れていて、アチャー・・・・・・となった次第。

東スポ的ポジションのデイリーメールが食いついてたら、「ああ、うん」と察するところ。

Has Noah's Ark been found? Boat-shaped mound in Turkey was underwater 5,000 years ago, scientists say - the same period as the Biblical flood
https://www.dailymail.co.uk/sciencetech/article-14481057/Noahs-Ark-Boat-discovered-Turkey.html

情報源を辿っていくといつものところに行き着いた。

Mount Ararat and Noah's Ark research team discovers marine fossils suggesting ancient flood
https://www.jpost.com/archaeology/archaeology-around-the-world/article-845277

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一般常識として、山の上から海洋生物の痕跡や海底堆積物が見つかった場合、地形が変化して、かつて海だった場所が山になったと考えるべきである。
有名な事例としては、エベレストに山頂から見つかる古代の海洋生物がある。そして日本でも、いま日本にある山の大半はかつて海底だったことが知られている。火山の噴火などで埋もれていることが多いので、痕跡がそう簡単に見つからないだけで、地層が露出してれば山の中からでも海洋生物の化石は出る。
大洪水を想定するまでもなく説明出来てしまうのだ。いやーいまどき子ども騙しのオカルト雑誌でも、この理屈はないっすわー。

この発見では年代を聖書で大洪水があったと考えられている5000年前くらいと設定しているようだが、さすがにそれは年代の誤認だろう。もし本当にこんな新しい年代だったとしたら、見つかったという海洋生物の種類まで特定できる可能性が高い。写真出してみ? と言いたいところ。

ここが伝説のノアの方舟だと信じている人は、聖書に書かれている内容と一致する! と散々言うのだが、普通に考えると、この地形を知ってた昔の人が、地形を元に伝説を作ったのだろう。史実として伝説の出来事が起こった証明にはならない。
また、こんな何の証明にもなってないものを定期的にニュースに載せるのは、支持者の関心を集めて寄付金を募るためなので、正直こんなロマン詐欺ムーブに乗っかる日本のメディアもどうかと思う。

日本人で信じる人はチープなオカルト好きな人くらいだと思うが、それでも、海外では一定数、こんな与太話を信じている人が見受けられる。宗教とか信仰がらみになると突然理性が蒸発する学者もいるし…。
毎回反論してるまっとうな学者さんたちが大変そうである。
お疲れ様です。


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聖書原理主義者界隈、このくらいのすぐツッコめる調査で寄付金集めしてるだけならまだいいんだけど、富裕層も多いので、カネに任せてテロリストが盗掘した遺物を買い漁るなどの問題も起こしている。なので、単なるオカルトなら好きにしろとも言えない事情がある。

聖書博物館のやらかし、またも発覚する。エジプトとイラクから不正に持ちだされた盗掘品の返還
https://55096962.seesaa.net/article/202101article_25.html

今回のアララト山の調査も、イスラエルとトルコで組んでやっているようなのだが、そもそもアララト山はトルコとアルメニアの帰属問題で揺れているところ。トルコを調査に参加させることで、イスラエル側はアララト山の実効支配権を暗に後押ししているのではないかとも思われる。
何度も言っているが、考古学ジャンルは、とかく政治に利用されやすい分野なので、なんか変な調査報告が出てきた時は、遺跡の位置と周辺の政治状況は軽くチェックしておくのをオススメする。