古代エジプト・民衆にとっての宗教観「古代エジプト人の祈り 信仰のエジプト学」 

新刊情報眺めてたらよさげなのがあったので、さっそく手に取ってみた。似たテーマの本で「古代エジプトの埋葬習慣」を出しているのと同じ著者のエジプト本。王や貴族、上流階級ではなく、古代エジプトの一般庶民たちはどういう民間信仰をしてたのか、というテーマの本である。

古代エジプト人の祈り―信仰のエジプト学 - 和田 浩一郎

古代エジプト人の祈り―信仰のエジプト学 - 和田 浩一郎

(031)古代エジプトの埋葬習慣 (ポプラ新書) - 和田 浩一郎
(031)古代エジプトの埋葬習慣 (ポプラ新書) - 和田 浩一郎

↑ニ冊セットで読むと面白いかも

民間信仰なので、たとえば庶民の墓に収められている護符の傾向とか、「おまじない」に似た呪文、日本でいうところの神棚に相当する庶民の家庭の祭壇や、面白いところでは神殿の壁や古くなった神像を削り取る習慣について出てくる。

この、神殿の壁とか神像を削り取って持ち帰る信仰は、以前エジプトに行った時、カルナック神殿やデンデラ神殿で実際に見た、
現代エジプトではさすがに遺産を削り取ることはしていないが、かなり近代までやっていたらしく、面白いなあと思っていたのだ。で、神殿が放棄されたあとの痕跡が多いのかと思ったらどうもそうではないらしく、削り取られている場所の傾向から、神殿が現役の時代にも、神殿スタッフが場所を限定して巡礼者に削らせてたかもしれないらしい。
神像の刻まれている部分に近い石が得にご利益を得られると見なされていた傾向も見られるらしい。

石に像を刻むだけで力が宿るという発想は、日本でいうと、自然石に地蔵さんとかを掘り込んで聖化する感覚に近いのかもしれない。
概念的には共通してる部分もありそうで、違う部分もある。

あと、突発的な雨などで砂漠の中に出来た滝や水たまりを信仰対象とする話。枯れ谷の奥の水が溜まりやすい部分に願掛けに行くっていうのも砂漠の国ならではだなあと思った。上流階級なら立派な神殿でお参りするけど、地方の民衆だと地元に設定した神聖な場所にお参りに行くしかない。村や町の数だけ信仰の場所があったのだと思う。

巻末にイシス女神がラー神の真の名を聞き出して力を得る神話と、不吉な日とされる年末の加護に関する呪文もあるのでオススメ。
古代エジプトの吉兆カレンダーについては去年、記事をつくってるのでこちらを参照。

古代エジプトの「大安吉日」。365日分の吉兆カレンダーあるよ!
https://55096962.seesaa.net/article/504874545.html

呪詛についての記述もあったが、古代エジプトの呪詛については呪詛特化の本も最近出てる。

今夜あなたと呪詛したい。キリスト教時代の「古代エジプト神の出てくる呪詛」についての覚書き
https://55096962.seesaa.net/article/502210615.html

地味なポイントなんですが、この本、本文に入ってる※の注釈から参考・参照した論文や参考文献に飛べるんですよ。これがいい。
というか一般書だと巻末にまとめて参考文献書いてあるだけで、本文のどこの部分と対応してるのか分かりづらいのもあるんで…。
索引も完備されてるので、一般書ながらマニアや研究者も使いやすい心配りがあるのが嬉しかったですね。助かる。

いい感じにバランスよく楽しめる本でした。